6.晩餐
上座に座るジェイドは右手のアルに目線を向け、それぞれの紹介をする。
「まずは僕。ジェイド・アスターチスだ。アスターチス公爵家の当主で、近衛騎士団の団長、そしてカルラの兄だ」
次にジェイドは、右隣の大男を指して続ける。
「こっちは僕の父親で、前当主のクロム・アスターチス。今は近衛騎士団の特別顧問をしているご隠居だ」
「やかましいわ」
クロムは眉間に深いしわを作る。ジェイドと同じ青緑色の瞳は、厳めしさを湛えていた。ジェイドは父の方を見向きもせずに続ける。
「その隣が僕の母、ステラ・アスターチス」
「よろしくねアルくん」
ステラは温和な笑みを浮かべ、アルに視線を向ける。
「カルラに似ているな。親子なのも納得だ」
「まあ、嬉しいわ。ちなみにどのあたりが似ていると思ったのかしら」
「銀の瞳もそうだが、笑った顔がよく似ている。カルラの笑顔は、見ていて安心する」
アルの言葉に、カルラは気恥ずかしさから静かに俯く。サラダのエビと目が合った。つぶらな瞳が点を見上げている。お願い、見ないで。
「あらまあ、アルくん。カルラとそういう関係なの?」
ステラの問いかけにアルは不思議そうに首をかしげる。
「どんな関係かはわからないが、友人になれたらいいと思っている」
その返しにステラは満足したようだ。微笑みが全てを物語っている。その時ジェイドが咳払いをし、アルに向き直る。
「自己紹介も終わったところで、食事にしよう。今日はごちそうだ」
ジェイドの声を皮切りに、各々が食事に手を付ける。アルはこういった料理が珍しいのか、ことあるごとにカルラに聞いてくる。
「この肉は美味いな。何の肉だ?」
「ペペレレ鳥よ。脂が乗っていておいしいでしょう」
「ああ。それに柔らかい」
「お母さまの得意料理なの。私これ大好きなのよ」
「まあカルラ。嬉しいわ。たくさん食べて頂戴ね」
アルはぎこちない様子で、フォークを口に運ぶ。カトラリーの扱いも慣れていないのか、カルラの手元を見ながら見様見真似で実践しているようだった。
「アル。酒はちゃんと飲んでる!?勢いが足りないよ、勢いがさあ!」
既に赤ら顔のジェイドがアルに絡み始める。肩に手を回して、いかにも質の悪い酔っ払いだった。
「みっともないぞジェイド。お前は水を飲め」
クロムが窘めるが、ジェイドはまるで言うことを聞かない。
「ところでアルくん。制服とっても似合っているわね」
「ありがとう。カルラにも褒めてもらったんだ」
ステラに至ってはジェイドの醜態を無視し、アルに話題を振っている。
クロムも息子を見限ったのか、アルに視線を向ける。
「最近の若者は制服を着崩したがるやつが多い。正しく着こなせば、気持ちも引き締まるだろう」
「言われてみれば、そんな感じがする」
アルの返答にクロムは満足したのか、ソテーに舌鼓を打つ。
「らからさあ!ぼくはそもそもお!反対なわけでぇ!なんでカルラ一人に危険なことさせるんだあっていう話だよねえ!?」
先程よりも酔いの勢いを増したジェイドが大声で喚き始める。隣のアルは驚きと困惑が入り混じったような表情をしていた。
「どうしたんだジェイド」
アルはジェイドの両肩を掴んで抑え込む。線の細い見た目に反して、意外にもジェイドに拮抗している。流石のジェイドも酔いが回っているのか、徐々にアルに押され始める。
「すまないジェイド。少し乱暴にするぞ」
そう言ってアルはジェイドの首に腕を回して締め落とした。
「よくやったアル。これで愚息も少しは反省するだろう」
クロムは力なく床に沈むジェイドを一瞥して、ため息交じりに言った。
「ありがとうアル。兄さんはその辺に置いておいて構いません」
「カルラ。大事なお兄さんに、そんな言い方はよくない」
「いいんです。兄さん、本当はアルを酔い潰すつもりだったのですから」
「俺を?何のために?」
アルは不思議そうに首を傾げつつ、ジェイドを楽な体勢にしようとする。
「お酒を飲んで自制が効かなくなったところで、貴方から色々聞き出すつもりだったみたい。兄さんの方がいろいろ漏らしてしまったみたいですけれど」
カルラの返答に、こくりと頷くアル。
「酒を飲むと、口が滑るということか。酒はほどほどにしておこう」
床のジェイドを一瞥しながらアルは言った。
「カルラもアルくんも、良い食べっぷりだったわ。もし良ければ、食後のお茶はいかが?」
ステラが柔和な笑みで提案をする。クロムは静かに頷き、カルラとアルもつられるように
応答する。食事の間を立ち去る際、カルラはジェイドに毛布を掛けてから部屋を出る。
「風邪ひかないでね、兄さん」
春先の夜は、まだ少し寒いだろうから。




