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舞台のど真ん中に、段ボールで出来た投票箱をどんと床起きした冴は、首を少し傾げてから、何か一人で納得して頷き、段ボールの底のガムテープを剥がして箱の中身を空けて振った。
「一応不正確認ねー」
箱の中身が空であることを全員に確認させた後、剥がしたテープを戻そうとしたが、粘着力がなくなっており、後ろから音響の片づけをしていた真由美に叩かれ、真由美の持ってきたガムテープで再度補強され、そうして投票が開始された。
投票はその後すぐに終わり、冴が集計のため箱を持って体育館の隅に移動したので、部員たちはしばしの自由時間となった。
集計には真由美も立ち会っており、二人での作業となっているようだ。
「アーリちゃん」
「大丈夫? 緊張してる?」
緊張で胸を押さえていたアリーシャの元へ、美緒莉と凛子がやってきて声をかけてくれた。
いつも通りの二人の表情を見て、アリーシャは少しだけ緊張がほぐれたような気がした。
「大丈夫。緊張はしているけど、後は結果を待つだけだしね」
肩の力を抜いて周囲を見て見れば、千種も美鈴も友達と雑談しているようだった。
「アリちゃん演技凄かったよ。かっこよかった」
「うんうん、歌も全然違和感なく歌えてたじゃん。練習した甲斐があったじゃんね」
「本当?! そうかなそうかな、私ちゃんとやれてたかな?」
二人の手放しの称賛に、アリーシャのテンションは上昇した。
練習は真由美が見ていてくれていて、その際にアドバイスをされることはあっても、褒められることは、なくはなかったが、淡々としていたので、こうやって手放しに褒められるのは非常に嬉しかった。
「ちゃんとやれてたよー。一年生も凄かったけど、アリちゃんの方が堂々としていた感じがしたし」
「身内贔屓があるかもしれないけど、あたしもアリーシャが一番良かったって思ったよ。声がちゃんと通ってたし」
二人のその言葉だけでも、頑張った自身の努力が報われたような気がした。
「ありがとう。凄く嬉しい」
気を抜いたら泣いてしまいそうになりながら、アリーシャは二人の友達にお礼を言った。
「はーい、全員その場でいいので注目ー。投票の集計が終わったので、十一月の文化祭での配役発表に参りまーす」
いつの間にか集計を終えていた冴が、体育館の端から中央に戻ってきていた。
集計を手伝っていた真由美は、少し離れたところで待機している。
冴は手にしたメモを確認しながら話を続けた。
「まず投票の結果ですが、具体的に票数や順位は発表せず、決まった役のみ発表します。これは参加者への配慮で、結果を隠しているわけではないので、不正を疑うのなら投票用紙と集計結果は暫く保存しておくので、後で確認しに来るように」
冴の言葉を聞いて、アリーシャは確かになん票差で負けたとか、自分には何票しか入らなかったとか、順位がビリだったとか、そんなことを言われたら落ち込んで引きずる自信があったので、その配慮はありがたいと感じた。
「では、先程の結果から。白雪姫」
さらっと発表に移行してしまったのを聞いて、アリーシャは慌ててその場で手を組み目をぎゅっと瞑って祈った。
数秒にも満たない時間、アリーシャはその間、変な汗はかくし、息は上手くできないしで、もう少し時間をくれてもいいのにと、心の中で冴に文句を言って、その間に主演の発表は終わっていた。
「アリーシャ、おめでとう。頑張って」
冴と目が合い、小さな微笑みと共にそう言われた瞬間、アリーシャの胸の奥から歓喜という感情が沸き上がってきた。
今度こそ泣いてしまいそうで、両手で顔を覆った。
耳が遠くなったかのように、周りの音が聞こえにくくなって、代わりに自分の心臓の音がうるさいくらいに聞こえた。
白雪姫、本当に? 私が、投票で選ばれた?
