第二部 想乃華√END「蛹の末路」
第二部 第十二章より
case2
『彼のために』
そうだ。彼のお願いは
『私が大切だと思う人を大切にする』
二年前のあの日、彼から託された願い。私にとっての大切な人など、言うまでもない。だが、大切にするということはいったい何を意味しているのか。それは、
愛することなのか。
想いを伝えるということなのか。
彼の考えを尊重するということなのか。
支え続けるということなのか。
今となっては、彼の言う『大切』を完全に理解することはできない。知る機会すら訪れないだろう。
今にも溢れ出しそうなこの想いを彼にぶつけたい。だが、『彼のため』を思うのなら、それはするべきではない行動だ。なぜなら、そうしてしまった瞬間に、私と彼のこれまでとこれからが消失してしまうから。何より、本当の意味で彼が壊れてしまうという、根拠のない確信めいたものがあったから。
傲慢だと自覚してはいるが、私が彼の精神的な支えになっていることには、なんとなく気がついていた。だからこそ、ここまで彼の隣に居座ることができた。
私は彼の隣に居続けたい。
彼は私を必要としている。
そんな黒で塗りたくられたような共依存に嫌悪感を覚えていた。だが、正直なところ、そんな感情よりも彼とそのような関係でいられることに、いつの間にか幸福感や充足感を得ていた。
彼が壊れないためにも。
私が彼の傍に居続けるためにも。
今はただ、自分の想いを抑えて彼を支え続けていくべきだと悟った。
彼女が伝えたかったのはこういう事だったのだろうかと、ふと思い返す。
『―――のために―――』
わからない。わからないけれど、やってはいけないことだけは理解できる。
いや、やりたくないことだけは―――
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二〇二十五年。三月一日。
結局、ここまで来てしまった。もう引き返すことができないことはわかっている。そもそも、そんな覚悟は五年前のあの日にできている。だから、こうなる事は何となく理解していた。
もしかしたら、もっと良い方法があったのかもしれない。大団円で終われるような結末が。
けれど、私にはそれを見つけることはできなかった。そうなる前にカウントダウンは終わりを告げた。
私は、この選択が間違っていないと今でも思っている。
失うことを恐れ続けた、臆病な私にとっては―――
だってほら。私の隣には今も彼の笑顔が在るのだから―――




