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舞台の計測を終えた翌日。
実際に演技をやる舞台に上り、来る日に思いを馳せてやる気満々となっていたアリーシャであったが、放課後、部活として収集がかかった場所は家庭科室だった。
アリーシャの頭の上にはクエスチョンマークが浮かんでいた。
家庭科室といえば授業で使ったことがあるが、あそこは料理を勉強する部屋だった。
煮干しから出汁を取ったみそ汁と、四角いフライパンで作った卵焼きと、肉じゃがを作って食べた記憶があった。
そんな場所にいったい何の用だと疑問に思いながら、アリーシャは放課後所用があり、一人遅れて向かうと、そこには誰もいなかった。
場所を間違えてしまったのだろうかと、一度部屋を出て室明札を確認するが、間違いなく『家庭科室』と書いてあったし、部屋の中もキッチン用のコンロや蛇口が置いてある、アリーシャが以前調理実習で使った部屋だった。
こんなことならば美緒莉たちに少し待っていてもらえばよかったと思いつつ、スマホを取り出し、グループチャットで連絡を取ろうとすると、家庭科室の奥の方から知っている声が聞こえてきた。
声のする方へ目をやると、家庭科室の奥に『裁断室』の文字があった。
裁断室とは何の部屋なのだろうか。
『裁』は裁判の裁で、法を裁くなんて使い方をする字だ。
『断』は断るだとか、前後の繋がりを考えると、断罪とか、そんなときに使われる字だ。
読み方は『さいだん』で合っていると思う。
そこまで考えたアリーシャの頭の中には、生徒会の偉い人たちが、裁判官のような服を着て、木槌をコンコンと鳴らしながら、生徒を裁いているという妄想が生まれていた。
そんな部屋がこんなところにあるのか。
でも、日本のアニメとかにそういう描写があったような気もするし、そういう部屋もあるのかもしれない。
ちょっとだけ内心わくわくしながら、アリーシャはそっと部屋の扉を開けると、部屋にはいつもの三人と、真由美と、演劇部の顧問になった原先生と、アリーシャの知らない子が一人いた。
リボンの色を見るに、アリーシャと同じ一年生のようだ。
部屋の内装は残念ながら裁判所のようなところではなく、幅の広いテーブルが並ぶだけの、がらんとした部屋だった。
思っていた部屋と違って、少しがっかりしたアリーシャに、先に来ていた面々がアリーシャに気づき声をかけてきた。
「おつかれーい」
「アリーシャも言ってやれって、家庭科室って言ったから調理室の方行っちゃったじゃんね」
「見て見て、この布。スカートによくない?! いい感じの色だよね、かわいい」
混沌である。
アリーシャは、一気に話しかけられたせいで誰に返事をすればいいのか戸惑っていたが、すぐに制止の声がかかった。
「はいはい。清水は来ないってことだし、全員揃ったかな」
小さく手を叩いて話を中断させ、場を仕切りだしたのは、顧問の原先生だった。
声を聞いて全員がなんとなく先生のいる教壇辺りに集まってきたところで、原先生は話を続けた。
「まず一人、入部希望者が来たので自己紹介から行こうか、重倉」
「あ、はい。一年の重倉 夏海です。あの、演技というより、衣装を型紙から作れるって原先生から聞いて。独学で簡単な服を作ったことはあるんですけれど、作り方をちゃんと教えてもらえる機会って、なかなかないから。衣装担当として入部させてもらえればと思ってきちゃったんですけど、なんか、ほんと場違いでごめんなさい」
夏海の声は最初こそはっきりと喋る努力が見られたが、だんだんと俯き加減になってきた頃から声量も小さく早口になり、聞き取りにくくなった。
「えー、全然場違いとかないよー。お洋服作ったことあるの? 私はね、ぬいぐるみ用のを作ったことはあるんだけどね、人が着れる服は作ったことないの。お母さんはね、私が小さい頃に私のお洋服を作ってくれてね、私も作りたいって思ってたんだけどね、難しそうだからぬいぐるみから始めたの」
「美緒莉、とりあえず一旦落ち着け」
前々から衣装作成に興味を示していた美緒莉は、同志の入部希望者が来たことによりテンションが上がっていた。
冴に制止されていなかったら、ずっと一人で喋っていたのではないかというくらい饒舌だった。
「ううう、私なんかにも優しく話しかけてくれるだなんてえぇ」
急に詰め寄られた夏海は、驚きながらも喜んでいるようだった。
なぜそこまで自己評価が低いのかは謎だが、迷惑がられていなかっただけ良しとしよう。
「重倉の入部届はもう受け取っているけど、受理しちゃっていいかな、部長」
「お願いしまーす」
こうして顧問である原先生と、部長の冴の軽いやり取りで、夏海の入部が決まった。




