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春休み。
アリーシャは日本の春という季節を最大限楽しんだ。
日本では春の季節になると、ニュース番組でそこの地域で桜が咲いただとか、蕾が膨らんできただとか、そんな話が出てくるくらいには、皆桜の開花を楽しみにしているようだった。
アリーシャは去年のこのくらいの時期に、受験やら合格やら入学の準備やらで、てんやわんやしていたのだと思うとなんとも感慨深かった。
ホームステイ先の家族も、どこの桜の蕾が膨らんでいるだとか、桜の種類によって開花が早いのだとか、そんな話をしながら、まだかまだかと開花を楽しみにそわそわとしており、そんな様子を見ていたアリーシャも、なんだか桜が咲いたらとっても素敵なことが起きるのではないかと思ってしまうくらい、つられてそわそわした気持ちになっていた。
「あら。春が来たみたいね」
ホストマザーの恭子に、スーパーの買い出しに連れて行ってもらった時、駐車場で買った荷物を車に積みながら、ふと何もないところに顔を向けて、彼女はそう言ってほほ笑んだ。
「どうしてそんなことがわかるの?」
恭子が顔を向けた方にアリーシャも視線をやったが、特に何もあるわけではなかった。
強いて言うなら、青い空と、駐車場に設置されている街灯くらいしかない先で、いったいどうして春が来たと言ったのか、アリーシャは皆目見当がつかなかった。
すると恭子は顔の前に人差し指を立て、もう片方の手を開いて耳に添わせて耳を澄ませた。
アリーシャも彼女の真似をして耳を澄ませば、今度はなんだか、ひゃっくりに失敗したような高い音が聞こえた。
「聞こえた?」
「たぶん、なんか変な音」
「あれはね、鶯っていう鳥の鳴き声でね、日本では春告げ鳥とも言われているの」
「へえー。そうなんだ」
「あれを聞くと、ああ春が来たなあって感じるのよ。きっともうすぐ桜も咲くわね」
そう言って何かいいことがあったかのように笑う恭子を見て、アリーシャは日本人は鳥が鳴いたことでも春を感じるのかと驚いた。
その後、五分だか八分だか桜が咲いた頃、ホームステイ先の兄である彰浩に、花見に連れて行ってもらった。
車で少し走った先にある大きな川沿いに桜並木があって、それを目当てに人が集まるので、出店が出ており、アリーシャと彰浩は近くの駐車場に車を停めて、川沿いの桜並木を歩きながら、いくつか気になる食べ物を買い、少し歩いた先でレジャーシートを敷いて、そこで枝先の花が重そうに風に揺られる桜を眺めながら食事をした。
生姜の入った甘じょっぱいお稲荷さんと、かわいらしい花見団子を持って、桜を背景に写真を撮ってもらった。
流れる川と、桜の花を見ながら歩く人々。
ちょっとした芝生の広場で、まだ歩くのが覚束ないような子が、ちょこちょこと歩いている様子を、近くで見ている家族たち。
そんな何でもないような日常を過ごしている人たちと、同じ空間で何でもないようなことをして、大きく胸いっぱい春の陽気を吸い込んで、お花見は終了となった。
食事をして、桜を見て帰ってきただけなのに、春の日のように穏やかに終わったその日は、なんだか心がとても満たされた一日に感じられた。
きっとこれが桜の魔法なのだろ。
日本人があの桜の開花を待ち望む気持ちが、アリーシャにも少しわかったような気がした日だった。




