Interlude「いつかは」
『映像で見ていたものに魂が宿るとはこういうことか』
それが最初の感想だった。
彼が見たもの。彼が歩んできたもの。それを、まざまざと見せつけられて何も感じない訳が無かった。もとより、このボランティアを選んだのは、自分が実際に体験していないけれど、確かにそこで起きた悲惨な現実を知っておかなければ、見ておかなければいけないと思ったからだ。
ここにいる人たちは皆、俺が今まで会ってきた人たちとは違う目をしていた。その正体が何なのかはわからない。しかし、目つきや雰囲気が確かに違っていたのだ。知らない人と会う度に、話す度に、この人たちにもきっと大切なものがあったのだと実感することができた。
顔も名前も知らない人だから。とても遠くにいる人だから。無関係な人だから。
顔も名前も知っている人だから。とても近くにいる人だから。大切な人だから。
だからこそ、命に差を付けてしまう。それは悪い事じゃない。当たり前のことだ。でなければ、命はすべて等価値になってしまう。そんなものは機械か何かだ。とてもではないが、人間とは呼べないだろう。そもそも、人類は常に他者と比較する生き物だから、こんなにも世界は変化してきた。今、目の前にある文明の利器こそが人間を人間たらしめている、動かぬ証拠だ。
比較をする。差を付ける。もとより、人間とはそういう生き物なのだ。それを否定するということは、これまでの人類の歴史をも否定する事に他ならない。
命に差を付けてしまうのもそれと同じ。それぞれの命の重さに価値の違いを感じてしまうことに罪悪感を持つかもしれないが、それはしょうがない事なのだ。
だって、『人間』なのだから。
『だというのなら、オレはいったい何なのか―――』
顔を知った。名前を知った。少しだけ距離が縮まった気がした。無関係ではなくなった。
大切な人がいた。想い出があった。二度と手に入らない何かがあった。
ここにいる人たちとの境界線が不明瞭になっていく感覚を得た。それは幸福とはかけ離れているけれど、それでも構わない。ここに来たのはそのためなのだから。
俺にだって大切だと思える人はいる。大切だと思える空間がある。失いたくないと思える何かがある。それは間違いない。けれど、彼らにだってそれは確かにあったのだ。
『お前なら‥‥‥どうする?』
わかっている。この答えが間違っていることぐらい。
わかっている。自分がバカなことぐらい。
わかっている。そう答えたくないという事ぐらい。
でも。
見てきたのだ。何年も前から。毎日のように投稿される、亡くなった人の映像を。
見てきたのだ。血を流すその姿を。
見てきたのだ。明確な境界線を作ってしまう、その様子を。
すべての人が幸福になれる未来は無い。けれど、できるだけ多くの人たちに笑顔でいてほしかったのだ。幸福であってほしいと願っただけなのだ。ただ、それだけのことだったのに―――
『それが、誰かを見捨てるという事だと気づかずに』
だが、今は違う。その願いがどういうものを孕んでいるのかに気づくことができた。
『あんまり気負いすぎるのは良くないですからね』
いつかの言葉を思い出す。
ありがとう。でも、いつかは選ばないといけない時が来るから。
これから何を信じ、守り続けていくのかを。




