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「んで、今日ここ集合だったってことは、衣装作りって感じなの?」
真由美やアリーシャよろしく、ハイテンションの会話についていけずに黙っていた凛子が、会話が途切れたところを見計らって質問をした。
「衣装はデザインから考えなきゃいけないから、今日すぐに作りましょうって話にはならないかな。今日はここに眠っていた古い布の整理がついたから、皆に見てもらおと思って集合してもらいました。今多く余っている布から衣装デザインを考えるもよし、予算が付いたら買い足すのもよしだけど、まずは見てからじゃないとイメージも湧かないでしょう」
原先生の話にアリーシャは確かにそうだと納得した。
アリーシャの中では、白雪姫といえばこういう衣装だという固定されたイメージがあるにはあるが、まさかそれをそのまま使うわけにもいかないだろう。
ある程度舞台用にデザインの変更もあるだろうし、そもそもそれを作り上げられる技量があるのかという話もなりそうだ。
「そういえば衣装のデザインって誰がやるの?」
今まで黙って話を聞いていた真由美が当然の疑問を口にした。
真由美の言葉を聞いて、アリーシャは衣装作成に非常にやる気を出して盛り上がっていた二人に目を向けると、自然と全員がそちらに目をやっていたようで、注目されたことに気づいた二人は、各々の手を握り合わせて首を振った。
「無理です無理無理無理。私簡単な衣装は作ったことありますけど、デザインはその、決まってるやつしか作ったことがなくって。オリジナルデザインの服は作ったことないです」
「私なんてぬいぐるみ用だよ。シンプルなシャツとかポンチョとか、そんなのしか作ったことないし、デザインって感じじゃないよ」
いかに自分が無力なのかというアピールを必死にしている二人がデザインを担当しないとわかると、じゃあと凛子が手を上げた。
「あたしやってみたいかも」
その言葉にどこからかおおと小さく声が上がった。
「デザインして、作るの難しそうだったり無理だったりしたら原ちゃん先生もアドバイスくれるんでしょ?」
「勿論、相談してくれればね」
「美緒莉や重倉さんがメインで作るなら口出ししちゃ悪いかと思ったけど、二人がやらないならやってみたいな」
凛子は美緒莉と夏海の顔色を窺いながら、それでもはっきりと自身の意見を主張した。
「んじゃデザイン担当は凛子でいいかな。意義があるなら今のうちに」
凛子の主張を聞いて即舵取りを始めた冴に促され真由美がじゃあと手を上げた。
「はい、真由美」
「脚本担当として、デザインが確定する前に一度確認をさせてほしい。世界観とずれてなければ反対はしないけど、私が口を出せる隙間を設けてほしいと思ってます」
「それは勿論オッケーだよ。ってか出来上がったら皆に一度見てもらいたいし、意見も欲しいと思う。後アリーシャも一緒にやんない? 主役狙ってんだから、アリーシャが着てテンション上がるデザインにしようよ」
「え、私も」
凛子の誘いにアリーシャは驚いたが、同時に昔、鏡の前であの白雪姫のドレスを着て、何度も何度もそれっぽいポーズをとって、一人満足げに笑っていたことを思い出していた。
あの可愛らしい衣装を、自分が身に纏っている。
それはなんて幸福で、なんて素敵な時間だっただろうか。
着た洋服が変わっただけで、アリーシャはあの素敵な白雪姫になった気持ちになれていた。
あの幼き日の胸の高鳴りを、心にぎゅうぎゅうと詰められた幸せを、今度は自分たちがデザインして、自分たちで作り上げた服で実現できる。
アリーシャはまだ主役に決まったわけではないので“かもしれない”なのだけれども、でもそれは、なんて素晴らしく魅力的な提案なのだろうか。
ただ衣装を作る為のデザインと考えていた作業が、凛子の提案で、自分が着てテンションが上がる白雪姫のドレスデザイン制作という意識に変わってしまった。
「そ。アリーシャも」
にっと素敵な思い付きをしたように笑った凛子を見て、アリーシャは目をキラキラとさせて頷いた。
「やる。私もやってみたい!」
こうして衣装に関しては、デザインが凛子とアリーシャ担当。
制作は美緒莉と夏海が主軸となることがとりあえず仮決定となった。
衣装制作組が仮決定なのは、一年生が入ってからそういった作業の班分けを行うことになるので、一年生が入るまでは仮とするのだそうだ。
その後、原先生の案内で裁断室の倉庫にしまってあった布の在庫を確認することになった。
美緒莉が先走って引っ張り出してきた黄色の布の他にも、結構綺麗な種類の布が倉庫に眠っていた。
「被服の授業があった時代の名残で、ずっと使われていない布が眠っていたんだよね。使ってあげなきゃダメになっていくだけで、かわいそうだと思っていたから丁度良かったよ」
布は、無地の物から少しレトロな柄の入った布まで複数あった。
黒い布だけは例年文化祭でお化け屋敷をやる団体が使っては戻しているので、洋服に使える在庫はないのだそうだ。
布がかわいそうだというのは日本人特有の考え方なのかもしれないが、使える布がたくさん余っていたのは僥倖だった。
状態も良いものが多く、保管がきちんとされていたのだろうと素人目でもわかった。
「アリーシャ。衣装に使えそうな布を並べて写真撮っておこう、かわいいって思ったやつも入れてさ。デザイン考えるときに使えるじゃんそしたら」
「確かに、布がどれだけ余ってるかもわかるといいよね。少ない布をいっぱい使うデザインにすると後で困りそうだし」
そうしてアリーシャと凛子は、手分けして使えそうな布を集めて写真を撮って行った。
作るのは白雪姫のドレスだけではないので、結局は片っ端からよさそうなものを写真に収めていく形になったが、これで作業ははかどりそうだ。
写真を撮りながら、いくつかの布を触り手触りを確認していくと、布によって触り心地が様々で、なんとなくいつも着ている服と同じような布もいくつかあった。
普段来ている洋服も、意識はしていないが元はこういう一枚の布から作られている。
当たり前といえば当たり前の事実だが、普段あまり意識をしないため、なんだか感慨深かった。
それから凛子とは、撮った写真を共有し、今日の部活はそのままお開きとなった。
バイトを入れていないため、いつもの時間よりも遅くまで学校にいたアリーシャは、帰路が途中まで一緒だったため、自転車を転がし美緒莉と話しながら帰った。
暗くなった道すがらを、こうして女子高生二人で歩いて帰ることが出来るのは、本当に日本ならではのことなのだろう。
途中でお腹がすいたと、コンビニに制服のまま寄り道して、コンビニを出た先の端っこの方で二人で肉まんを食べて、学校のことや部活のこと、くだらないことを喋って笑って、そしてその後美緒莉と別れて一人自転車を漕ぐ帰り道。
アリーシャは今までの放課後、バイトばかりしていたため、友達と一緒に帰るだけという時間に、これほどの青春を感じることがあるのだと気づけずにいたことを、ほんの少しだけ後悔した。