一つずつ事実を噛み締めるのに時間をかけている間にも、他の配役の発表が続いていた。
「長江 千種。七人の小人でリーダー役をやってもらう。台詞が多い役になるけど、覚えるのが早かった長江さんなら問題なく出来ると思う、よろしくね」
「はいっ」
アリーシャと同じく白雪姫を目指していた千種は小人役になった。
元気よく返事をしていたが、その声は涙声になっていた。
アリーシャは千種が努力をしていたのを知っているため、その涙が少し辛かった。
「残りの小人は、関田 凛子、川嶋 侑奈、朝倉 琴葉、平野 舞、前田 百花、大嶋 花音、の六人で、誰がどの役をやるか話し合って決めるように。全員、何かしらの役をやってみたいと希望していた中で、元気がいい子を選んだつもりなので、期待しているよ」
はいと、冴の選んだ元気のいいグループの返事が重なって返ってきた。
「良い返事だ、次」
皆の返事を聞いて、アリーシャは今更ながら自分が白雪姫に選ばれた際に返事が出来ていなかったことに気が付いた。
後悔をしながら頬に両手を当てながら話を聞いているが、そもそも本当に白雪姫役は自分でよかったのか、本当に名を呼ばれたんだっけかな、なんていう歓喜と興奮のあまり、前後の記憶を疑うまで混乱していたので、返事をする余裕なんて元々なかったわけではあるが。
「白雪姫の継母でお妃様役を五十嵐 美鈴。大役なのでしっかりやるように」
「っはい」
返事をした美鈴の声は震えていた。
その返事を終えた美鈴はそのますぐに両手で顔を覆って蹲ってしまった。
美鈴とはあまり話せなかったが、アリーシャと同じく白雪姫の立候補者だった。
同級生の部員に頭を下げていたという話も聞いたし、先程の歌声は本当に美しく圧巻された。
アリーシャはこの後、千種と美鈴の二人になんて声をかければいいのだろうか。
どんな形になろうとも、ちゃんと話しておきたいと感じた。
「狩人役、小林 颯真。台詞は少ないが、立ち回りが大事な役だ。頼んだよ」
「はい」
「そして語り部を倉沢 樹。グループ練習で長文暗記がダントツだと複数人からの推薦があった、期待に応えてやれ」
「うえぇっ?! が、頑張ります」
驚きの声を上げたのは、以前アリーシャがグループ練習に入れてもらった際、ずっと探偵の推理ショーをやっていると言っていた一年の男子だった。
「最後。ずっと打診をかけている王子役だが、誰も了承してくれないので、絶賛募集中です。自分に声をかけないとは見る目がないなというクレームも、一度打診を断ったけれどやってみたいという自己申告も受け付けていますので、是非立候補してくれるように」
そもそもの話、演劇部の男子は少ないのだが、まさかの王子不在だった。
「次、衣装班。班長を二年生花森 美緒莉として、重倉 夏海、佐々木 果帆、大沢 美月、新井 史織の五名、大道具・小道具班は、今ここにいない二年の清水 悠紀を班長に大村 陽太、井野 治伸の三名で、英会話部の助っ人と一緒に作業をしてもらう」
こうして冴の采配により、演劇班、衣装班、大道具・小道具班と分けられ白雪姫オーディションの幕は閉じた、
「今後の部活は、それぞれの班の班長指導の元、練習や作業に入ってもらう。大道具・小道具班は今日は私とミーティングだ。演劇班の班長は、そこの佐藤 真由美ね」
「はーい。よろしく」
「それで一応演劇部なので、週に一度、金曜日だけはどの班も今までやっていたようなグループ練習をやるので、そちらにも参加してください。来年は別の劇をやるだろうし、今年も当日、誰かが風邪とか引いたら代役もあり得るので、練習はしっかりやっていきましょう」
冴の言葉に、部員の揃った返事が返ってきたところで、一度自由時間となった。




