7.とある静かな夜のこと
応接間に移動すると、アンドロメダがお茶とお菓子を用意してくれていた。テーブルを挟んだ二人掛けのソファに、クロムとステラ、カルラとアルというように別れて座る。
「それで、カルラ。私たちに何か言うことがあるのでしょう?」
ステラは紅茶の馥郁とした香りを楽しみながら、問い掛ける。カルラは少しだけ声を震わせながら答えた。
「実は、アルをこの屋敷に滞在させる許可をいただきたいのです」
つい敬語になる。膝の上でこぶしを握り締める。咎められると思っているわけではないのに、強張る心臓を止められない。
「いいわよ」
帰ってきたのは、予想外に軽い返事だった。
「連れてきた時点でそういう話になるとは思っていたのよ。だから夕食にご招待して、アル君がどんな人か見ていたの」
ステラはクロムと顔を見合わせて続ける。
「アル君はいい人ね。人間性にごまかしがない」
「我が屋敷の客人として、喜んで迎えいれよう」
隣のアルからほっと、安堵したような小さなため息が聞こえた。
「受け入れてくれたこと感謝する。カルラの護衛として、務めを果たそう」
そう言って頭を下げるアルに、クロムは大きく目を見開く。
「護衛?待て、それは聞いていないぞ」
「あらいいじゃないの。よろしくね、カルラの騎士様」
「私の騎士じゃありません!」
「騎士でも護衛でも変わらん。つまりはお前に四六時中張り付いているということだろう」
クロムはアルに向き直り、鋭い視線を向ける。目元の皴のせいか、只ならぬ圧を醸し出していた。
「言い方!言い方が悪いですお父さま。片時も離れないみたいに言わないでください」
「護衛なら、離れたらまずいんじゃないか?」
アルはいたって真面目な顔で首を傾げる。
「アルは少し黙っていて」
アルは少しだけ眉を下げて、静かに紅茶を啜る。カルラはクロムと睨み合う。冷たい水のような沈黙が部屋を支配していた。やがて大きな溜息とともに、クロムが口を開く。
「護衛の件はおそらくジェイドが言い出したことだろう。当主が言葉を違えることは、我が家門に泥を塗る行為。いまさら任を解くわけにもいくまい」
クロムはステラに目線を送る。ステラは優しく微笑み返す。そうしてクロムは、凪のような眼差しでアルを見据えた。
「近衛騎士団顧問として、一人の父としてお願いしたい。どうか娘を、よろしく頼む」
そう言って頭を垂れるクロムに倣うように、ステラも頭を下げる。
「必ず」
アルの返事は短かった。けれど芯のある、今までで一番力強い声だった。
クロムとステラは頭をあげ、お互いに笑い合う。そしてステラは立ち上がり、話を切り上げる。
「私はそろそろお暇するわね。カルラ、お菓子とても美味しかったわ」
そう言い残し、ステラは応接間を後にした。クロムはステラが扉の向こうに消えるのを見届けた後、カルラたちに向き直った。
「ここから本題に入るとしよう。カルラの旅の目的と、この国の滅亡についてだ」
窓辺の花が、静かに花弁を落とした。




