Extra
『善意には何かしらの裏がある』
当たり前のことで暗黙の了解のようなもの。誰も彼もが善意のみで行動するなんてことはほぼありえない。仮にあったとしても、誰かの喜ぶ顔が見たいとかそういう何かしらの意図があるのが普通だ。
だが、彼は違った。それが良いことなのか悪いことなのかハッキリとはわからないけれど、みなにとっては彼によってもたらされる結果があればいいのだろうけど、きっと私たちにとっては決して許してはいけない行為だったのだろう。善意一〇〇パーセント。助けることで感謝されたいとか存在価値を認めてもらいたいとかそういうのじゃない。
ただ助けたいから。無視できないから。見て見ぬ振りをしてはいずれ悔いることになるから。悲しんでる顔を見たくないから。本当にそれだけ。
誰もが彼に疑いの眼差しを向けていた。そんな人間はいない。いるはずがない。いていいはずがない。いちゃいけない。だって、彼を認めてしまえば‥‥‥受け入れてしまえば、善意の裏にある何かを持っている自分が悪者のように感じてしまうから。当たり前が当たり前じゃなくなるから。だから、彼が生徒会を通じて矢面に立つ機会が増えてからは、彼に対する風当たりが強くなっていった。お前の言う『理不尽なことがない日常』ってのはあまりに理想すぎる、それを公約にするということは学校にある知らない所でのいじめや体罰も失くすというのか、と。彼らの意見がわからないわけではない。むしろ、それは正しいものだ。彼の方が狂っていると言っていい。
―――だけど―――
「どったの―――。また後ろ向きなこと考えて暗くなってた?
お前昔からずっともじもじしてて仲いい男友達のひとりすらろくにできてないもんな。
‥‥‥あー、まああれだ。んで、何があった」
―――保育園の時から一緒で小学校も中学校もずっと同じクラスの子でも―――
「―――。そういやお前がネガティブなってるとこ見たことないかも。相談したいことあったらいつでも言えよ。無理にそうしてるのを見るのは耐えられん。お前はいつだって明るく接して、それこそ誰とでも仲良くしてるけどさ‥‥‥だからこそ誰にも言えないことの一つや二つあるだろ。
ちょいちょい我慢するのは別にいいと思う。お前がそうしたくてやってることだからな、いちいち口うるさく言わねーよ。
確かに、友達に笑顔でいてほしいからっていう理由は立派かもしれねえ。行動に移せてるお前にみんな言葉にはせずとも感謝してるだろーよ‥‥‥でも‥‥‥でもよ、いくら大事な友達のためとはいえ、お前がお前自身をふさぎこんでたら何の意味もねえだろ。そんなに自分の中の何かが溢れる限界まで来るまで我慢するのはダメだろ。そこまでしてたら、いつか自分の大事な気持ちにまで気づけなくなっちまう‥‥‥俺は‥‥‥俺はっ‥‥‥お前のそんな姿見たくねえよ」
―――仲良くなって一ヶ月ぐらいの子でも―――
「なあ、―――って友達作んないの?言葉選ばすに言えば、お前ってわざと不愛想にしてるようにしか見えないんだよなー。お前は頭いいし‥‥‥あー、勉強とかそういう意味だけじゃなくて生き方が賢い‥‥‥みたいな‥‥‥?そんな感じ。そういう風に振舞ってたら向こうから願い下げになるってわかってるのにこうしてきたのはどうして?
―――そっか‥‥‥じゃあさ、俺と仲良くしてくれてるのはお前に認められたってことでいいのか?
