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瀬川刀一郎

非常に長らくお待たせいたしました。

「担イシ者タチ」久々の次話投稿です。

よろしくお願いします。

-!」

 東京都の一角。都心から遠く離れた場所にある建物の中。

 外から見れば倉庫のように見えるその場所では射撃訓練が行われていた。指揮官とおぼしき男は三十分ほど前から叫んでは手を振り下げて、10人ほどの整列した、ゴーグルをつけた者たちに射撃指示を出し続けていた。

「そこまで! 今回当たらなかった者は後に武器制御訓練を行い、各自整備棟に自分の銃を持っていけ!」

 男が整列した者たちにそう言うと、はい! という返事が建物内で反響した。

「今日は調子はどうだ?」

 先ほどまでその場にいなかった男の声が唐突に発生した。

「こっ! これは、瀬川せがわ隊長! こんな辺境までお越しくださるとは……」

「当然だ。私の部下たちがここにいるのだからな。ところで、鬼狩きがり殿どのはどこにいるんだ?」

 スーツ姿の男はそう言って建物から出ていくゴーグル姿の者たちを見た。

「鬼狩さんなら研究棟にいると思います。……というか、あの人いつも研究棟にこもっているんですよね。よほどの研究好きなのでしょうか」

「あの人は今魔術の研究で忙しいんだ。居場所を教えてくれたこと、感謝する」

「はい」

 スーツ姿の男は一言礼を言うとそのまま建物を出ていった。

 外は雨が降っていてたが、研究棟は建物から20mほどしか離れていなかったため、男はめんどうだ、という理由でここに来るために使った車の中にあった傘を取りに行かずに歩いていった。

 周りを見ると本当に何もない。田舎、という表現がすっぽりあてはまるようなところだった。そんな場所に三階建ての研究施設があるのは、かなり不気味だった。

 男は研究棟の入り口の扉を開け、病院の廊下のような通路を歩いていった。

 天井にある白い蛍光灯で床が照らされ、足元でその光が反射している。何色にも染まらず、ただ何も考えることのなくそこに存在している真っ白な光が。

「ん? おお、瀬川せがわ刀一郎とういちろうじゃねーか」

 男が通路を歩いていると、前から来た十五歳ほどの少年が声をかけてきた。

「フルネームで呼ぶな、鷺村さぎむら。……君こそ、ここに来るのは珍しいじゃないか」

 男は低い声で異議を唱えた。

「まあな。ここに来たのは鬼狩に魔力現界のことを報告しに来るためだ」

「もう魔術を使えるのか」

「ああ。こんな風にな」

 一瞬、いや、一瞬にも満たない。限りなくゼロに近い時間で、少年は三mはあった男との距離を一気に三十cmほどまで詰めた。

 少年の身長は十五歳の平均身長とほぼ同じで、男との身長差が十五cmほどあったので、少年は男を見上げる形で笑っていた。

「ほう。時間操作か。面白い魔術に当たったものだな」

「そんな便利なものじゃねーんだよなー。操作じゃなくて時間を止めるだけなんだよ」

 鷺村は一歩下がって首を横に振った。

「それだけでも十分ではないか」

「いろいろ制約があるんだよ。魔術ってのは万能かと思ったけど、そうでもないみたいだな」

 少年は弧を描くようにして歩き、男の後ろに回り込む。男はそれを目で追った。

「ところで、鬼狩は過崎を逃がしちまったみたいだな。いいのか? まだこっち側にいて。お前の目的はあいつへの罪滅ぼしをすることだろう?」

 少年は突然真剣な表情になった。

「そうだな……。迷っているところだ。ただ、魔術師は人ではない……。その考えが私の中にあるために、何とも言えぬところだ」

 男はただ無表情で、無感情にそう告げた。

「そうか。そんな考えを持つとはな。鬼狩に毒されてきたか」

「魔術師を取り締まる立場として当然の見解を述べたまでだ」

「そうかよ。……魔力現界があと七年早かったら、あんたも人じゃなかったって言うのにな」

 少年は少し怒りが混じった声で言った。

「災厄から百年。その時が現界の時であると、言い伝えであったはずだ。それに……人でないことは、正義に反することなのか?」

「……あんた、本当に迷っている途中なんだな。霧科、鷺村、瀬川の三家が、ちょうど十年前に犯した罪……俺はいつか償うつもりだ。罪を償うか増やすか、まだ迷っているんだったら早く決めた方がいい。あんたの弟はもう決めたみたいだしな……」

 少年はそう言うと、すぐに男に背を向けて歩いていった。

「言われなくてもわかっている」

「だといいけど。じゃあな」

 少年は男に背を向けたまま手を振って歩いていった。

「迷っている……か。魔力現界から今で九時間。それまでに小さい孤児院の子供や従業員を十数人殺した奴の言うこととは思えないな。もし本当に迷っている途中だったなら、鬼狩並みに狂っているよな」

 男に聞こえないように少年はぽつりと言い、研究棟を出た。

「うおッ! 雨降ってんじゃねーか! やべー傘もってねーよ」

「鷺村。私の車の中に傘がある。カギはあけてあるからそれを持っていくといい」

 男は少年が嘆いているのを聞き、救いの手をさしのべた。

「おお、ありがとう、瀬川。車ももらっていこーかな」

「私の現職は一応警察だぞ」

「じょ、冗談だって。あはは」

 少年はひきつった笑顔を見せると男の車に向かって早々に走っていった。


「鬼狩殿、失礼する」

 鬼狩の研究室。メスやおかしな形をしたはさみなど、悪趣味な研究器具がそこらじゅうにあり、不気味さを感じさせるような場所だ。入り口から見て右にある棚には、ホルマリン漬けにした様々な生き物が並んでいる。中には人の臓器と思われるものもあった。

