EXTRA"β"「seed」
『未来は変わっても運命は変わらない』
いつか、誰かがそう言ってた。
1秒後。10秒後。1分後。1時間後に起きる出来事は変化していても、個人の内にある大きな『因』という渦には逆らえないという意味。
因とは方向性。
理屈として頭の中では理解していても、本能的にそれに従ってしまう。
そのように収束されていくものである、と。
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黒
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「ねえ、佐倉」
いつも通りに呼んだはずなのに、彼女はとても驚いた様子だった。
「なに?どしたの、急に。初めて名字で呼ばれたんですけど」
「ああ‥‥‥ごめん」
「別に良いけどさ、変なの」
あれ、なんで私は名字で呼んじゃったんだろう。彼女とは小さい頃からの友達なのに。
いつも名前で呼んでいるから、それは違和感を感じなければならないはずなのに、どうしてか妙にしっくりと来るものがあった。
違和感と言うなら、むしろその謎の納得感の方が正しい。
『――――――』
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砂
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「最近、知らない人が出てくる夢を見るの」
「お、どしたん。いつもの夢占いですかそうですか」
「うっさい。いいから聞いてよ」
「あーい」
今、自分がどんな表情をしているのかわからないけれど、それを言葉にせずにはいられなくて、とめどなく流れてくる光景を紡いでいく。
「知らない人ではあるんだけど、なぜか親近感みたいなのがあって、とても懐かしいような感じがした」
零れ落ちる感情。その結晶。私。
「その人は前だけを見ていて後ろから見ている私じゃ顔を見れなかった。
きっと顔を見れば思い出せる気がしてその人に近づこうとするんだけど、どんなに走っても手を伸ばしても届かなくて‥‥‥
触れようと足掻けば足掻くほど、その人との距離は遠のいていった」
夢を見てある程度の時間は経っているのに、今でも鮮明に思い出せる。
「悔しかった。哀しかった。辛かった。もどかしかった。何も言えなかった。コウカイだけが強く残っていた。」
「彼は―――センパイは時折上を向いて、両手にグーッと握りこぶしを作って、何かを悔しがっているような感じがして、何かを諦めているような‥‥‥そんな様子だった」
「先輩?
結愛どうしちゃったの?」
本気で心配するかのように眼の前にいる彼女は私の肩を揺さぶる。
「あんたいつも、私に年上の友達なんているわけないとかなんとか言ってたじゃん。友達は同級生ぐらいなもんだって」
そうだっけ。言われてみればそんな気もするし、そうじゃないような気もする。
「ま、今日のところはお開きにしよ。結愛、なんか変だよ」
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黒
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「言い換えるなら、種、可能性‥‥‥もっと言うなら強いデジャヴ。
それは現実と夢との境を曖昧にし、時による風化をもろともしない。
明晰夢とは少し違う、絵や文章で事細かく表現できるイメージ。
お前のアプローチとは根幹から異なるが、これそのものが一つの可能性だ」
「はぁ‥‥‥またこれだよ。何度も言わせるな。
時間の流れは不可逆だ。
俺達が観測するしない以前に、まずそこに在る。
人間程度ではそれに従うことしかできねえのよ」
「それお前が言えるのかよ。ブーメランすぎて目も当てられねえ」
「うるせえ。
第一、夢ってのは寝てる時に脳の記憶を整理している内に様々な人物、背景、その他諸々が脈絡もなく繋がり合って見ているもの。
それに、夢には外からの衝撃をガードし、睡眠を保つ効果がある。
ほら、例えば俺が寝てる時に、俺の手をつまんだり引っ叩いたりしても起きないことってよくあるだろ?
つまりはそういうことだ。」
「わーったわーった。
だけどよ。お前がやってる、意識を過去の自分に上書きするだなんてのも俺とそう変わらんだろ」
「まあ、所詮俺等なんてそんなもんだ。
そもそも、分岐をターゲットにしたお前は俺より悲惨だろうがな」
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不
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「――――――」
誰かが叫んでる。
きっと大きい声なんだろう。
その表情がどれだけ重いものを背負っているのか計り知れないけれど、俺にはもうそんな当たり前ができない。
あの日から俺だけが何も変わっていない。
ならばせめて、身命を賭して、この渦に逆らう術を見つけなくては。
我々は選んだ重さで走るのではなく、積み重ねてきた道を証明するために走り続けているのだから。
自身の事柄全てに納得できる日が来たとき、我々は一つの答えを得るだろう。
そのために。それだけのために―――