―――ほんとおもしれーな、お前。だったらさ、もっと一緒に遊んだり話したりして同じ時間を過ごそうぜ。たぶん、このクラスはお前が思ってるよりお前に優しいはずだ。
だから、ほら―――」
―――超超超ツンツンしてて見るからに関わりづらい子でも―――
「ありがと。知り合ったばかりなのにこんなにしてもらって、なんかわるいな。というか、クラスも違うし学年も違う。特別仲のいい共通の友達がいるってわけでもないのにここまでしてくれるのは‥‥‥いや、なんでもない。とにかくありがとう。俺んとこばっかに来るんじゃなくて自分のクラスで楽しめよ!」
―――彼女にも―――
「あいつは夏からずっと一人で練習してきた。やらなくてもいいことなのに、わざわざ俺たちのために引き受けてくれた。俺はピアノなんて弾いたことも無ければ、誰かの前で演奏をしたことすらない。そんな俺でもわかる‥‥‥こんなのやりたかねーよ、誰だって。そりゃあ、頑張って練習して上手く弾ききれば多少は褒めてもらえるんだろうけどさ、あいつ部活もガッツリやってて大した時間もねーのにちゃんとできるか確証も保証もない‥‥‥それでも、誰も手を挙げないからっ誰もやりたくないだろうからってただそれだけの理由で、やるって決めたんだよ。
みんな知らねーだろ。あいつ、いつも練習終わるたびに泣きそうな顔すんだよ。全校生徒の前で失敗して演奏が止まって恥ずかしいとかみっともないとかそういうのじゃなくて、みんなに迷惑かけたくないって‥‥‥そればっかり言ってて‥‥‥俺は‥‥‥すべてが終わったとき、この仕事を引き受けてよかったってあいつに思ってほしい‥‥‥結果なんて二の次でいい。誰も優勝できるなんて思ってない。俺はあの舞台であいつの笑顔が見たいだけなんだ。
あいつは毎日のように言ってくる。『途中で止まっちゃうかもしれないけど、たくさんたくさん迷惑をかけちゃうかもだけど、それでも歌い続けてほしい。私のことなんて気にしなくていいから、あんたが指揮者として最後までみんなを引っ張って』
わかってるだろ。こんなただただ友達思いな奴を泣かせていいわけねえだろ。ましてや、あいつの演奏に口をはさむなんてあっちゃいけねえ。
三ヶ月前、先生からだれかやる人はいませんかって聞かれたとき、誰も手を挙げずに何も言わずに静まり返って、どうせ誰かやってくれるだろう、自分はやりたくないからって他人任せにしたのは俺たちだろ。男だとか女だとか、ピアノやったことあるとかないとか、そういう話じゃねえんだよ。どんな理由があっても、どんな言い訳があったとしても‥‥‥あいつに押し付けたのは俺たちだろうがッ―――あいつに感謝することはあっても、文句を言う資格は誰にもないだろうが。もし仮に、何か言いたいことがある奴がいるのならここで言ってくれ。それと、裏でコソコソ言うのはなしだ、安全な立場から好き勝手言ってんじゃねえぞ。
―――ありがとう。俺から最後に一つだけお願いだ。何があっても俺たちはあいつを信じて歌い続けること。それがあいつの望みで俺の願いだ。
だから‥‥‥だから、非力でこんなどうしようもないほど下手な指揮者に‥‥‥ついてきてください」
―――私の知らないところでも―――
いつだって、彼は誰かの味方をしていた。それを気に食わないと思う一部の生徒や先生はいたが、いつしか彼はそういう人物なのだと受け入れていた。
だからこそ、カレの姿が痛々しくて見ているのも辛かった。
「あ?優しくした覚えなんてないよ、一度も。それが一番手っ取り早かった、効率が良かった、それだけだ。他人の気持ちなんて考えるわけねえだろ」
―――どんなに仲のよかった子でも―――
「俺はお前を好きになることはない。友達として仲良くすることもない。だから、お願いだから‥‥‥もう二度と‥‥‥会いに来ないでくれ。お前といると気分が悪くて吐きそうだ。何より、俺は‥‥‥お前のことが‥‥‥大嫌いだ」
―――彼女でも―――
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
―――例外なく、ただ一つの願いすら叶うことなく―――
誰かを拒絶する時、彼は決まって泣きそうな顔をしていた。
誰かを切り捨てた後、彼は決まって校舎裏の隅で泣いていた。
その顔を憶えている。きっと、何があっても忘れることはない表情。彼との記憶。
怖い。逃げ出したい。この想い出以外すべて忘れて、あの場所でずっと暮らしていたい。
‥‥‥でも、でも―――こんな結末だけはあってはいけない。
だから、私は――――
パチッと、消える泡のような音がした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Another side
