Extra5「あの未来のために必要なことだから」
「で?こいつらアホなのか?バカなのか?」
想志くんは呆れたように尋ねてくる。
「知るかばかーあほんだらー」
21:00
想太ん家。
想乃華と結愛は壁に背中を預けて二人くっついておねんねしている。
「まだ21時なんだけどなー」
意味ありげに気持ち悪い笑みを浮かべる想太。
「私だって止めたんだけどね」
言いたいことはわかるから意味深なのやめろ。勘付かれたらどうすんだ。
「ったく、度数17%とは気合の入ったことで」
「しゃーないじゃん。結愛がこれが飲みたいって聞かないんだもん」
曰く、
『これ!これですよ!水色のお酒!テレビで見たやつ!!めっちゃおしゃれじゃないですかー!想乃華先輩も一緒に飲みましょうよ~!』
『えー。でもこれ度数めちゃ高くない??私そんなの飲めないんだけど』
『だいじょーぶ!めちゃ飲みやすいって美人のアナウンサーさんが言ってたので!』
『それ本当かなあ‥‥‥』
『もしかして、先輩ビビってますー??いやー、想乃華先輩にこんなビビリで臆病で可愛い一面があったとは~いやー眼福眼福』
『ビビってないし!そんな見え見えの挑発に乗るとでもー??』
そうして、このざまである。
「せんぱーい、なんでおさけのませてくれないのー?やくそくしたのに。あほ。ばか。まぬけ‥‥‥zzz」
「あかねとみる。あかねいろのそら。あかねだけに‥‥‥へへへ‥‥‥むにゃむにゃ」
「かわいい。寝言かわいい。お持ち帰りしたいぐらいには二人ともかわいい」
「さらっとこえーこと言ってんなお前‥‥‥」
「うるさい。男が言ったら犯罪臭しかないけど、女が言うには問題ないんじゃい」
「お前、ほんとは酔ってんじゃねえの?同じの飲んでたろ」
「なーに言ってんの。私が酔うわけなかろう」
だいたい、そんなの想太が知らないわけないでしょ、と心のなかで皮肉る。
「それよか、どうどう?想志くん?
想乃華も結愛も普段はアレだけど、酔ったら倍はかわいいっしょ」
「ん‥‥‥そーだな。かわいいな。かわいいです」
「なにその投げやりー。かわいいだろー国宝級だぞーこれー」
いつもより面倒くさい成分多めにだる絡みをすると、彼は困ったような表情を浮かべる。
まあ、それはそれでかわいいんだけどね。
つーか私の顔色伺いながら語尾変えんな。
「そういえば、五人で集まってる時に俺ら三人だけで話すってのもなかなかないよな」
「そもそも、最近はこのメンツで話すってことの方が少ないもんねー」
「結愛ちゃんがここに入学してくる前はわりかしあったけど、今は講義終わったら想志んとこに飛んで来るのが当たり前になってきたもんな―」
「そうそう、ほんっとそれ。イチャイチャするのは家だけにしてくださ―いって感じ」
「イチャイチャじゃねえよ、あれは。ただからかわれてるだけだ」
「だとしても、傍から見てる分にはそういうふうにしか見えねーのよな」
この手の話題になると、彼はいつもそれを否定する。
男なんてだいたいあれだ。
自分に好意を向けられていると悲しいぐらいに勘違いする奴と、自分に好意を向けられるはずがないと思い込んでいる奴に二分化される(経験上)。
だから、告る時は回りくどいことはせずに正面からした方がいいって何度も言ったんだけどなあ。
彼の場合、恋愛的な意味での好きを友達としての好きとして受け取る可能性が高すぎる。
さっきので言うなら圧倒的後者。その中でも拗らせている方。
「そういうお前らはどうなんだよ。二人だって俺から見ればお似合いに見えるよ」
思わずきょとんとしてしまう。
「私とこいつがー????」
「おい、こいつってなんだこいつって。扱いひでーな」
「だってそうでしょー。
いかにも、小学生の心のまま体だけ大きくなりました―的な奴のこと好きになるかっての。
私は歳上でもっと大人な人がいいなー」
「お前、ナチュラルに人をディスるのだけはうまいよな。
ブーメランでしかないんだけどさ」
「あ?」
「こえーよ。圧かけんな。お前のは洒落になってね―んだよ」
「結城って中学とか高校の頃から変わったよな。こんなサバサバしてたっけ」
「誰のせいだ誰の」
「はっ‥‥‥中学の頃の茜だと‥‥‥!?
こいつにも小さくて可愛い頃があったんだと思うとなんか泣けてきた」
「うっさい。後方腕組みやめろ。今も可愛いだろうが」
誰のためにファッション勉強したと思ってんだバカ。
「可愛いって思われたいなら、その男っぽい喋り方はどーなん?」
うざい。こいつまじうざい。酔い潰れさせればあの子たちみたいに少しは可愛く見えるのだろうか。
「あーもう、今更言葉遣いが変わるわけないでしょ。もとはといえば」
「それよか想志くんよ」
聞いてきたくせに話ぶった切るな。まあ私の話題から逸れたから良いけど。
「お前は二人のことどう思ってんの」
いきなりぶっこんでくる神経に思わず吹き出しそうになる。
お前それは禁句じゃねえのかよ。
「どうって言われてもな―‥‥‥仲の良い友達とは思ってるよ」
「あーそうじゃなくてだな‥‥‥こう、恋愛的な意味でだ。好きとか付き合いたいとかそういうの思わないのか?」
「んー‥‥‥ないなーそれは」
うーんと考え込む割にはきっぱりと否定する。
「えーなんでー。二人ともすっごく可愛いし、想乃華は美人系の代表で結愛はかわいい系の代表なんだよー」
「代表ってなんのことだよ」
想志くんが呆れたような声で尋ねてくる。
「知らないの―??二人は大学の中でも美人!かわいい!ってので有名なんだよー!
