断章「御伽噺」
とある、昔のお話です。
昔々、あるところに一人の王がいました。
王にしては若いながらも、様々な戦争や紛争が起きている地域を旅したそうです。
石。槍。剣。盾。ナイフ。銃。
血。骨。眼球。肉塊。
歓喜。狂気。
涙。
王は旅を通じて、沢山の魂の在り方を目にし、地獄のような光景を胸に焼き付けました。
そうして、しばらくの時を経て母国に帰還しました。彼はあんな血と喧騒に塗れた世の中にしてはならないと決意し、あらゆる手段を尽くして目的を成し遂げようと行動しました。ですが、結果として彼は何も成し遂げることができないでいました。なぜなら、彼はすべてを救おうとしていたのですから。世の中というものは、少数を、他者を犠牲にすることで成り立っています。確かに、そうしたことをせずとも、すべてを生かす事はできます。ですが、それでは待っているのは国の停滞のみです。他者を蹴落とすことをせず、他者と比較することをせず、すべてを平等に扱っていては未来はない。彼はそれを理解してはいましたが、許容することはできませんでした。
それは王として、国を引っ張る者としてはあまりに欠点であり、その点で才能に欠けていました。誤魔化し誤魔化しで国を運営していましたが、ついには民から反発騒動が起きるようになりました。
『こんな王は要らない』
『何かを切り捨てる事すらできないガキは相応しくない』
『それ相応の覚悟を見せるべきだ』
いつしか、王宮には人だかりができ、暴動が起きる毎日でした。
王には愛する人がいました。相手は名もない女性。秘密裏に密会を繰り返していたのですが、それが見つかり、弱みを握られるようになったのです。
『王としてやっていくのなら、その腰に下ろした剣で愛する人を殺してみろ。』
『国の発展のために、大切なものを犠牲に出来るニンゲンになれ。』
彼の脳裏にあったのは、たった一人の愛する人。そして、旅で見てきた地獄のような光景。どちらを取るにしても、それらは大切なものでかけがえのないものだったのです。二者択一。何にせよ、彼自身、冷酷な人間でなければ‥‥‥非道な人間でなければ‥‥‥国を導くことなどできないと理解していました。だから‥‥‥でしょうか。
結局、彼は一人の人間としてではなく、一国の王としての道を選びました。
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私はこのお話を聞かされた時、彼の選択を在り方を正しいと思えたのです。けれど‥‥‥どこか寂しいとも感じました。だってそうじゃないですか。誰かのためにと生きてきたのに、一番報われなきゃいけないはずの人なのに、なんで自らの手で愛する人の息の根を止めなくてはいけないのですか―――
『彼』の目を見た時、それがひどく彼から似た何かを感じたのです。『彼』に幸せになってほしい。幸福であってほしい。けれど、今の状態ではそれは叶わない。私が言うのもなんですけどね‥‥‥。
だから、こうなってしまった責任を、こうしてしまった責任を取るために、私は―――




