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「まずオーディションですが、候補者の三人はくじ引きで決めた順番通り、同じ演技をやってもらうことになっています。皆はそれを見て、誰の演技が一番良かったかを決め、投票用紙に書かれている名前にチェックを入れて投票を行ってください。投票箱は演技が終わったら持ってくるので、それまで投票用紙は各自持っていてください」


オーディション参加者のアリーシャには投票権がないので用紙は持っていないが、どうやら既に名前が書きこまれてあるタイプの投票用紙のようだ。


「投票が終わったら即集計するので全員そのまま待機。集計が終わったら結果をすぐに発表して、その後その他の配役発表も行います」


(さえ)の言葉に今まで静かに話を聞いていた部員たちがざわついた。

結果発表から他の配役発表まで、そんなに早く決まってしまうのかという戸惑いと期待が混ざり合ったような雰囲気に感じられた。


「配役に関しては、今までの面談の結果と取り組みが反映されるので、期待して待つように、以上。何か質問はあるかな」


(さえ)は質問を促したが、暫く待っても誰からの質問も来なかったため、そのまま話を続けた。


「質問がないようなので早速始めます。最初は一年の長江さんから。準備が出来次第始めるので、静かに待つように」


そう言い切ると(さえ)は舞台の真ん中から真っすぐ歩いて去って行った。

折角舞台として用意しているのだから、端からはけてくれればいいのにと、アリーシャは心の中で(さえ)にクレームを入れたが、最初の出番を待つ千種(ちぐさ)の邪魔をしないように出て行ってくれたのかもしれないと思い直した。

最初に演技を控えている千種(ちぐさ)は、舞台袖とされている場所で静かに深呼吸をし、そして音響を担当している真由美(まゆみ)に視線を向けて頷いた。

真由美(まゆみ)もそれを受けて頷き返すと、慌ただしい音楽が流れ始めた。


舞台の始まりは、狩人から逃げろと言われ、暗く恐ろしい森を白雪姫が逃げ惑うシーンから始まる。

そうして舞台の横幅を使って走り回った後、中央に落ち着き、どうしてこうなってしまったのかと嘆き、それでも暗くなってしまった自身の考えを叱咤し、自分を励ました後、「いつか王子様が」を歌う。

そうすることによって沈んでいた気持ちが明るくなり、暗いと思っていた森から木漏れ日が溢れ、視線の先に小さな家を見つけて歩き出す。

そこまでのシーンを演技することになっている。

音楽と共に千種(ちぐさ)の演技は、少しの緊張感から始まったが、歌が始まる頃にはいい感じに緊張も解け、最後の家を見つけたシーンの笑顔に、アリーシャはなんだか感動して、ちょっと泣きそうになりながら拍手を送っていた。

演技を見ていた他の部員たちからも、盛大な拍手をもらって退場した千種(ちぐさ)のいた舞台に、(さえ)はまた適当な場所から入ってきた。


「はい、一年の長江 千種(ちぐさ)さんでした。ありがとう。では、次は二年生のアリーシャさんの演技になります。また準備が出来次第入るので、静かに待っていてください」


(さえ)がそう言って舞台から降りると、拍手は止み、体育館に静けさが戻った。

アリーシャは目を(つむ)り、深呼吸をして、そしてゆっくり目を開けた。

音響を担当してくれている真由美(まゆみ)へ向かい、千種(ちぐさ)に倣って頷くと、真由美(まゆみ)も笑顔で頷き返してくれ、そして音楽が始まった。


狩人に逃げろと言われ、森を全力で走った白雪姫。

そんな彼女に負けないくらい、アリーシャの心臓は早鐘を打っていた。

森の中を彷徨(さまよ)う表現は役者に任せられており、この辺りは全員が違う動きとなる。

先程の千種(ちぐさ)の演技は素晴らしかったし、見る側としたらあれが基準となる。

自分の演技はどう見られているのだろうか、やりたいことはちゃんと表現できているだろうか。

不安と緊張でいっぱいいっぱいだった。

だがそんな折に、兄の言葉が蘇ってきた。

受かった時は受かった時、落ちた時は落ちた時に考える。

そう、アリーシャが今考えなければならないのは、今、この瞬間のことだけだ。

千種(ちぐさ)の演技を超えるだとか、美鈴(みれい)の歌が凄いとかじゃなく、アリーシャがどれだけ白雪姫を表現できるのか。

アリーシャは自分の中の理想の白雪姫と向き合い、演技を行い、そして歌を歌い切った。

最期は千種(ちぐさ)のように、やり切った笑顔で退場が出来たとのだと思う。

響いた拍手に達成感を感じて、アリーシャは舞台袖とされている場所で小さく拳を握った。


「はい。二年生アリーシャさんでした。ありがとう。では最後、一年生の五十嵐 美鈴(みれい)さんになります。準備が出来たら入ってくるので、皆も静かにお待ちください」


(さえ)がもう一度舞台に上がりそう言って去って行った。

そのまま皆の拍手が収まり、静かになった頃に美鈴(みれい)の演技が始まった。

美鈴(みれい)の演技は、勿論練習の甲斐あってちゃんと仕上がっていたが、何より歌声が素晴らしく、そこに圧巻されたという印象が強かった。

高音に長く伸びる声、誰よりも体育館中に響いた歌声に、アリーシャは心の中で静かに、これは負けたのではないかと思ったくらいだった。

そうして拍手で終わった美鈴(みれい)の演技の後、(さえ)が箱を持って戻ってきた。


「はーい、それでは今から投票を行います。一番いい演技をした人の所にチェックを入れて、前に置いた箱の中に票を入れてください」

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