それ以外俺には何もないことを自覚した。当たり前のように持つ感情も機能もすべて。そうするとは別の方法が思いつかなかった。わからなかった。受け入れられなかった。俺が関わろうとしなくても相手のほうから寄り添ってくれるのなら、時間が進むにつれてそれがより強くなっていくのなら、どうしていいのかもどうしたいのかもわからないけど、何をしてはいけないかだけはハッキリとわかるから―――だから、己は他者に対して興味がなく、関わる意欲も無く、女の子を忌避する―――しなくてはならない存在なのだと定義付けた。機械のようにそう役割を与え、人形のようにその痛みを無いものとして処理した。
俺だってあいつらのことを本気で嫌ってるわけではない。けど、時は止まってくれないから。日々が移ろいで季節が変わっていく毎に気持ちは移り変わっていくものだから。ずっと誰とでも仲良く、誰にでも都合のいい自分ではいられないから。もとより、そんな資格はないから。
これでよかったのだ―――これで。
「お前のことが大嫌いだ」
―――吐いた。何度も何度も。もう何も出なくなるぐらいに、何度も。
言いたくなかった。もっと仲良くなりたかった。お前の言う恋人にはなれなくても、友達としてなら仲良くできると思った。だけど‥‥‥だけど、関わり続けていたら‥‥‥お前がそういう気持ちを持ってくれていると知ってしまったから‥‥‥いつまでもそんな関係が続くわけないとわかっていた。機械的な人生を歩むと決めたあの日から、恋なんていう余分なものはできないと自身に運命付けた。そんな俺といてもその想いを持ち続けてくれている限り、お前は幸せになれない‥‥‥恋をして付き合ってっていう望みは叶うことがなくなってしまう。だから―――
怖くなかった
/口が震えていた
何も痛くなかった
/胸が張り裂けそうだった
―――を拒絶したんだ。もうこれ以上迷わなくていい。
それなのに―――
「アンタはどうしていつもいつも―――」
少しだけ、小指の先っちょだけ期待してた。あいつなら、こんな俺でも‥‥‥って。
あいつは俺が思ってたより強情で人聞きが悪くて人の内側に土足で入り込んでくる。
結果だけを言うなら、期待通りだった。期待以上だった。でも、俺のせいであいつをここまで追い込んでるんだって嫌というほど思い知らされた。俺はお前に幸せでいてほしかった。笑っていてほしかった。それを曇らせているのが俺自身だというのなら、とるべき行動は初めから決まってた。
無視をした。
無視をした。
無視をした。
無視をした。
無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。無視をした。
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数えきれないほどの無視をした。
「おはよ!今日も相変わらず何考えてるかわかんない顔してるねー」
「さっきの授業のノート見せて!途中寝ちゃってて全然書けてないんだよ~」
「ね、赤ペン貸して。音楽室に置きっぱにしちゃったみたいで」
「一緒にご飯食べよー。あ、ほかの人の視線が痛いからとかそういうので逃げるのはなしだからね」
「うっわ、中学にもなって棒人間しか書けないとか、美術の先生が知ったら泣いちゃうかもね。ほら、仲良いんでしょ?あの先生と」
「うー、ねむ。ご飯食べた後の授業ほど面倒なものはないよねー。てか、なんであんたは居眠りとかしないの?人間じゃないでしょ絶対」
「まーた困った顔してる‥‥‥思ってるより顔に出やすいタイプだから気をつけたほうがいいよ‥‥‥んで、何があったの?好きな人ができたとか?」
「部活、一緒に行くでしょ?行くよね?‥‥‥うん、じゃあ決まり!行こっか」
「ふぁ~今日も疲れたーーー。いくら体力ゲーだからって毎日シャトルランやらされるのはちょっとね‥‥‥」
「いいから帰ろ。私がこうしたいからあんたを連れ出してる。あんたはそれに流されてるだけ。付き従ってるだけ‥‥‥ね、都合のいい理由は私がいくらでも作ったげるから。だからほら、帰るよー」
時が進んでも、あいつらは何も変わらなかった。
「私じゃだめですか?年下はだめなんですか?
先輩の好みを教えてくださいよ。先輩のためなら何でもやるから。好きになってもらえるように頑張るから」
「ならどうしてっ‥‥‥どうして‥‥‥想乃華先輩に見せる笑顔を私にも向けてくれないんですかっ‥‥‥私では一緒に過ごした時間が短いから‥‥‥だめなんですか?これから一緒の時間を増やしていくのではだめですか?お互いのことを何も知らないからですか?ガキで背も低くて先輩からしてみればただの子供にしか見えないからですか?もっと大人っぽくなれば気にかけてくれますか?‥‥‥友達でもいいから、恋人じゃなくていいから‥‥‥好きじゃなくて‥‥‥いいからっ‥‥‥それでもだめですか‥‥‥」
「答えてくださいよっ‥‥‥先輩は‥‥‥困ってる人を‥‥‥助けを求めてる人を‥‥‥泣いている人を‥‥‥‥‥‥平気な顔して放っておける人ではないでしょう‥‥‥」
「そんなことしてくれるなら、いっそのこと優しくされないほうがよかった‥‥‥やっぱりあの日から何も変わってないじゃないですか、先輩は
