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「それではこれより、演劇部白雪姫オーディションの作戦会議を始める。楽にして聞いてくれるように」
昼休み、いつものように美緒莉と凛子がいるクラスに集まり、四人で机を合わせて座り、いざ食事というタイミングで冴がそう言った。
「はーい、いただきまーす」
それに対する美緒莉の返答は相変わらずマイペースなものだった。
手を合わせて食前に言うこの言葉は、高校生くらいになると食欲に負けて忘れることがあるようだ。
既に口の中にものを入れていた凛子が、美緒莉の言葉を着て、それを飲み込んでからいただいていましたと小さく言った。
「いただきます。作戦会議っていうと、どういう演技をしたほうがいいとか、そういう話?」
アリーシャも食事前のこの言葉は何気に気に入っているので、美緒莉に倣って質問の前に手を合わせてお弁当の蓋を開けた。
相も変わらず、ホストマザーの恭子が作ってくれるお弁当は、彩もよく美味しそうだ。
「その辺は役者の創意工夫が光るところだし、私が知っているわけもないからアリーシャに任せるよ、頑張れ。あ、私もいただきます」
冴は唯一この中で昼食を購買で買っており、いただきますの言葉と共に手にした総菜パンの口を開けた。
購買のパンはアリーシャの密やかな憧れだ。
いつも人気で、よく売り切れているのを見ると、毎日お弁当を持たせてもらっている身として、買うのはいろんな意味で申し訳がなく、未だ食べたことがない。
「じゃあ何を作戦会議する予定だったのさ」
凛子の疑問はアリーシャも思っていたところであり、その言葉と一緒に冴の顔を窺った。
「そりゃあ勿論、どうやって票を得るかって話よ」
「んー? だから演技を頑張るって話じゃないの?」
一生懸命噛んでいたものを飲み込んで、堂々巡りに聞こえた会話に美緒莉が首をひねって質問をした。
「うーん、じゃあ皆に聞くけど、素人が三人、皆同じくらいの演技をやって、誰が一番上手かったかを投票するとしたら、票はどうなると思う?」
「三分の一ずつ入るんじゃないの?」
「ぶっぶー、不正解です」
冴の質問に答えた美緒莉のとっても素直な回答は即座に否定された。
美緒莉の不正解を受け、アリーシャも質問の答えを考えてみた。
「何か一つ、一瞬でも際立った演技をした人に入る?」
「それだと前提が変わっちゃうけど、一瞬際立った演技をした人がいても、投票権を持っているのが全員ド素人だから、それに気づかず終わる可能性が高いと思うよ、プロが採点するなら別だろうけど」
アリーシャの回答も不正解のようだ。
そうすると何故美緒莉の回答が不正解なのかもわからない。
なぞかけのような質問に首をひねっていると、凛子が非常に渋い表情をしながら答えた。
「あー、一番かわいい奴に入る」
「半分正解」
最低な答えが半分も正解してしまった。
「なーんもわからんからあのかわいい子に入れようっていう票は必ず出るのね、逆にかわいくてむかつくから入れないって人も出るだろうけど」
確かにアリーシャも票を持つ立場で、何も知らない人が良くわからない演技をして、どれが良かったかと言われたら、容姿で選んでしまう可能性を否定できなかった。
「確かにかわいい子が勝つかも」
むしろ納得の意見だった。
「でもね、その他に固定票って言うのがあんのよ」
「固定票?」
「そ、固定票。例えば私は舞台でアリーシャが盛大に転んでもアリーシャに票を入れる気でいるんだけど、つまりこれが固定票ってやつよ」
「なるほどー、じゃあ私の票も固定票だー」
美緒莉は納得して頷きながらアリーシャの方を見た。
「私、アリちゃんが風邪で休んでもアリちゃんに入れるから」
「いやそこは延期とかになるだろ」
アリーシャに向けられた純粋な好意がいたたまれなかったので、凛子の冷静なツッコミに助けられた。
「ってかそれって不正じゃないの、バリバリ私情じゃん」
「投票に私情を入れてはいけない決まりはないよ。第一固定票なんて、他の立候補者もいくつか持っているものさ、友達が近くにいただろう。彼女らも友達が舞台で台詞を噛んでも、間違いなく友達に入れる固定票だよ。ここで失敗しても本番で白雪姫をやってほしいっていう、なんとなく顔が可愛いから入れた一票より、間違いなく重い一票を入れてくるよ」
「まあ、それもそうか」
「そうそう。だからね、一番票が集まるのは、顔がいい奴じゃなくて友達が多い奴だ。票を入れる理由は信頼と実績。あの人ならって思われるのが大事ってこと」
冴は生徒会選挙でもそうだったでしょうと付け加えて笑った。
「でも信頼と実績って、三週間くらいしかないのにどうやって集めるって言うの、しかも一週間はゴールデンウィークだよ」
冴が言うことは納得できたが、期間が短すぎるのが難点だ。
生徒会選挙だって、投票期間は短かったが、同級生は一年一緒に過ごしたわけで、そうして人となりを知った票があの結果なのだろう。
「だから作戦会議なんだよ。人間第一印象が大事だって言うでしょ、アリーシャはこれから一年生と関わって、名前と顔といい先輩だったなっていう印象を覚えてもらわなきゃいけない。いい、アリーシャ。今からやるのは演劇じゃない、主役の座をかけた政治ゲームだ」
ちぎったパンを口に入れながら、楽しそうに笑う冴。
「なーんか冴が言うと悪だくみに聞こえるよねー」
それを見た凛子は呆れたようにそう口にした。