先輩後輩構わず二人を狙ってる輩が多いこと多いこと」
「そうそう。
だってのに、休み時間の度に結愛ちゃんはお前のとこ行ってくっついてるし、バカやってるお前らを見守る想乃華ちゃん。これがいつもの光景になってから他の男は寄り付かなくなったし、終いには結愛ちゃんがとどめを」
「はいはい、そこ余計なことは言わない」
「そんな有名だったんだな。
ああ、だから結愛が入学したときとか想乃華の時も周囲に知らない男がそこそこいたのか」
「そーゆーこと。それを知らないのはあんたら三人だけ」
「お前らいつも三人の世界作ってやがるからな。結愛ちゃんも想乃華ちゃんも周りが見えてね―のなんの」
「その点、想志くんが居てくれたから変な男に捕まる可能性がないだけよかったけど」
妄想豊かな男が、想志くんが二人をたぶらかしてると思い込んだ挙句、手を上げそうになったのを何度私らで止めたことか。彼ら彼女らは知らないのだろう。というか知らなくてよろしい。ある意味たぶらかしてるという表現は間違いではないのだがそれは考えないことにしよう。
「はー全然知らなかった」
うむ、それでいい。
あの空間を壊されたくなかったから私たちはボディーガードの役割を買って出た。
「わり、酒なくなったからちょっくらコンビニ行ってくるわ。なんかいるもんある?」
「じゃあ私、ほろよいでいいやー。白いので!」
「あーい。想志は?」
「いいよ。それになんか悪いし俺も一緒に行くよ」
「ばか。空気読め」
そうして逡巡した後、彼は申し訳無さそうな表情をする。
「わかった。じゃあ俺のは想太に任せるよ。変に度数高いやつじゃなければ何でも」
「りょーかい。んじゃ行ってくるわ」
「いってら~」
想太にブンブンと手を振り、ガチャンと扉の閉まる音が聞こえた。
軽く息をつき、缶に残っていた残りをぐいっと飲み干す。
「はあ、行っちゃたね」
「前から思ってたけど、想太と結城って付き合ってんの?」
「え、私とあいつが?
いやいや、ないない。まったくもってそんなことない」
「そうかな。結構お似合いだと思うんだけど。気が合ってる感じするし」
「思い違いだよ。ったく、相変わらずこういうことには感が鈍いね」
「はいはい、すみませんでした」
そう言って、彼はぐーっと伸びをする。
「とはいえ、俺もちょっと眠くなってきたな」
「え、もう?早いよ―。もったいないよー。
こんな修学旅行の夜みたいなことなんて早々ないんだから。
こっからは恋バナタイムでしょー?」
「なんで疑問形なんだよ。知るかよ」
この手の話をすぐに逸らそうとする彼をじーっと見つめる。
あの頃からなーんにも変わってない。
「ねえ、ぶっちゃけ想乃華か結愛から告られたら付き合う?」
彼は見るからに嫌そうに目を細める。
「どうした今日は。やけに突っ込んでくるな」
「べっつにー。今更でしょ。それでどうなの」
深く息を吐き、二人の方に視線を移す彼がどことなくぎこちない。
「付き合わない。さっきも答えたろ」
「それはそうだけど‥‥‥想志くんは今まで誰かのことを恋愛的な意味で好きになったことはある?」
「んー、ないかなー。結城は?」
「あるよ」
「意外だな」
「もう、私を何だと思ってるのー。恋の一つや二つありますよーだ」
「わるいわるい。それでどんな人を好きになったの」
「臆病で大切なものを壊したくない、儚い人‥‥‥かな」
「それって」
「はいはい、私の話はいいんだってば」
強引に流れを切る。
それを話したくて時間を作ったわけではない。
回りくどい話は彼には意味がないかと思い、本題をぶっこむことにした。
「想志くんが嫌なことってさ、後悔をすることでしょ?」
「何が言いたい」
「今のまま行けばあなたは必ず後悔することになる。
気づいているんでしょう?
諭さなければわからないほどバカではないことは知ってる」
「なにを―――」
「これは忠告よ。
あなたが今まで信じてきたものをこれからも信じていくのなら何も言わない。
ただ、それ以外の‥‥‥これまでと別のこれからにはないものを手に入れようとしているのなら今のままではダメ。多少の差異はあれど、同じことの繰り返しになる。
それに何より、あの子たちとあなた自身に対して不誠実。あなたなら理解できるはず」
「ああ―――そうだな」
「うん!わかればよし!」
見せすぎたか。
迷いはあれど、彼にはこれぐらいが丁度良いと結論づける。
目的は果たした。
ならば、あとは飲んで騒いでこの欠片をより大きな意味を持つものにするしかない。
「想乃華ー!結愛ー!起きて―いつまで寝てんのー。夜はこれからでしょー!!」
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今思えば、この欠片はとても意味のあるものだった。
正確には、これがもたらした影響という意味だが。
同時に、これは始まりでもあった。
終わりに向かっていた旅路がもう一度輝き出すための道程に過ぎなかった。




