志信視点第3話 判断の外側
的盧様のもとへ戻ると、元景虎や影内の配下が集められていた。
その中に、ゲイルとガストン――影内の元部下――の姿があった。
事前に反乱の情報を的盧様へ流していたらしい。
確かに、そのおかげで鎮圧が早まったのは事実だ。
だが、二匹の媚びた態度を見ると、胸の奥がざらついた。
忠誠というより、強い者に媚びているだけに見えて、あまりいい気分はしなかった。
まとまって動かれると困るので、俺は的盧様と相談し、
元影内の配下を別々の部隊に編入することにした。
俺はゲイルとガストンを避け、別の三匹を引き受けた。
景虎が守っていた縄張りは、当面、的盧様の配下の小隊長が守ることになった。
新たな配下三匹を連れて持ち場へ戻る途中、俺は影内について聞いた。
彼らの話では、影内は景虎の命令をただ機械的に伝えるだけだったらしい。
無茶な命令でも、絶対に従わせられたのだという。
小隊長は本来、上と下の調整をする役目だ。
だが、影内はその役割を果たせていなかったらしい。
影内の評判は良くなかった。
これなら、再度反乱を起こす心配はなさそうだ。
そう思った瞬間、胸の奥が少しだけ軽くなった。
影内の暴走は、あの一度きりであってほしい。
持ち場に戻り、三匹の役割を分担する。
連携が取れないよう、あえてバラバラに配置した。
ようやく長い一日が終わった。
翌日。
影内の様子を見に行こうかと考えた。
だが、的盧様に「不用意に会うな」と言われている。
影内が俺に牙を剥く可能性を危惧してのことだ。
的盧様の直属の配下が餌を与えているはずだ。
大丈夫だろう。
それに、的盧様は様子を見ると言った。
俺に無断で処分するような方ではない。
そう自分に言い聞かせ、まずは状況報告のため的盧様のもとへ向かった。
「配下にしたものは今のところ問題ありません。」
俺の報告に、的盧様は頷いた。
「無事、落ち着いたようだな。
実は志信に相談があってな。
志信に鳴海へ行ってもらいたいのだ。」
的盧様が言う。
「鳴海……蒼天殿のところですか?」
蒼天殿は犬族でありながら、全国の犬族・狼族を統べる最大勢力。
その存在があるからこそ、我々は近隣勢力との縄張り争いから解放されているのだ。
「そうだ。
お前はまだ一度も会ったことがないだろう。
一度会っておいた方がいい。
それに、今回の反乱の顛末を報告してきてほしい。
蒼天殿は全国の群れの動向を気にしているだろうからな。
俺としても、この機会にお前を紹介しておきたい。」
的盧様の言葉はもっともだ。
だが、気がかりが一つあった。
「それは分かりました。
ですが……影内はどうします?」
的盧様は即答した。
「お前が帰ってくるまで、俺が面倒を見る。
無断で処分したりはしない。安心しろ。」
その言葉に、胸の奥の緊張が少しだけ解けた。
それで、俺は鳴海行きを了承した。
となると、留守の間の体制を整えなければならない。
元景虎の配下も抱えている以上、油断はできない。
影内はどうする――。
影内が飛びかかったときの光景が脳裏に蘇る。
無謀な特攻。
勝てるはずがない。
死ぬと分かっていて飛びかかったのか。
それとも、別の理由があったのか。
考えても答えは出なかった。
的盧様の言う通り、次は俺に牙を剥く可能性もある。
だからこそ、的盧様は会うなと言ったのだろう。
だが、影内のあの目――
俺に懇願したときの、あの必死さは演技には見えなかった。
……分からない。
影内の行動の理由も、心の内も。
俺は影内を理解しているつもりで、何も分かっていないのかもしれない。
だが、答えの出ない問題を考えている暇は俺にはなかった。
鳴海へ行く前に、部隊が問題なく動くよう調整しなければならない。
結局、影内に会いに行くのは鳴海へ出発する直前。
しかも、的盧様の立ち会いのもとで。
そのときに、影内へ「帰ってくるまで大人しくしていろ」と伝えるつもりだった。
影内が、あの牢の中で何を考えているのか――
それだけが、胸の奥に重く残った。




