魔術師殺し
お久しぶりです。
三週間も休業して申し訳ありませんでした。
「担イシ者タチ」最新話です。
よろしくお願いします。
「祈も鈴も美佳も梓も、ほんと無事で良かったよー。それにハツキまで……」
西川美央は両腕で過崎梓と銅鈴を抱き寄せて言った。
「嬢ちゃん、やっと起きたか。良かったぜ」
「あ、あなたが助けてくださったのですね。ありがとうございます。なんとお礼をしていいのか……」
「いいんだ。無事ならそれで。それにしても、嬢ちゃんまでハツキの友達だったとはな……」
刀地は部屋にいるハツキの友人たちを見まわした。
「ハツキの友達って、女性だらけなんだな……。引くわ……」
「い、いやいやいや! 別に下心とかあって近づいたわけじゃないですから!」
「自ら近づいた理由の可能性を提示するあたり、怪しいな……」
「ま、まさか、そうだったの……ハツキ……」
祈は冷めた目でハツキを見つめた。
だが、ハツキはその目を見ずに弁解を続けた。
「ちゃんと男友達もいますよ! ただ、ここにいないっていうだけで……。……そういえば、あいつらは無事なのかな……」
ハツキは話している途中で友人が危険にさらされているかもしれないということを思い出し、真剣な表情になった。
あたりが一瞬静寂に包まれ、その後、未央が口を開いた。
「えっと……実は……涼と誠也以外は、もう……」
「え……嘘だろ、健人も、力哉も、星太もか……?」
「……うん」
「そんな……」
ハツキが床に膝をつき、あたりが再び静寂に包まれる。
重い空気。空気や建物、周りにあるものさえ音をたてることを躊躇うような、最悪の状況で、刀地がいきなり口を開いた。
「なあ、ハツキ。落ち込むのもいいが、少し隠れておいてくれないか? すまないが、な」
「え……は、はい」
ハツキは絶望の表情のまま立ち上がる。
「客みたいだ。ちょっと出てくる」
刀地はそう言うと部屋を出て階段を下りて行った。
「……? なんだろう。隠れておけって……?」
未央が不思議そうに刀地の言葉に疑問を持つ。
「わからない……。けど、本当に隠れておいた方がよさそうだ」
ハツキはゆっくりと落ち着きを取り戻し、入り口から見て部屋の右にある押し入れに隠れることを祈たちに促して、祈たちが隠れたことを確認して自分も押し入れの中に入った。
「ち、ちょっと、なんで私だけ二段目なのさ……」
未央の寂しそうな声が上から聞こえてくる。
「しょうがないでしょ、一段目はもう満員だし……」
「うう……ハツキが入る前に一段目に入ったら良かった……」
そんな会話をしていると、突然外から声が聞こえてきた。
「誰かと思えばあんたか。何の用だ」
刀地の声。どうやらさっき言っていた客人と話しているようだ。
「ずいぶんと傲慢な態度だな、逃避者。だが、今は貴様と話している場合ではない。魔術師はどこだ」
刀地と話をしているのは声の低い男だった。男は無機質、という点で特徴的な声を発している。
「何の話だ?」
刀地の表情が険しくなる。
「とぼけるな。中にいるのだろう? 入らせてもらうぞ」
「ちょ、待てよ。人の家に勝手に上がるのか? 警察がそんなことじゃだめなんじゃないのか?」
刀地の嘲るような声が聞こえてくる。
「黙れ。魔術師は国の最優先捕縛対象だ。現在はそこいらの指名手配犯よりも拘束を優先される」
「それは人の家に勝手に上がることができる理由にはならないだろう」
「頭の悪い奴は本当に何もわからないのだな。魔術師の捕縛がどれだけ重要かわかっただろうに。いいだろう。率直に言ってやる。今、警察の魔術師対策は、魔術師を捕まえるために国民の人権の一部を侵害することが許可されている。多少なりとも責任は負わねばならんがな」
男はそう告げると、他は何も言わずに、静かに質屋兼刀地の家へ歩いていく。
「お、おい、待てって!」
刀地が男の前に回り込む。男との身長差は僅かなものだったが、男は刀地が恐れるほどの何かを放っていた。
「なんだ。……まだ納得がいかないのか」
「当たり前だろ! ……! ぐあ……あ……」
刀地が言葉をつづけようとしたその瞬間。男の拳が刀地の腹にめり込んだ。
「が……あ……」
「これはお前に対する躾けだ。兄として、聞き分けの悪い弟を育てたくはないのでな。そもそも、違法カジノの経営を黙っている分、感謝してほしいものだが」
日々鍛えている刀地にとって、今の一撃は衝撃的だった。内臓がねじれるほどの強烈な殴打。それはボクシング選手などが放つパンチとはどこか形が違うものだった。
男はそのまま質屋兼刀地の家に入った。
「……二階か」
男は小さい声で呟いた。
男は立ち止まることなく階段を上がっていき、廊下を曲がって奥の部屋の前に立った。
(……くそ……やばいか……?)
「ここか」
無機質な一言がハツキ達の恐怖を増幅させる。
男は部屋の襖を開け、周りを見まわす。
「ぐ……うおおおおおおぉぉぉぉ!」
男を追いかけてきた刀地が、男に殴りかかる。
が、
「ふん!」
男はそれを手首で軽く受け止める。
「やはり貴様は逃避者だ」
男は刀地の手首をつかみ、自分の方向へ引き寄せる。
体勢を崩した刀地は、前にのめり込む形になる。そこへ男の手刀が刀地の首筋に直撃する。
そして次の瞬間、轟音と共に刀地の体が床に激突し、衝撃で周りの板が何枚か突き上がる。
床に埋もれた刀地の悲鳴は聞こえない。気を失ったようだ。
「あ……やだ……怖いよ……」
押し入れの二段目から未央が恐怖する声が聞こえてくる。
「! そこか!」
男は懐に隠してあった謎のゴーグルを装着し、押し入れを開け放った。
「!」
男の視界に真っ先に入ったのは二段目にいた未央だった。
男は左手を伸ばし、未央の首をつかみ、そのまま押し入れから引っぱり出した。
「やはり魔術師か」
男は手を四本貫手の形にし、それを未央の心臓めがけて放つ。
「やめろおぉぉ!」
「あ、ハツキ!」
祈の呼び止める声を無視して、ハツキが押し入れから飛び出す。同時に魔術を発動し、光の剣を生成する。そして男の横に立ち、男の腕めがけて斬撃を繰り出す。
が、斬撃は男の腕に触れることはなく、未央と男の間をすり抜ける。
どうやら男は斬撃に感づいて手を引いていたようだ。
「ふん……小賢しい」
男は斬撃が過ぎるのを確認すると、右手で未央の脇腹を殴りつけた。
「ああ……!」
「未央!」
未央は壁に激突し、気を失った。
「ふ……魔術師というのは本当に多彩な芸当を持つ……。その芸当という花を散らすのが楽しいというものだがな」
そう言って男はハツキの方へゆっくりと視線を向けた。
「……! 過崎……ハツキ……?」
男は驚嘆の表情でそう呟やいた。
読んでくださり、ありがとうございました。
まず、三週間の休業、申し訳ありませんでした。なかなか時間が無いもので……。
しかし、読んでいただいている方々がいるのですから、忙しくても小説を書かねばと思っている今日この頃です。
今回の話は謎の(?)男無双でした。時間軸的には前の話よりも数時間前の話となっております。
いやー、強いですね、刀一郎。(名前、言ってしまった)
感想や文章の指摘などがありましたら送っていただけると嬉しいです。
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