第三部 第九章「望み」
ボランティア2日目の夜。ホテル。女子部屋にて。
-----------------------------------------------------------------------------------
「単刀直入に言いますね。‥‥‥想乃華先輩は遠慮しすぎです。」
「だって、もうそれは昨日言ったよ。私なんかよりも、結愛の方がいいって思う。」
もう。本当に、似ているんだから。
「気遣ってくれる気持ちは嬉しいんですけど、私的にはそういうのは止めてほしいっていうか‥‥‥。」
私が。先輩の隣に居たい。けど、私は先輩を傷つけたから‥‥‥その資格はない。先輩には、多くの人を助けるんじゃなくて、本当に大切な人だけを助ける人になってほしかった。わがままだってのはわかってる。自分勝手なのもわかってる。‥‥‥でも。あんなの見てられない。中学の頃からそうだった。二人はずっとお互いのことを気にしていたのに、文化祭以外の時は決して関わろうとはしてこなかった。あんなの、傍から見れば、互いに好意を抱いているのは丸わかりだった。想乃華先輩はともかくとして、想志先輩が恋愛感情の『好き』を持っていたかまでは分からない。けれど、想乃華先輩のことを他の人とは違って特別扱いしているのに変わりはなかった。想乃華先輩と喋ってる時だけやたらと笑顔だし、顔赤らめてるし。すっごく、優しい声で話してるし。‥‥‥私にも、他の誰にもあんな笑顔は見せてくれないのに―――
だというのに、想乃華先輩が困っていそうな時でも、それより多くの知らない人を助けてた。
『なんで?どうして想乃華先輩を優先しないの?』
それだけが疑問だった。けれど、先輩のことを知れば知るほど。あの人はただ、悲しんでいる多くの人を助けたいだけなのだと。泣いている顔を見たくないのだと。そう理解することができた。
だから、いいんです。私じゃなくて。先輩たちはとっくに―――
「そっか‥‥‥。結愛は‥‥‥そう思ってるんだ‥‥‥。」
ああ―――さっさとくっついてイチャついてくれてれば、とっくに諦めきれてたのに。
「二人はお似合いだと思いますよ。少なくとも私はそう思います。」
「もちろん。この部を作ったのは恋愛目的じゃないですけど。‥‥‥いいんじゃないんですか?想志先輩とちょっとくらいイチャついてくれても。」
「それは‥‥‥。」
口ごもって言葉を探している想乃華先輩の様子を見て、今しかないとばかりに畳みかける。
「最終的に、先輩の隣に誰がいるかなんていう事は今はわかりません。‥‥‥それに、先輩のもっと近くに居たいと思う気持ちが少しでもあるのなら、今楽しむべきだと思いますよ。」
「想乃華先輩も見たじゃないですか。‥‥‥あの光景を。今っていう時間は、もう戻ってこない、いつ消えてもおかしくないんですから。」
あのご老人。佐藤さんも言ってたじゃないですか‥‥‥。
『今を大切にしなさい』って。
「私はね。想志のことが好き。大好き‥‥‥なの。でもね‥‥‥きっと。私じゃなくて結愛の方がお似合いだと思うの。‥‥‥前にも言ったでしょう?私は今まで何もしてこなかったの。想志が変わっちゃってから何も‥‥‥。‥‥‥でも。結愛は違う。私なんかとは大違い‥‥‥。結愛が動いてくれたから、今、私はアイツと関われてるの‥‥‥。結愛から来てくれたから‥‥‥。」
どうしてこうなるのだろう。私は想乃華先輩が相応しいと思っているのに、想乃華先輩は私のことを思ってくれている。どうして‥‥‥こうもうまくいってくれないのだろう。
『こんなんじゃ‥‥‥諦めきれないじゃん‥‥‥』
ズルい。‥‥‥本当にズルい。本当に、あなたたちは他人のことばっかり―――
-----------------------------------------------------------------------------------
そうして、私と想乃華先輩で一つの取り決めを交わした。それは―――
『想志先輩と想乃華先輩が卒業するまで、決して想志先輩に告白をしない』
たったこれだけ。これ以外なら何をしてもよいことになっている。
猛アタックをするもよし。距離を置くもよし。
先輩は、私たちが好きにならないと言っているから、近くに居ても遊んでも何も言わない。間違っても好きなどと言ってはならない。それをしてしまったら最後、二度と彼とは関われないから。
私たちの目的はただ一つ。
それは、彼にとっての『特別』『大切』を選んでもらうことのみ。見知らぬ誰かではない。多くの顔も名前も知らない人ではない。義務感でも強制でもなく、彼の本意で選び取ってほしい。
私たちはあのボランティアで、嫌というほど『終わりは突然やってくる』ということを思い知らされた。対策などない。命は助かっても、確実に失ってしまうものがある。
『今』しかないんだ。この時間は。この空間は。だから、私たちはこうしている。彼のこれまでの在り方についてとやかく言うつもりはない。ただ、私たちは彼に笑っていてほしいだけ。大切な人と、特別な人とかけがえのない時間を過ごしてほしいだけなのだ。
エゴだということは言われるまでもない。それでも、私たちはこれを選択したのだから―――
-----------------------------------------------------------------------------------
Interlude
正直な話。私はこの前のボランティアへの参加には反対だった。四人で行くのなら賛成だけれど、先輩にだけはどうしても参加してほしくなかった。だって、見ず知らずの人を平気な顔で助けて、それが当たり前かのように振舞っているんだよ?先輩のことを好いてる人も嫌いだと思っている人も、誰彼構わず。結果的に助ける事が出来るかどうかはさておき、そのための行動を息を吐くのと同じようにやってのける先輩のことが、少しだけ恐ろしかった。だってそれは、優劣をつけていないって事でしょう?先輩はわかってやっているのかは知らないけど、自分と他人にも優劣をつけているのかどうかが不安だなって思った。
そんな人が、顔も名前も知らない人たちがこれまで襲われてきた惨状を見に行かなきゃいけない、なんて言い出すんだもん。ただでさえ、アレなのに。実際に見に行ったら、先輩の中で何かが外れちゃうような、先輩が先輩でなくなっちゃうような気がした。
怖かった。次の日、先輩に会った時に、もう取り返しのつかない所まで行ってしまっていたら‥‥‥って。だから、こっそり部屋を抜け出して、先輩に会いに行きたかった。‥‥‥でも。先輩が、それは必要なことなんだって言ってくれたから。選んでくれたから。私にできたのは、信じる事だけだった。学校に帰って、また部室で先輩と会うその時まで。




