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第二部 第五章「分岐路」

 夕日はとうに沈み、闇に覆われた街を月明かりが照らす。道沿いにまばらに並ぶ外灯。そして、メッセージで送られてきた地図をもとに、想志は目的の公園へと向かっていた。

 どれだけ時間が経とうが、結愛の表情が頭から離れなかった。

「想いには応えられない‥‥‥でも、それを抱いてくれていたことは嬉しかった‥‥‥」

 なにも、彼は感情を欠如しているわけではない。ただ、それを覆いつくすほどの別の『何か』があるだけ。

 気づけば目的地へ着いていた。

「こんばんは。来てくれてありがとう。」

 目をやると、想乃華は公園のベンチに座っていた。そして、こちらへと手招きする。

「こっち来て‥‥‥」

 想志には、なぜ彼女から呼び出されたのか見当もつかない。ただ、昼間の彼女の様子から考えるに断るわけにもいかなかった。

「どうした、こんな時間に。」

 想乃華と三センチほどの間隔を空けて、ベンチへと腰を下ろす。

「今日さ‥‥‥結愛に告白された‥‥‥?」

 想志は彼女の表情を窺おうとするも、暗闇でハッキリとは分からなかった。ただ、その声音からはどこか哀愁のようなものが感じられる。彼は返答に窮するも、すぐに答えた。

「うん‥‥‥されたよ。」

「そう‥‥‥ちゃんと応えてあげた?」

 想志は深く息を吐く。

「結愛には申し訳ないけど、断ったよ。」

「そっか‥‥‥。」

 想乃華は空を見上げる。月には雲がかかり、星は全くと言っていいほど視認できない。

「なあ‥‥‥美鮮は誰かを好きになったこととかってある?」

「‥‥‥」

 長いようで短いような沈黙。それでいて、どこか心地いいと思える隙間。想乃華は口を開けては閉じを繰り返していた。想志には知る由もない事だが、彼女にとってはそれはとても大事な問いのように思えた。そうして、意を決したかのように言葉にする。

