EXtra「何度でも」
【2067年】
「まだ‥‥‥生きてるか」
「ああ」
「少しの間でいい」
「わかってる」
無機質な声。
第三者が耳にすればそう聴こえるだろうが、彼の場合は違う。
彼からすれば、それはどうしようもない怒りや辛さを極限まで押し殺しているように聴こえていた。
「俺はまちがえていたのか」
彼が挫けそうなとき、必ずする問いかけ。
どのような答えが返ってくるかなんて分かりきっている。
それでも声にしてほしかった。安心感というのを形にしてほしかった。
「いいや、まちがえてなどいない。そんなわけあるものか」
「それはどうしてだ」
勇気づけるようにカレがにこりと微笑む。
「『今』とは、過去の選択による積み重ね。そしてほんの少しの『因』による導き。
過去を否定するということは、現在と未来を否定することに他ならない。
今を肯定することが、全ての選択に責任を取るということだ。
お前はお前自身が正しいと信じたことを最後までやり遂げた。
‥‥‥結果だけを言えば、望んだ答えを得ることは出来なかった。
だが、それはあくまで信じたことの一つが終わっただけに過ぎない。
ここでの成果は次の未知への足掛かりになる。
何を持ってして終わりと決めるかはお前次第だ。
そこに行き着かない限り、全ては道のりに過ぎない。
要は、お前が納得できるまでやればいい。
それにまちがいもなにもないだろう」
知っている。一言一句。もう何度も聴いた。その言葉に救われた。
これを聴いてなお、歩みを止めるのは自身とあいつらへの裏切りになってしまう。
だから何度でも進み続ける。
「もう少しだけ聞かせてくれ」
自身の感覚を麻痺させるための問い。
性格が悪いのは承知の上で、奈落の底への水先案内人をカレに託す。
「お前は‥‥‥後悔したことはあるか」
きっと呆れているだろう。そんなこと今更だと。
「ない」
知っている。
「後悔のない人生の果てにお前は何を得た」
「なにも」
知っている。この目で見てきたのだから。
「お前は自分の人生に誇りを持てるか」
「当たり前だ。俺は何一つまちがえてなどいなかった」
家族を捨て、友を捨て、欲求を捨て、意思を捨て、切除した人間をよく知っている。
「そうか」
お前がやり遂げたんだ。
だったら俺にできない道理はない。
「なら、俺もやるしかねえな。なんてったって俺は」
お前に。ヒーローってのに憧れていたのだから。
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「システム:『―――』起動」
63年前の無数に存在する俺たちへ、この可能性を掴み取らせることだけが俺の使命だ。
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【2066年】
「お、きたきた」
一つの文が表示される。
「やっぱり、そうなったか」
驚きはない。
「それでも、これも一つの過程に過ぎないんだろうけど」
彼だけでは足りない。
もちろん私だけでも不足だ。
要は、今度こそ、最後に望んだ結末になればいい。
「応答返して。
‥‥‥よっしゃ、まずはあっちとこっちを繋げるよ」
手が微かに震える。
怖いって気持ちはある。ずっと怯えていたから。
それでも今だけは全身に気を巡らせて、ここが正念場だと言い聞かせる。
『確認した』
こっちも向こうも大して変わんないんじゃん。
「いくよ。―――起動」




