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「新一年生の皆様、この度はご入学、おめでとうございます」
いよいよ演劇部の部活動紹介となり、アリーシャは流れに身を任せて舞台に立ち、後ろの方でみんなと一緒に並んだ。
顔を上げ、舞台からアリーナ側を見ると、舞台とその奥とで、二つの世界があるように感じられ、奥の世界の人たちは、静かにこちらを見つめているのが分かった。
それでも思ったより緊張していないのは、奥の世界が思ったよりも遠く、舞台の境界に膜が張ってあるような不思議な感覚をアリーシャが感じていたからかもしれない。
「私たち演劇部は、去年の十一月にできたばかりの、実績のない部活動です」
演説をする冴の背中に視線を移すと、歪んでしまっている冴手作りのケープが目に入り、部長のケープは原先生か美緒莉あたりが作ったケープにするべきだったのではと、今更過ぎることを一人密やかに思った。
「私たちは、今年の文化祭で『白雪姫』をやることを目標に部活動を始めました。作られたばかりの部活ですので、人数も少なく、一年生の助けが必要です」
歪んでほつれたケープとは裏腹に、冴のスピーチは流れるように続いた。
「高校生になって、新しくなった環境で、新しい自分として何かを始めてみたいと思っている人。もしその何かがまだ決まっていないのなら、部活に挑戦してみるという選択肢はどうでしょうか」
冴のスピーチは新一年生に向けられたものだというのに、何故か後ろで聞いているアリーシャの胸にも刺さるものがあった。
アニメのキャラクターのような青春をしたいと思ってここまでやってきた。
幼少の頃に願った、白雪姫のようなお姫様になりたいという夢が、友人を巻き込んで部活というものが立ち上がった。
何かをやりたいという願いは、とんでもない原動力になるということをアリーシャは知っていた。
「顧問の先生も、私たちも、演技について誰一人詳しい人はいません。演技だけでなく、衣装も大道具も小道具も、全部手探りでみんなで作り上げている途中です。台本はできていても、配役はまだ決まっていません。そんな始まったばかりの部活に入って、一緒に文化祭で『白雪姫』をやってくれる部員を、私たちは求めています」
あたらめて考えてみれば、本当にないないづくしの部活動だ。
逆に本当によくゼロからここまでやってきたと、感慨深い気持ちにすらなってしまう。
冴の背に行っていた視線を、もう一度舞台の外へと向けてみる。
一人一人の顔はここからではちゃんと見ることはできないが、あの中に去年日本の高校生になるという夢を叶えて、これから一体どんな体験ができるのかと、胸をときめかせていたアリーシャと同じような気持ちで、これを見ている一年生が、きっといるのだろう。
「興味を持ってくれた方は、放課後第二体育館で活動をしているので、是非見学に来てください。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げた冴に倣って、後ろに並んでいた部員全員で頭を下げた
聞こえてきた拍手を背に、舞台を降りるとようやく出番が終わり、緊張していた気持ちも消えていった。
「いえーい、おつかれーい」
舞台上でマイクを使って響いていた、キリリとした声から一変して、気の抜けた声でそう言う冴は、流石演劇部部長というか、この中で一番の役者であった。
その後行われたチラシ配りは、他のたくさんの部活と一緒に行われ、ちょっとしたお祭りのような賑やかさだった。
チラシの内容は、前に絵里が描いてくれたイラストをそのままに、活動場所が第二体育館であることが付け加えられてたり、裁縫や大道具だけの参加も大歓迎などの文面も追加されていた。
アリーシャも部のためにと、自分なりに一生懸命チラシ配りを行い、自分が持っていた分のチラシは配りきることができた。
「結構男の子とかも貰ってくれたんだよ」
「あー」
「まあそれは、まあ」
「なんか変なこと言われたりしなかった?」
チラシを配り終わり、部室で嬉々として報告したアリーシャに侑奈や琴葉は苦笑し、夏海に至っては眉をひそめて、何故か変な心配までしてきた。
「何も。ありがとうございますって貰ってくれただけだったよ?」
「アリーシャさん美人だからねえ、背が高くてすらっとしてて、美人な先輩に声をかけられたら、そりゃあなんだって受け取りますよ」
侑奈は私だって受け取ると一人納得しなが頷いた。
そんなことを言われたアリーシャはなんだか変な気持ちだった。
もしかして馬鹿にされているのではないかと訝しんでしまうくらいだった。
「私アメリカでは全然モテなかったんだけど」
「好きな子に意地悪したくなる系男子しかいなかったんじゃないの。私はアリちゃんを入学式で見た時から絶対に友達になるって決めてたくらい、周りからとびぬけて美人だったの覚えてるし」
そうじゃなきゃ見る目がなかったんだねと言う美緒莉は何故か自慢げだった。
美緒莉がアリーシャに最初に声をかけてくれた理由が、まさかそんな理由だったとは露知らず、アリーシャは驚いたが、さっきまでの言葉が皆の本心だということもわかり、悪い気持ではなかった。
「私からしたら、皆の方が可愛くって羨ましいんだけどね。でもありがとう、美人って言ってもらえるの、なんだか照れくさいね」
照れながらアリーシャが笑うと、周りの皆もつられて照れ笑いをした。