「あるよ。」

 そう言って距離を縮め、彼の右手を握る。想志は驚きのような表情を浮かべるも、何も問わない。聞かずとも、確かに触れた熱が『何か』を伝えてくれる。

「『好き』っていう想いを受け取ってもらえないのは、やっぱりめちゃくちゃ辛いこと‥‥‥なんだね。」

 想乃華は彼の言い方にどこか引っ掛かりを覚える。

「そうだね‥‥‥本当に本当に‥‥‥辛いことだよ‥‥‥。」

 途切れ途切れの上擦った声。

「―――」

 想志は俯く。

「でも、私はさ‥‥‥付き合う付き合わないの違いはあるけど、ちゃんと『好き』っていう気持ちを受け取ってくれたことは、本人にとっては間違いなく嬉しい事だと思うよ。」

 想乃華は彼の僅かに震える手をぎゅっと強く握る。

「そうか‥‥‥そうだったら本当に良い‥‥‥。」

 冷たい夜風が吹き抜ける。想乃華は立ち上がり、想志の方へ向き直る。

「そろそろ帰ろっか。聞きたいことも聞けたし‥‥‥付き合ってくれてありがと。」

「お礼を言うのならそれは俺もだ。話せてなんかスッキリしたよ。」

 想志が立ち上がろうとした瞬間。機械的な電子音が鳴り響く。

「出なくていいの?」

 想志は青白く光る画面を見る。

「‥‥‥そうだな。ごめん、先に帰っててくれ。長くなるかもしれないから。」

「うん‥‥‥わかった。」

「じゃあね。また明日。」

 スマホを片耳に当て、小さく手を振る想乃華に手を振り返す。

「こんばんは。先輩―――」

 画面の向こうから、聴き慣れた声がした。


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 公園の出口を出て、駅へと向かう。

「一緒にいるべきだったかな‥‥‥」

「でも、盗み聞きしちゃうのは良くないよね‥‥‥」

 彼の顔を思い返す。画面を見るや否や、切迫したような表情を浮かべていた。そんな彼を放っておくことに少しの罪悪感を抱く。

「うっ‥‥‥」

 いつかの頭痛やめまいが再度、彼女を襲う。

「なんなの、これ‥‥‥」

 頭が割れてしまうかのような痛み。瞬間、どこかここではない風景を思い懐く。周囲が白で埋め尽くされ、白衣をまとった人物の後ろ姿。例えるのなら、それは無菌室のよう。

 頭痛が収まった頃には、先ほどまで雲に隠れていた月がその全身を曝け出していた。

 迷いはある。ただ、彼女の胸の中にあるのは一つの確信。



 選択肢

 1.彼のもとに行かなければいけない

 2.彼を一人にしておく



 case1.

「行かなくちゃ‥‥‥」

 重い足を引きずるようにして、来た道を戻る。それが、『何か』へ繋がると信じて。


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「こんばんは、先輩―――」

「こんな時間にごめんなさい。でも‥‥‥どうしても伝えたいことがあって‥‥‥」

 なぜ、彼女が電話をかけてきたのか彼には計り知れない。想志は結愛の言葉に耳を傾ける。それを続けて良いという肯定と受け取ったのか、結愛は続ける。彼女にとっては、このタイミングで想志が電話に出たことに意味がある。

「私は‥‥‥先輩のことを諦めるつもりはありません。」

「だから、私のダメな所とか直してほしい所があれば教えてくれませんか?」

「‥‥‥」

 想志は沈黙を貫く。

「図々しいのは分かってます。でも、もし良かったら‥‥‥またお話したいです。」

「それじゃあ‥‥‥また学校で‥‥‥」

 電話はプツりと切れ、想志は深く深く息を吐く。

「―――」

 月光がより強くなる。気づけば、それを覆い隠していた物がいつの間にか消えていた。


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 公園へとたどり着くと、そこには想志が手をブランコの支柱へと叩きつけていた。距離があるためか、表情までは分からない。何より、いったい何が彼をそうさせてしまっているのか、何と声を掛けたらいいのかも分からない。ただ、『彼を放っておいてはいけない』という思いがより強くなったというだけ。それだけを胸に、彼のもとへと歩みを進める。

「やめて‥‥‥想志‥‥‥もう、やめてよ‥‥‥」

「―――」

 想志は動きを止める。

「私では想志の力になれないかもしれない‥‥‥それでも‥‥‥そんな辛そうなものを一人で抱え込まないでよ‥‥‥」

 彼の背中から伝播する体温。痣や血で塗れた冷えきった手。それは彼女にとっては看過できない事態であり、放っておくなど以ての外であった。

「‥‥‥何でもないよ。俺は大丈夫。」

 言い聞かせるような口調に、想乃華は言い表せない危機感のようなものを抱く。

「これは俺の問題で、俺が取らなくちゃいけない責任だ。」

 彼女の方へ振り向き、輝きを失ったような目で告げる。

「だから―――悪いけど、これには関わらないでくれ。」


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 Interlude


 そうして、どれくらい立ち尽くしていたのだろうか。彼は既に公園を立ち去り、私は何も出来なかった自分への罪悪感でいっぱいだった。

「誰‥‥‥だったの‥‥‥?」

 ベンチで話していた今までの彼とはまるで別人のように感じられた。冷酷で、目的を遂行するための機械のようでいて、イタミを『痛み』として認識していない人形のように思えた。

 心当たりがあるとすれば、それはあの電話に他ならない。あれが原因で彼は豹変してしまった。

「―――」

 ノイズのような雑音が脳内を支配する。

 誰かの机。アルバムのようなもの。

「逃げちゃ‥‥‥ダメだ‥‥‥」

 彼のために。自分のために。その想いは今もこれからも在り続ける。

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