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Extra4「大好きで大切な人たち」

「先輩、花火ー」

「はいはい、花火ここにはね―ぞー」

「先輩、肝試しー。スイカ割り―。海水浴ー。こーよー。お花見ー。雪だるまー」

「ったく、そんなに行きたいなら友だちと行ってこいよ。ていうか季節、季節。ごちゃまぜなってんぞ」

「えー。先輩わかってるくせになんでそんな意地悪するんですかー。同学年の友達がいないだなんてこと今更言わせないでくださいよー」

「知るかそんなの。だいたい俺にじゃなくて想乃華と結城に言えよ。あいつらなら付き合ってくれんだろ」

「そうやってまーた意地悪するー」


 わざとらしく足をバタつかせる彼女に目をやり、声にならないため息を吐く。


「そうだぞ。彼女がいなければ俺等以外の友達すらろくにいないお前を見かねて声かけてくれてるんだ。いたずらするどころか感謝すべきとこだろ」

「そうだそうだー。先輩彼女いないんだしかわいそうー」

「うっせ。そういうの良いんだってマジで。めんどいだけだし」


 心底うんざりした表情でがっくりとうなだれる。


「意地悪なのはどっちだっつの。お前ら最近、俺で遊ぶの面白がってるだろ」

「えーーまっさかーーそんなことあるわけないじゃないデスカー」

「えーーまっさかーーそんなことないわけじゃないデスカ―」


 あまりのウザさに呆れて席を立とうとする。


「ああ、待ってください先輩!謝りますから行かないでくださいよー」


 そう言って袖を掴み、隣の席を指差す。

 はあ、と大きなため息をつき、彼女の隣に座る。


「先輩たちと行きたいのは本当なんですよ。せっかくなんだし沢山思い出作らないともったいないじゃないですか」

「結愛ちゃんがここまで言ってるんだ。先輩として後輩の頼み事を聞いてやっても良いんじゃないか」

「はあ、またいつもの言葉遊びかよ。俺を言い含めるのうまくなったな」

「だろ」

「そのドヤ顔うぜー」

「はいはい、喧嘩は止め―」

「喧嘩にすらなってねえっての」


「それでどっか行きたいとこあるの?」


 結愛の言うことをただ聞くのも癪だから嫌そうな表情をして尋ねる。


「花火!見に行きたいです!!夏祭り!!!」


 あー、そういえばもうそんな季節かーなんて思っていると、なにか引っかかりのようなものを感じた。


「花火って昔みんなで行ったことなかったっけ」

「何言ってるんですか先輩。行ったことなんかないですよ」

「んー、俺も行った記憶はないな。勘違いじゃないのか」


 そう言われればそんな気もするし、俺の思い違いか。


「やったいー。しゃってきー。わったあめー。きんぎょー」

「楽しそうだな」

「当たり前じゃないですか!

 だって夏祭りですよ!屋台いっぱいですよ!!花火ドッカーン!ですよ!!!

 考えるだけでワクワクしちゃいます!」

「遠足に行く小学生かよ」

「悪態つくわりには想志だってニヤけてんじゃねえか」

「うるせー、たまたまだよ」


 楽しみ!ルンルン!って感情をめいいっぱい見せつけられたらこっちがなんかむず痒くなる。

 まあ、結愛のこんな表情が見れるなら行くのもしゃあなしか。


「あ!夏祭りといえば浴衣!花火といったら浴衣!

 なに着ていこうかな~」

「おー!結愛ちゃん浴衣着るの!?結構ガチじゃん!」

「せっかくですからね。

 とは言っても着たことないから着付けとかどんなのが良いかとかよくわかんないですけど」

「良い!良い!!めちゃ良いじゃん浴衣!

