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「本当にさ、意外と頭使うんだよね。あそこに行かなきゃって思いながら台詞言うじゃん。そうするとさ、口から違う言葉が出てきそうになるんだよね、マジわかる」
舞台での練習の後、凛子の仕切るグループ練習に合流し、先程のやらかしを愚痴ると、凛子もそういうことがあると同意してくれた。
「俺もこの間、相手の台詞言いましたからね。しかも動きなしで、台詞だけの練習で」
「本当、犯人が推理ショー始めた時はびっくりしたよぉ」
同じグループ練習に参加している一年生たちも、似たような失敗をしているようで、アリーシャの失敗に共感してくれた。
ここのグループは探偵の推理ショーパートだけを配役を変えて順番にやっていたせいで、自分の台詞がないシーンが続いた後の台詞で、今やっていた役と以前やっていた役を間違え、犯人が探偵の台詞をとってしまうという事故が起きたのだそうだ。
「名付けて、犯人は俺だったじゃん事件です。めっちゃ恥ずかしかったっすけど、今となっては笑い話なんで、次失敗しなきゃいいんですよ、次」
「何を偉そうにー」
「そうだよー。あの時、あれ私間違ったってすごく焦ったんだからね」
なんだかんだ言って和気藹々と楽しそうに話す一年生たちを見て、アリーシャの口角が上がる。
「まあ次と言わず、本番失敗しなきゃいいのよ。うちらはさ、演劇なんて初心者なんだし、練習の間くらいいっぱい失敗しときなって、な」
凛子はそう言って、アリーシャの肩を軽く叩いて元気づけてくれた。
そうしてグループ練習に加わって終わった部活の帰り、今日の練習で同じく歌唱の練習を初めて行った千種が、動きを意識したせいで歌唱が頭から抜け、歌えず終わってしまったと泣きついてきたのを、慰める立場となった。
学校にある自販機で、アリーシャが二人分のココアを買って、千種と二人並んで部室棟の端に座り込み、熱い缶を握りながら、今日の練習の失敗と反省を、二人でぽつぽつ話始めた。
「私、連休中。これでも自分なりに練習してきたんです。でも今日動きを意識しすぎて、全然歌えなくって。こんなはずじゃなかったのにって思っちゃって、すごく悔しくって」
「千種の気持ち、痛いくらいわかるよ。私も全然動けなかったもん。歌と動き、どっちかに集中しちゃうと、どっちかが疎かになるんだね」
「アリーシャ先輩もですか? でも、今日落ち込んで体育館の隅っこにいた時、先輩の歌声聞こえてきましたよ」
「私はね、立つのを忘れたの。次はね、ダンスの振り付けだと思って歌と動きを一緒に覚えようと思ってる」
「それ。凄く頭いいですね、私も真似していいですか?」
こうやって何度か話をするうちに、千種のことは名前で呼べる仲になっていた。
同じ役を競い合うライバルだというのに、こうして仲良くなっていくのは、なんだか不思議な気持ちではあるが、嫌な気分ではなかった。
「私の愚痴につき合わせちゃってごめんなさい。ココア、ごちそうさまでした」
アリーシャは先輩として、初めて後輩にジュースを奢ってしまった。
ライバルとして千種の気持ちは痛いほどわかった。
だからアリーシャは、今日は先輩として、自分なりの工夫やアドバイスを千種と話した。
敵に塩を送るなんて言葉が日本にはあるが、つまるところアリーシャは、よき先輩として、良きライバルと、正々堂々勝負できたらと思っているのだ。
去って行くライバルの後姿を見送って、アリーシャも帰路についた。




