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入学式は在校生には関係のないイベントのため、いつの間にか終わっていたというのがアリーシャの印象だった。
去年の今頃は、高校前にある桜の散り際の美しさと、夢を叶えた達成感に打ち震えていたというのに、なんだかあっさり終わっていて、寂しいというわけではないが、不思議な気持ちだった。
いつの間にか終わってしまっていた入学式とは裏腹に、新入生歓迎会の方は非常に緊張をした。
部活動紹介は運動部から文化部という流れで紹介されることになっており、文化部の中でも新しく作られた演劇部は、順番としては最後に枠が設けられていた。
部室から持ってきたそれぞれが作ったケープを制服の上から羽織り、順番が来るまでは他の部活動紹介を眺め、自分たちの番を待つことになるのだが、順番が本当に最後となっているため、待っている間の緊張が長いことこの上なかった。
バスケ部がユニフォームを着て、全国大会を目標にしているとかを言っていたり、剣道部が実演として打ち合いをしているのを見て、アリーシャは今更ながらも演劇部も何か派手な演出を入れた方が良かったのではないかと、今更どうしようもないことを考えてしまっていた。
そんなアリーシャとは違い、凛子は待ち時間に飽きてスマホを取り出したり、美緒莉は緊張するねとは言いながらも笑顔を見せ、小声で周囲と雑談するくらいの余裕があった。
唯一部長として挨拶するための台詞がある冴だけは、静かに待っていたので、もしかしたらアリーシャと同じく緊張をしているのかもしれないと、心の中で頑張れと小さなエールを送っておいた。
出番が近づくと舞台裏に待機場所を移すことになって、そうすると漸く皆も緊張をしているようだった。
以前舞台の大きさを測るためにここに入ったことはあったが、いざ舞台に明かりがついて、放送器具が設置されて、動いている状態の舞台裏に入ってみると、以前のがらんどうとした雰囲気と全く違い、緊張もひとしおだ。
舞台裏から前の団体が一年生に向けて発表をする姿は、前から見ていた時と違って、自分たちも次あそこに並ぶのだと改めて実感させられる。
「アリーシャさん」
舞台袖から舞台を見つめながら、緊張で呼吸が止まりそうになっていたアリーシャに、後ろから声をかけてくれたのは真由美だった。
「少しふらついてたんじゃない、大丈夫?」
「だ、大丈夫。ちょっと緊張しちゃって」
腰が引けてしまっていたことを、アリーシャは笑って誤魔化した。
「私たちはあんな感じで後ろに並ぶだけだから、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ」
真由美の指差す先には、部長の挨拶の間、舞台の後ろで立っている生徒たちがいた。
「わかってはいるんだけどねー」
きっと足を踏み出してしまえば、何でもなく終わってしまうこともなんとなくわかってはいた。
「わかってても緊張しちゃうよねー。わかるわー」
真由美が笑うのを見て、アリーシャもつられて笑って、少しだけ肩の力が抜けた。
「皆も緊張を誤魔化そうと喋ったりスマホ見たりして、平常心を取り戻そうとしてるし、緊張してるの私だけじゃないんだーって思うと少しは緊張もほぐれると思うよ」
真由美のその言葉に、アリーシャは目を瞬かせた。
余裕だと思っていた凛子や美緒莉は、緊張を誤魔化すために取り繕っていただけらしい。
「それに舞台で喋るのは冴だけだし。さっき半分くらい転寝してたから、お前は少し緊張しろって言ってやって」
逆に緊張をして静かに座っていると思っていた冴は、転寝をしていたのだという。
それを聞いたアリーシャの緊張は、呆れと共に何処かへ飛んで行ってしまった。