 うんうん、これが女の子が華だと言われる所以ですかそうですか」

「んだよ急に早口こえーよお前の方こそガチ勢かよ」


 身を乗り出して目をキラキラ輝かせる想太に若干引いてると、結愛がちょいちょいと手を引き、スマホを見せてくる。


「先輩はどんな浴衣が好きですか?柄とか色とか」

「そうだなー

 ていうか浴衣とかあんま実物見たことないしわからんのよな」

「えー!なにそれつまんないー!」

「うるせー。夏祭り友だちと行ったことない面白みのない人生でわるーござんしたー」

「陰キャ」

「朴念仁」

「うっせ。友達いねー奴に言われたかねえよ」

「またそういうこと言うー!痛いとこ突かないでくださいよ」

「お前が言うな、お前が」


 時計に目をやると、時刻は16:10。

 あいつらが受けてる4限も終わる頃だろう。


「そろそろ想乃華たち来るだろうし、どっか場所移動するか」


 それを聞いた途端、スマホに夢中な結愛がほんの少しだけ顔を歪ませた‥‥‥気がした。


「それは良いんですけど、ほらこれっ!」


 がばっとスマホを突き出し、色鮮やかな画面が視界いっぱいに映る。


「鯉の刺繍!黄緑!」


 そこに映っていたのは、元気いっぱいって感じの色合いをした浴衣だった。


「これめっちゃ良くないですか?ちょー可愛いんですけど」

「うん!いい!結愛ちゃんの雰囲気に合ってる!」

「でしょでしょー。先輩はどうです?これ」

「良いと思う。お前らしいよ」


 素直に褒めると付け上がるけど褒めるときは褒める。

 いやー、俺ちゃんと先輩してんなー。

 謎理論を展開していると、想太がやけにニヤニヤした顔を向ける。


「前から思ってたけど、想志ってほんとツンデレだよな。

 結愛ちゃんから目を逸らして、顔赤くして褒めるとかテンプレかよ」

「そうそう。先輩ってそういうとこいちいち可愛いんですよね。頭良いけどこういうのに弱い感じ」

「茶化すな。そんなに言うなら祭り行ってやんねーぞ」


 そう言うと、尚のこと二人は笑いだす。


「だから、それがツンデレなんだって。気づけよ」


 笑いすぎだろこいつ。


「ほんとですよ先輩。可愛すぎて飼いたくなっちゃいます。私の弟になります?」


 何言ってんだこいつ。最近こういうノリ増えたなマジで。


「うっせ。

 ったく、俺は先行ってるからなー」


 これ以上あいつらのペースに乗せられるとたまったもんじゃないので、さっさと店を出ることにした。


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「あーあ。行っちゃいましたね」

「そうだな。俺たちも行くか」



「待ってください」



 今、自分がどんな顔をしているのかわからない。

 これがどんな気持ちなのかもわからない。

 むかむかとした、言葉で言い表すのが難しい何か。


「聞きたいことがあるんです」

「何でも言ってみ」


 ひとつ、深呼吸をする。

 聞いて良いことなのかすら判断がつかないけど、この感情を風化させてしまったらいけない気がして。


「本当に、想志先輩は夏祭り行ったことないんですよね?」

「ん、あーそれか。ないよ。少なくともあいつが行ったところを俺は見てないし聞いてもいない」

「そう‥‥‥ですか」

「さっきも似たような話ししてたよな。なんか気になることでもあるの?」

「いえ‥‥‥なんというか‥‥‥その‥‥‥」


 なんて言い表せばいいかわかんない。

 それっぽい言葉が浮かんでは消え、浮かんでは消え、いまいちしっくりと来ない。


「デジャヴか」


 その単語にパッと顔を上げる。


「そう、それ!」


 それを耳にして、私はわけもなく、何かが在るべき所に戻った気がした。

 全てが腑に落ちるような、すっきりとした感覚。


「デジャブを感じ始めたのはいつ頃から?」

「つい、今さっきからです」

「そうか‥‥‥」

「どうして、デジャブだと思ったんですか?」

「なんとなくだよ。前に夏祭りに行ったことがある、みたいな既視感を含んだ言い方だったからだよ」


 この人、頭悪そうな雰囲気出してるくせに妙に勘の良いところがある。

 想太先輩のことは好きだけど、想志先輩と同じで変な危うさがあるのがちょっぴり怖い。

 そもそも、私たちがこうしていられるのは‥‥‥こうしていられるのは‥‥‥あれ、なんだっけ。急に頭の中に靄がかかったような感じ。


「それにしても、夏祭りか」 


 うわの空。なにか大切な思い出を懐かしむような表情。

 それが、私にはとても懐かしくて。


 そんな想太先輩を見ていられなくなって、ちらっと手元のスマホに目線をやる。

 目に入ったのは、朝顔が目立つ白地の浴衣。

 なぜだかとってもイラッとするから、タブを消すことにした。


「ほら、俺たちもそろそろ行こうぜ。

 あいつ、本当に家に帰っちまいかねないからな」

「そうですね。じゃあ行きますか」


 -----------------------------------------------------------------------------------


 会計を済ませ、店を出ると近くで聞き慣れた声がする。


「こーら想志くん?どこ行こうとしてるのかなー??

 そっちは想太くん家とは真逆だよねー。というか想志くん家の方だよねー」


 声のする方を見ると、ニコニコした茜先輩が想志先輩の首を背後から腕で締めているところだった。

 いつもの光景である。


「すんません、マジすんませんっ」

「んー?聞こえな―い。

 謝ってほしいんじゃなくて、どこ行こうとしてたか聞いてるだけなんだけどな―。

 まさか家に帰ろうとしてたんじゃないよね、ね」

「いや、まさかそんなわけ‥‥‥」

「あ、ちなみに嘘ついたらもっと締めるから」

「ごめんってば!

