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「アリちゃんおめでとう、白雪姫!」
五分の休憩を挟んで、各班の班長の元、今後の部活動についての話し合いが行われることになった、その休憩時間に美緒莉がアリーシャにお祝いの言葉と共に抱き着いてきた。
日本人はスキンシップをあまりしないというが、女子高生同士だと抱き着くくらいのスキンシップは割と行われると、アリーシャは日本に来てから初めて知った。
「美緒莉、ありがとう。私、ほんとうに、白雪姫」
美緒莉からのハグに、アリーシャもハグで返した。
声が震えているのは自分でもわかるくらい、未だ動揺していた。
「そうだよ。ちゃーんと実力で取った白雪姫だよ」
「実力。ちゃんと、私の力で」
ハグをした美緒莉から離れ、アリーシャは凛子の言葉を噛み締める。
まだ実感は湧かないが、これからアリーシャは白雪姫として舞台の練習をすることになる。
「おつかれーい。アリーシャ、主演決定おめでとう」
先程まで部長として場を仕切っていた冴も、休憩時間を使ってアリーシャの所へやってきてくれた。
冴の顔を見たアリーシャは、少しだけ脳裏に浮かんでいたことを思い切って聞いてみることにした。
「冴、私本当に投票で一番だったの? 五十嵐さんとか歌が上手だったし、千種も凄く頑張ってたし」
投票結果がきちんと発表されていない分、アリーシャの脳裏にはどうしてもその疑問が尽きなかった。
美鈴も千種も、間違いなく努力をしていた。
少なくとも、発表された結果に涙を浮かべるくらいには。
「確かに私個人としてはアリーシャを応援してたけど、部長としては一切不正をしていないよ。ただね、票数を言うとおかしなことになると思ってさ」
「おかしなことになるって?」
一緒に話を聞いていた凛子が冴の言い様に首を傾げた。
おかしなことというのは一体どういったことなのだろうか、アリーシャにも見当がつかなかった。
「結果から言うと、アリーシャと長江さんが二票差、五十嵐さんは三票だけしか入っていなかった」
「ええっ」
「はあ、なんでそこまで差が出たのさ」
「それは確かにおかしなことになってる!」
あんなに見た目が可愛くて、歌がとても上手で、演技だって失敗せずにやり遂げた美鈴の票が三票。
前に美鈴が部員に頭を下げてお願いしていたのを見たという話もあった。
お願いしていた内容は、投票のことだったのではなかったのだろうか。
それともまさか、虐められていて、それで頭を下げていたとか、そういう話なのだろうか。
そう言えば内気そうな性格だし、何も言い返せずにずっと耐えていたのかもしれない。
お妃様の役に決まった時も、顔を覆って泣いているように見えた。
まさか、本当に虐めなのか。
アリーシャは胸に渦巻く憤りで、気分が悪くなりそうだった。
「これに関しては私が悪いんだけどね。五十嵐さんはさ、白雪姫をやりたかったわけじゃなかったのよ」
「ん。どういうこと?」
アリーシャの胸に渦巻いていた負の感情が、冴の言葉で霧散した。
「白雪姫のオーディションに落ちたら、台詞の多い小人やお妃様の役を優先的に選ばせるって話をしたじゃん」
「あー。まさかお妃様志願だったの?」
冴の言葉の先を察した凛子が苦笑しながらそう言った。
「そ。だから立候補者が二人になった途端、慌てて手を上げたんだって。お妃様役を取られないように」
冴も個人面談を行ったときに初めて知り、どうしたものかと考えていたのだという。
「でもせっかくこういう機会を設けたわけだし、白雪姫に受かってもお妃様をやらせてあげるから、本気で演技頑張ってみなって言ったの。アリーシャや長江さんにも、いいライバルになると思ったし、アリーシャや長江さんが落ちて、お妃様をやりたいと言わないとも限らなかったしね」
アリーシャとしては、落ちた時の選択肢に悪役が全く入っていなかったので、そっちのライバルにはなりえなかったが、理由を説明されると、最初美鈴の元気がなかったのも頷けた。
「でもやっぱり、白雪姫はちゃんと皆の投票で決まるべきだって思っていたらしくってさ、部員の皆に自分には票を入れないでって、できる限り事情を説明して回ってたみたいなのよ、いい子だよね。だから、事情を知らない人の三票だけが入ったってわけさ」
「あー、あの頭下げてたのってそう言うことだったのか」
「ってか、あの時もうさえちゃん知ってたんじゃん。教えてくれてもよかったのにー」
「せっかくアリーシャのライバルとしてやっててくれたんだから教えないよー。まあ長江さんは五十嵐さんに言われて知っていたみたいだけど」
教えてくれてもよかったのに。
アリーシャは冴にも千種にも美鈴にもそう思ったが、まあ結果的には良かったのかもしれないと思い直した。
「だからまあ、さっき五十嵐さんが泣いていたのは、勝利の涙ってわけよ」
そう言われて思い返してみれば、確かにアリーシャが白雪姫役に決まった時に泣いていたのではなく、美鈴がお妃様と決まった時に、アリーシャが白雪姫と決まった時のように泣いていたと気づいた。
美鈴になんて声をかけるべきか悩んでいたアリーシャは、事実を知って安堵のため息をついた。
美鈴が本気で白雪姫を目指していた場合、アリーシャは勝てていたのだろうか。
それについて考えるのは不毛だが、確かにあの見た目がとても白雪姫の美鈴に、何かしらの方法で勝ちたいと努力して足搔いていたのは事実なので、本当に結果的にはよかったのだろう。




