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千種と行った反省会の後、何回かの練習を挟んで、アリーシャは与えられた課題をそつなくこなせるようになった。
千種もあれから弱音を聞いていないので、おそらくアリーシャと同じように本番に向けて仕上げてこれているのだろうと思う。
お互い、後は本番で成果を発揮するばかりである。
オーディションは明日へと迫っていた。
いつも通りの部活を終え、オーディションの練習も躓くことなくこなして、アリーシャは何でもないような顔をして家へと帰ってきた。
そうして与えられた部屋に帰ってくると、荷物を落とすように置き、ベッドに顔面から倒れこんだ。
明日の放課後、アリーシャは白雪姫になれるかどうかが決まってしまう。
かつて感じた受験の時のような緊張感が、アリーシャの胸の中で爆発してしまいそうだった。
もしオーディションに落ちてしまったらどうしよう。
千種が白雪姫に決まった時、アリーシャはきちんと祝えるのだろうか。
暫くの間、そうしていろいろ悪いことを考えて落ち込んでいたら、階段を上がってくる足音がアリーシャの耳に届いた。
ホームステイ先のホストブラザーが、大学から帰ってきたようだ。
アリーシャは飛び起き、部屋の扉を開け、階段を上りきったところにいた兄に、何か、何か声をかけようととりあえず口を開いた。
「おかえり」
「お、おう、ただいま。アリーシャ、髪すげーことになってるぞ」
戸惑ったように言う兄の言葉に、アリーシャの気持ちはもう一段階落ち込んだ。
アジア人の髪と違って、すんなりいうことをきかないのだ、この髪は。
***
「なーるほどなー」
二階にあるオープンスペースに座り込み、アリーシャは兄の彰浩に、今の胸の内を打ち明けた。
上手に言葉にできない胸のもやもやを、彰浩は急かすことなく聞いてくれて、これが年上の男性かと、アリーシャは彰浩の態度に少し感動したが、ちょっと前に髪について言われたことを思い出して、その感動は打ち消された。
「俺はさー、主役やったことないんだよね。いつも脇役で、でも結構楽しいのよ、脇役。主役のようなプレッシャーもないしさ」
確かに兄はこの間の学園祭で、最後の方にしか出番がない脇役をやっていたが、それに対して不満はないようだった。
「でもやっぱり演劇部に入ってくるやつらはさ、大体が主役やりたくて入部してんのね。そうするとオーディションもあるし、一回も主役やれずに卒業しちゃう先輩も出てくるわけよ」
「そういう時ってやっぱりもめたりするの?」
「もめたりはしないかなぁ。へこんだりはしているけど、しばらくしたら立ち直って、ちゃんと練習に参加しているし、主役になれなくても出番はあるからさ」
「そっか」
他に出番がある。
アリーシャは兄の言葉にそうだと頷いた。
頷いてはみたが、心は落ち込んだままだった。
白雪姫になれなかったら、他の役をやることになる。
自分はそこから、白雪姫になった誰かを見なければならない。
アリーシャはその時、笑顔でいられるのだろうか。
「アリーシャ」
落ち込んで俯いてしまったアリーシャを見て、彰浩がアリーシャの名を呼んだ。
呼ばれたアリーシャは顔を上げ、そちらを向くと、彰浩は両手の指を自身の左右の口角に当てて、押し上げるようにして笑顔を作っていた。
「はい、アリーシャ笑って。笑顔笑顔」
「ええ、いきなり何」
「アリーシャは明日、白雪姫をやるんだろ。白雪姫は継母に虐められた時も、狩人に殺されそうになった時も、そーんな暗い顔はしなかっただろう」
「それは、そうかもしれないけれど」
「落ちた時は落ちた時、受かった時は受かった時に考えな。どうせ今考えたって結果はわからないんだから、今は明日白雪姫になることだけを考えて、コンディションを整えておきな。じゃないと、暗い顔のまま白雪姫をやることになって、後悔することになるよ」
そう言って口角を指で上げる兄の顔を見て、アリーシャは自然と声を出して笑ってしまった。
「アニメの、ちょっと頭の悪い主人公みたいなこと言うじゃん」
「人生の大事なことは、アニメや漫画が教えてくれる。理に適ってたってことだな」
誇らしそうに胸を張る兄を見て、アリーシャはとりあえず彼の言うように、受かるとか落ちるとかという話を、後回しにすることにした。