 そのーあのー‥‥‥帰ろうとしてました‥‥‥」

「はーい、よく言えましたー。

 本当のこと言ったのはえらいけど、みんなで想太の家で飲むって約束破ろうとしたのはそれはそれでお仕置きしないとだよね」


 そう言って、茜先輩はより腕に力を込める。


「結局、締めるのかよ」


 ギブギブと、先輩は両手を挙げる。


「ごめんなさい!俺が悪かったです!!」


 それでも止めようとしない茜先輩を見かねてか、隣にいる想乃華先輩が止めに入る。


「もうそれぐらいでいいってば!

 茜、もうやめたげなよ」


 あたふたしてる想乃華先輩かわいい。結婚したい。切実に。

 なんておじおじしてると、一緒に店を出た想太先輩が一緒に行くぞと手を引いてくれる。


「騒ぐのは学生の特権だけど、店の前ではほどほどにしろよーお前ら」

「そうですよー!私らここにお世話になってんですから、ここでたむろって評判落としちゃまずいですよ」

「うう、後輩の正論パンチ効くぅ‥‥‥」


 ようやっと五人揃った。

 楽しみにしてた宅飲み?ってやつをやれる日が来てウキウキワクワクが止まらないんですけど!


「んじゃ、買い出し行くか。

 逃げようとしたバツとして、想志の奢りな」

「いいですね、それ!

 悪いことしたらそれ相応の報いを受けるべき!」

「え、マジかよ」

「そーうーしーくん?」

「はいわかりました!喜んでお支払いさせて頂きます!」


 茜先輩の圧に気圧されて姿勢を正す先輩。

 かわいい。これはこれでアリかも。むしろ良いまである。

 はぁ~。ペット飼いたいなぁ(意味深)


「先輩の奢りで飲むお酒楽しみだなー」

「お前、さらっとやべー顔してひでーこと言ってんな」

「な、女の子に対してやべー顔とはなんですか!やべー顔とは!!」


 ムキーって怒りを表に出してみるものの、いまいちちゃんと怒れない。

 だって可愛いんだもん、しょうがないよね。


「はいはーい!提案ていあんー!

 買い出し行くメンツ多すぎてもアレだし、想太は先に家行ってなさい。」

「んだよ、それ提案じゃなくて命令になってんぞ、自覚あんのか」

「うっさい、どうせ部屋散らかってるんだし着くまでに片付けしなよ」

「扱いひでーなおい!?誰も部屋貸したくねーっつうからおれん家にしてやったんだけど!?

 ていうか散らかってるの前提かよ」

「見なくてもわかるわ」

「はぁ。わかったよ。

 んじゃ想志と先行ってるわ」

「ちょい待ち。想志くんはお財布だから連れて行くに決まってるでしょ」

「財布!?今財布って言った!?扱いひどくなってない!?」

「いいから。買い出しは私たち四人で行くから」

「結局人数多いんじゃねえかよ」

「文句は?」

「ないです、ないですよー。

 わーったからさっさと行ってこいよ」

「言われなくてもそうするっての」


 そうして、想太先輩はとぼとぼと別の道を行く。

 同情はしないけど、こういう裏表のない絡みが先輩たちの良さだ。

 そゆとこ好き。大好き。


「おーい。結愛ー。置いてっちゃうよ―」


 物思いにふけっていたら、いつの間にやら距離ができていた。


「はーい!今行きます!」


 やっとテニイレタこの道を踏みしめながら先輩たちのもとに向かう。

 駆ける足は軽く、迷いはない。

 全てに納得はいかないまでも、それでもこの光景は間違いなんかじゃないという確信がある。

 きっと、それらを理解するのは遠い先の話。

 だから、せめて今だけは―――


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 Interlude


 後ろを振り返り、あいつらが行ったことを確認し、ほっと胸を撫で下ろす。

 危うくボロを出しそうになったが、アイツの機転に助けられた。


 兆候はあった。


 ようやくだ。

 やっと次の段階に進める。


 俺たちが望んだような展開では意味がない。

 想像すらできない可能性を引き出してこそ、コレは意味がある。



『起きてしまったことを変えてはならない』


『過去を否定せず、それに責任を取り続けることが過去を生かすということなのだと信じてきた』



 ああ―――お前の言う通りだ。間違っちゃいねえ。

 だけどよ、お前はそれで納得できるのか。


『他にもっと良い方法はなかったのかな』


 他の可能性があったことをあいつも示していただろう。


 ギリッと、奥歯を噛みしめる。


「あとはなるようにしかならねえか」


 全員が納得できるだなんて甘ったれた空想を夢見てるわけじゃあねえ。

 ただ、俺はあいつのあんな顔をもう二度と見たくないだけだ。



 欠片が弾け、藻屑となって消えてゆく。

 俺はそれを見つめることしかできなかった。

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