表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/69

61

「アリーシャ」


そうやって楽しく後輩たちと部活に励んでいたアリーシャに、遠くにいた(さえ)から声がかかった。


「舞台の順番、開いたから練習するよ」


アリーシャの近くまでやってきてそう伝えると、またすぐ元来た場所へ戻って行った。

アリーシャは、先程まで一緒に練習をしていた侑奈(ゆうな)と後輩たちに断って、その背中を小走りで追いかけた。

先程まで完全にリラックスして、柔らかな気持ちでいたが、これから始まるオーディションの練習を前にして、アリーシャの心にピリッとした緊張感が走った。


舞台の位置は、小さな三角コーンが置かれて場所取りされており、先程まで発表順が最初の千種(ちぐさ)が練習していたようだ。

舞台練習には部長の(さえ)と台本担当の真由美(まゆみ)が付き合ってくれるようだ。


「お疲れ様、アリーシャさん」


「あ、お疲れ様です」


真由美(まゆみ)は仮設置された部隊が見やすい位置に立っており、アリーシャが来たのを確認すると挨拶をしてくれた。


「今日はまず台本を持ちながらで良いから、演技に合わせて動いてみることをお勧めしているの。意外と舞台って狭いようで広いから、一歩の距離感とか、中心までどう動くとか、そう言うのを考えながら動いてみて」


真由美(まゆみ)に促され、アリーシャは仮設置された舞台へ歩を進めた。

足元を見て見ると、三角コーンの他に、小さく中心部にバツ印のように貼られたテープがあり、何かの印になっているようだ。


「そこは舞台の中心ね。白雪姫が迷い込んだ森で倒れこむ場所はそこを目印にしてくれるといいと思う」


足元を確認していたアリーシャの元に(さえ)がやってきてそう説明をしてくれた。


「入りは観客から見て左から、あっちのコーンが舞台の端で、その先のコーンが幕で見えない舞台の最終位置。舞台は結構奥行きがあるから、前の方から出てきて下がるのも、後ろの方から出てきて前に出るのもいいと思う。今日は舞台をどう使うか、考えながら、お試しだと思ってやってみな。必要なら真由美(まゆみ)がスマホで動画を撮ってくれるから」


動画を撮るという話に驚いて真由美(まゆみ)の方へ振り返ってみると、確かに三脚が用意されているのが確認できた。


「えっと、動画はまだ早いかな」


「そう? まあとりあえず動いてみよっか」


アリーシャは台本を片手に、とりあえず舞台の上を動いてみることにした。

最初こそ緊張感が上回っていたが、見ているのは(さえ)真由美(まゆみ)の二人だけだし、まだ練習だからと割り切れば、どう動くべきか考えるのに忙しく、緊張感は忘れていった。

何度か動いてみて、奥から手前へ動く方が逃げてきたという臨場感が出るように感じられると解釈した。

最初恥ずかしさから断ってしまった撮影も、客観的に見たらどうなるかを知りたくなり、結局お願いしてしまった。

撮影するスマホは特に問題がなければ自分の持っているものでいいとのことだったので猶更(なおさら)だった。

後で自分がどんな動きをしていたか見られるのも良いところだし、他の人に録画を見られる心配もないので、ありがたくアリーシャは自分のスマホで撮影をしてもらうようお願いした。

そうして何度目かの撮影を繰り返し、アリーシャの使用できる時間が終了した。

(さえ)は次の使用者である美鈴(みれい)を呼びに行ってしまったので、アリーシャもグループ練習に戻ることにした。


「アリーシャさん」


戻ろうとしたアリーシャに、先程まで撮影を手伝ってくれていた真由美(まゆみ)が声をかけてきた。


「本番の時、白雪姫はロングスカートになることを意識するといいかも。お妃様に虐められていても、白雪姫は生まれた時からお姫様だから、アニメを観るとわかるけど、移動の時はロングスカートの端を持っていたり、歩幅が狭かったり、所作に気品があるんだよね。今はジャージだし、今日は練習だけど、今後のためにちょっと意識してみて」


「は、はい」


今日はどう動くのがいいかということに頭がいっぱいで、細かい所作については考えられずにいた。

もしかしたら大股で歩いていたのかもしれないと思うと、少し恥ずかしかった。

アリーシャのどぎまぎとした返答を聞いた真由美(まゆみ)は、安心させるように笑って見せた。


「今日は舞台の大きさに慣れる練習だからできていなくって当然だよ。でも、姿勢はすっごく良かった、こっちで見ててかっこいいなって思ったくらい」


「ええっ、本当?!」


真由美(まゆみ)の言葉は、アリーシャにとって予想外で、そしてとっても嬉しい言葉だった。


「ほんとほんと。人って何も考えずに立っているとふらふらするんだよね。アリーシャさんはそういうの全然ない感じだった。何か習い事とかしていたの?」


「ううん、習い事はしていなかった。運動は好きだったけど」


「そういえば球技大会。二組の女子バスケすごく強かったってきいた。そっか、アリーシャさんがいたからか」


真由美(まゆみ)がそう言って一人納得していると美鈴(みれい)を連れた(さえ)がこちらに戻ってきた。


「はーい、じゃあ場所譲ってくださいねー。アリーシャは見学していく? グループ練習戻る?」


「あ、うん。邪魔しちゃ悪いし、グループ練習戻るよ。じゃあね」


「おー、頑張ってね」


(さえ)に促されてグループ練習に戻るアリーシャに、真由美(まゆみ)もまたねと手を振ってくれた。

アリーシャもそれに手を振り返し、グループ練習へと戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