もうあの頃とは別人なんだってそう言い聞かせてたのに、関わることを諦めようとしてたのに‥‥‥なんで今になってそんな姿を見せてくれるんですかっ‥‥‥‥‥‥」
俺が弱かったから、余計に縛りつけてしまった。本当は拒絶なんてしたくない、そんなつもりはない、本当はもっと話したい仲良くしたいって伝えたかった。言葉では言わずとも、衝動的に身体が動いてしまっていた。
彼女を見て、知って、ほんの少しだけ触れ合って、理解できなくて、拒絶して、輝井想志ではない誰かを演じて、ぼろが出て、付け込まれて、また無視をした。
中途半端だからいけなかった。徹底的にできていなかった。自分に甘かった。どこか心の中で彼女たちにすべてを話したいと一ミリでも思ってしまったのがいけなかった。それに気づけてからは、もう迷うことはなくなった。今までよりもより機械らしく心を鋼のように固くし、自らに定めた役割に徹した。
それでも―――
「ね、憶えてる?あの日のこと。あの日々のこと。私はね、全部憶えてる。練習が終わった後に言ってくれた言葉も、頭を撫でてくれたことも、大丈夫だよって示してくれたことも、私を遠ざけて守ってくれていたことも、何もかも。」
そっと、何かが零れていくような感覚に襲われた。
「嬉しかった。楽しかった。辛かった。苦しかった。でも‥‥‥何より‥‥‥幸せだった。あんたの相棒でよかった。あの日勇気を出して手を挙げてよかった」
開いた孔から今まで無視してきたり拒絶してきたりした時の感情や、堪えていた涙とか想いが溢れた。それが塞がることはなく、穴が開いた風船から漏れ出す空気のようにひたすら流れていく。
想乃華になら、言ってもいいのか。ぜんぶ、なにもかも、俺がこうなった理由も‥‥‥すべて。
「今の想志はあの頃とは変わったし、中学のみんなが見たらまるで別人のように思うかもしれないけど、想志のことなんだし‥‥‥なにかあるんでしょ?‥‥‥まあどうせ他人のためなんだろうけど」
苦笑い交じりに、彼女はそう言った。
「想志は私のこともちょっとは考えてくれてそうしているのかもしれないけどさ、別にいいんだよ、話しても。というか、むしろ話してほしいぐらいなんだけどね。
迷惑かかるからとか、今までの自分を否定するからとかそういうのはこの際考えなくていい。ひとりの女としてじゃなくて、あんたの相棒としてあんたを助けたい」
ああ―――何を選んだって間違いじゃない。自分の信じた道が正しいと示すために、自分の選択を正しいものにするためにこれからを頑張ればいいだけの話。今までだってそうしてきたし、この先も変わらない。
だから、俺は―――
case.1『今までの自分を裏切ることはできない』
だめだ。拒絶することは間違いではない。それはとっくに証明済みのはずだろう。
誰かを助けることはできなくなったが、その代償として俺のせいで誰かを傷つけることはなくなった‥‥‥ナクナッタはずだ。俺が守りたいもの―――俺にとって特別なもの―――
それは‥‥‥それはっっ‥‥‥それhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh
プツンと、何かが切れる音がした。
お前らとの想い出は大切だけど‥‥‥俺の今までとこれからの行動を、選択を‥‥‥その決断の障害になるというのなら、オレはヨロコンデこれを捨て去ろう。二度と思い出さないように、脳裏にちらつかないように。お前らにもう一生会わなければ、きっと‥‥‥きっと忘れられるはずだから―――
「想乃華。俺はお前のことが大嫌いだ」
心は固く、誰にも触れられることはなく、たった一つの代償として朽ちていく。
これは正しいのだと、そう信じて―――
case.2『自分のために。想乃華のために。結愛のために。』
―――相棒として―――
確かに彼女はそう言った。それは紛れもなく、あの時間が彼女にとっても大切なものになっていたから。俺を信じてくれているから。
拒絶すれば‥‥‥無視をすれば‥‥‥もう傷つけなくて済む。悲しい顔を見なくていい。そう思ってた。まるで洗脳するかのように自分に言い聞かせていた。
でも、でも違った。拒絶して相手も引いてくれたまではよかったけれど、ふたりはまるで違っていた。無視をすればするほど、拒絶すればするほど泣いていた。心配してくれていた。それに気づいてしまったら‥‥‥自覚してしまったら、今の在り方を変えなくてはいけないから、今まで切り捨ててきた人たちの思いをどこにも持っていく術がないからずっと気づかないふりをしてた。
「だからお願い、私に‥‥‥私たちに‥‥‥あんたが今まで何を考えて行動して何を感じて‥‥‥本当はどうしたかったのか‥‥‥どうなってほしかったのか‥‥‥あんたは今どうしたいのか‥‥‥全部話すのが難しいのなら、せめて最後の部分だけでいいから聞かせて‥‥‥聞かせなさい」
三年間。
何十年と生きていく人生の中では取るに足らない時間。さりとて、俺のすべてに値する想い出。
そのすべて。これからをココに。
~to Extra route~




