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あっという間に過ぎ去った春休み。
桜の花も満開を過ぎた頃、新学期が始まった。
登校時に微かに香る桜の甘いにおい、目に映る景色は、去年希望を胸に抱いて入学式に向かったあの時と同じで、胸に何か熱いものがこみあげてくる。
そのこみあげてきた何かを抑えきれずに、アリーシャはいつもより早く自転車を漕いだ。
「アーリちゃーん」
学校に着いて、駐輪場に自転車を停めていると、見知った顔がアリーシャの方へ手を振りながら走ってきた。
「美緒莉、どうしたの?」
「えへへ、校門のとこで見かけたから追いかけてきちゃった。クラス分け見た? まだなら一緒に行かない?」
美緒莉の言葉にアリーシャは今まで忘れていたことを思い出した。
二年生になるという感覚はあったのに、クラス分けがあるという事実をすっかりと失念していたのである。
「行く」
衝撃に固まった数秒、すぐに気を取り直して返事をした。
気合を入れた返事とは裏腹に、心の中では泣きそうになりながら祈っていた。
どうか誰か、誰でもいいから友達と、同じクラスになっていますようにと。
「Oh my gosh!」
アリーシャは本当に久しぶりにぽろっと母国語が出てくるくらいには動揺していた。
クラスは美緒莉と凛子が同じクラスの一組、冴が宣言通りの進学クラスで五組となっていた。
そしてアリーシャの名前を探すと二組の枠にあるのが見つかった。
オタク友達の絵里が三組、台本を書いてくれた真由美は、なんと冴と同じ進学クラスの五組となっていた。
「美緒莉と凛子が同じクラスなのに、私だけ別だなんて酷い」
「えっと、でもほら、今まではりんちゃんだけ別のクラスだったし」
この世の終わり暗い絶望しているアリーシャを、美緒莉はなんとか慰めようと言葉を探して背を撫でた。
「おっす。クラスどうだったー?」
そんなアリーシャたちの後ろから凛子がやってきて声をかけてきた。
アリーシャは非常に落ち込んだ表情のまま凛子の方へと振り返ったため、表情を見てすべてを悟った凛子は、うっと言葉を詰まらせた。
ひとしきり落ち込んだアリーシャを、美緒莉と凛子の二人が慰めてくれ、なんとか落ち着きを取り戻し、各々新しく与えられた教室へ向かうこととなった。
アリーシャは二人と別れ、一人新しい教室の前で怖気づいていた。
入学式の何も知らない時の方が、まだ堂々としていたくらいだった。
そっと教室の戸を引き、中を覗き込むと、やはり既にいくつかのグループが出来上がっているようだった。
「あれ、アリーシャさん」
教室の中を覗き込んでいたアリーシャの後ろからそんな声がかかり、アリーシャは驚きで肩を跳ねらせた。
「アリーシャさんも二組? よかったー、私友達全員と離れちゃってさー、不安だったんだよー」
アリーシャの言葉を代弁するようなことを言ってくれたのは、演劇部に後から入部してくれた朝倉 琴葉だった。
「琴葉も、琴葉も二組? 本当? よ、よかった、よかったあぁ!」
アリーシャと琴葉は、教室の入口で手と手を取り合って喜んだ。
グループがやんわりと出来上がっている教室で、孤立しないで済む喜びがそこにはあった。
教室で誰かと組むことになったら琴葉と、美緒莉と凛子とは隣のクラスなので、短い休みでも遊びに行ける距離だ。
新しいクラスに、まだバッチリとなじめたわけではないが、アリーシャのことを一方的に知っていた人もいて、緊張していた割になじめそうなクラスの雰囲気に安堵した。
同じクラスになった琴葉も、後から他に知り合いを見つけ、アリーシャもその輪に入れてもらえた。
「ということで、何とか順調です」
昼休み、一組の教室に集まり、いつもの四人でお昼を食べながら、アリーシャは新しいクラスについて皆と話した。
「うちのクラスはさ、なんかうるさいのばっかり。声のでかいやつまとめたのってくらい落ち着きがないっていうかさー」
「それだと美緒莉も声がでかいことになるぞ」
「ええー、私声大きいかなあ」
いつもの何気ない会話も、いつもと教室が違うからなんだか変な感じだ。
それでもまた四人で集まれたことに安心したし、他の皆もそれぞれのクラスでそれなりに過ごしているようで安心した。