「おお、瀬川君か。もう作業は終わったのかい?」

「いや、従業員は全て抹殺したが、子供を数人、取り逃してしまった」

「いいよいいよ。十分だ。僕の部下たちは一人も殺せなかったみたいだからね。ほんと無能だよ」

 鬼狩はやれやれ、といった表情で首を横に振った。

「鬼狩殿、今、なにをしていたのだ?」

「ん? ああ、瀬川君も見るかい? 魔力現界の前に摘出した魔術師の眼球」

 鬼狩は自分が先ほどまで使っていた顕微鏡を指して言った。

 顕微鏡は一見すると普通のものだった。専用の箱に観察したいものを入れて観察するもののようで、普通に見るだけでは何を観察できるのかわからなかった。

「……過崎の、か」

「その通りだ。実に興味深いってやつだよねー。魔力現界の前にもう魔術細胞が働いている。しかもそれは活性化して眼球を復活させようとしている。ただ、元から持っている病気は治らないみたいだけどね」

 鬼狩は顕微鏡をのぞきながら言った。

「つまり、魔術師は傷の治りが早い、ということか」

「そうだね。でも、あまり普通と変わりはないみたいだけど。それよりも魔術細胞は死なない、っていう事実と、何より過崎ハツキが魔力現界前から魔術を使えたってことが面白いね」

 依然、顕微鏡をのぞき込んで鬼狩は話す。

「……なるほど」

「やっぱ十年前のあれのせいかな。研究のしがいがありそうだねー」

 鬼狩は独り言を言うように小声で言った。

「ところで、過崎ハツキと言えば……」

「ああ、透哉から聞いたのかい? やっちまったよーまったく。監視役には目を離すなってあれだけきつく言ったのにねー。まさか逃げられるとは」

「居場所の検討はつく。今すぐにでも……」

「いや、今はまだ泳がせておこう。君の予想しているところは僕も怪しいと思う。刀地君のところだろう?」

 鬼狩は高級料理を堪能した後のような満足そうな顔で顕微鏡から目を離した。

「ああ。その通りだ。と、いうより、先ほど行ってきたばかりなのだがな。恐らくまだいるだろう」

「逃がすとは君らしくないなー。しかしいいのかい? このままだと弟さんと対立することになるけど」

「その点に関しては全く問題が無い。奴は瀬川の術を受け継ごうとしなかった。私の弟でもなんでもない」

「瀬川流暗殺術か。全くそんなものがあるなんて物騒な家系だねー」

 鬼狩は箱に入った眼球を冷凍庫の中に入れながら言った。

「最後に使われたのはもう四百年も前だが」

「それが君の強さの秘訣ひけつってわけか。敵に回したら怖いねー」

「大丈夫だ。私には鬼狩殿と対立する理由はない」

「じゃあ僕に協力してくれるのかい?」

勿論もちろんだ。きっと鬼狩殿の手に聖剣はわたるだろう」

「ありがとう。心強いよ」

 鬼狩がそう言ったのを聴き届けると、男は研究室を後にした。


「瀬川。決まったみたいだな」

 瀬川の車の中。男が扉を開けた瞬間、少年の声が耳に飛び込んできた。

「鷺村か。帰らないのか?」

「この雨の中傘一つで帰るのも気が引けてなー。送ってくれないか?」

「わかった。いいだろう」

 瀬川はそう言うと車のエンジンを起動させ、発進させた。

「どこまで行けばいい?」

「空港まで頼む。世界中の魔術師と戦っていくことにした」

「なるほど。過崎は放っておくのか?」

「恐らく過崎もいつか外国に来る。その時に罪を償うことにする」

 車の外……雨に打たれている木々を見つめて少年は言った。

「どれほど先になるだろうな」

「さあな。まあそれまで魔術師達と殺し合っておくさ。聖剣に魔力を蓄積させるにはそうするしかないからな。あんたはどうするんだ?」

「私は……魔術師を根絶やしにする。幸い魔術師は十九歳以下の孤児に限られる。生身では勝てないという相手ではない」

「……そうか。なんでそうすることにしたんだ?」

 少年は雨の中で走ったせいで汚れてしまった自分の靴を見ながら言った。

「過崎への罪滅ぼしだ」

「? じゃあ、過崎だけ生かすってことか?」

「いいや。言っただろう。根絶やしにすると」

「おいおい。矛盾してるじゃないか」

 男の言葉が矛盾ばかりだったので、冗談を言っていると思ったのか、少し笑いながら少年は訊ねる。

「過崎とて、死んだ親に会いたいだろう?」

「……あんたまさか」

「彼の親は私たちの親が殺してしまったんだ。もう一度会わせてやろう。そして、他の魔術師と共にあの世で幸せに暮らしてもらおう。それが正義というものであろう?」

 車は、都市部と田舎を隔てる川にかけられた橋の上を走っている。

 川は雨の強さを象徴するように増水して、濁っていた。少年はそんな景色を見て黙り込んでしまった。

読んでくださり、ありがとうございました。

最初から最後まで、伏線のオンパレードでしたね笑

この話を投稿するまでの時間がかなり長くなってしまい、申し訳ありませんでした。瀬川兄のキャラがうまくまとまらなかったもので……

瀬川兄はサイコパス(アニメのタイトルでもあるけど、その中にも出てくる犯罪心理学的なほう)な感じで作りました。怖い感じにしようと思ったのですが、どうもうまくいかず、迷走してしまいました。

鬼狩は声からキャラを構成しました。声のイメージが神谷さん(某デュラハン作品のいざやさんとかの声の人)だったので、そこから派生していきました笑

感想や文章の指摘などがありましたら送っていただけると嬉しいです。

ブックマーク等もよろしければお願いいたします。

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