↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/31

志信視点第2話 誤算

命の泉から少し離れた広場で、影内は伏せさせられていた。

周囲には的盧様の直轄の部下が配置され、逃げ道は完全に塞がれている。

影内は静かだが、その沈黙が逆に不気味だった。


的盧様は影内を一瞥し、冷え切った声で言い放つ。


「反乱の指揮者・影内。

 弁明の余地はない。

 処刑が妥当だ。」


その言葉が落ちた瞬間、空気が凍りついた。

影内の耳がわずかに震える。

聞こえているのだろう。


俺は一歩前に出た。

胸の奥がざわついていた。


「的盧様。

 影内はすでに抵抗手段を奪われ、配下も解体しました。

 若さもあります。

 見せしめとして――」

俺は言いかけたが、


「黙れ、志信。」


的盧様の声は低く、鋭かった。

的盧様がここまで言うことはめったにない。

その一言で、俺は口を閉ざすしかなかった。


「若さは免罪符ではない。

 この者が反乱を“率いた”事実は消えん。

 こいつを生かせば、群れに迷いが生じる。」


影内は伏せたまま動かない。

だが、その背中がわずかに震えているのが見えた。


「処刑だ。

 今すぐでなくともいい。

 だが、生かす理由はない。」


その瞬間だった。


影内が一直線に的盧様へ飛びかかった。


「……っ!」


反射的に息を呑む。

的盧様は難なくかわしたが、影内はさらに攻撃を続けようとしていた。


「やめろ!」


俺は即座に影内の進路に入り、体を捻って投げ飛ばした。

影内は受け身を取り損ねたようで、地面に叩きつけられる。


「封じろ!」


的盧様の号令で、部下たちが影内の四肢を咥え、完全に拘束した。


「離せ……俺は……」


影内が何かを言いかけたが、的盧様の前脚が腹に入り、声が途切れた。

影内の体が小さく跳ねる。


「連れて行け。

 処遇が決まるまで牢に入れろ。

 無駄口は許さん。」


影内は引きずられるように連行されていった。

最後まで俺を見ていたが、俺は視線を逸らした。


影内が的盧様に襲い掛かるとは、完全に想定外だった。

的盧様に勝てるはずがない。

だが、殺されるならだめもとで一か八か的盧様に襲い掛かったのではないか。

そんな考えが頭をよぎる。

それとも、的盧様さえ殺せば、個人戦闘力では群れで最強になれると考えたのか。


影内の姿が見えなくなった後、俺は的盧様に頭を下げた。


「的盧様、申し訳ありません。

 影内の突進を許してしまいました。

 俺の判断の甘さです。」


「さて…」


的盧様は静かに言った。

その声は先ほどとは違い、どこか柔らかさがあった。


「志信、今でも影内を配下にしたいと思うか?」


胸が痛んだ。

影内の懇願は演技には見えなかった。

だが、あの暴挙を見た以上、迷いが生じる。


「正直、迷ってきました。

 できることなら配下にしたいのですが……

 いきなり的盧様に襲い掛かるようでは。」


俺は正直な気持ちを答える。


的盧様は頷き、続けた。


「だが、お前が影内を助けようとする姿を見て、吹雪を思い出した。

 吹雪も敵を拾い上げた。

 それで救われた者がいたのも事実だし、そのおかげで群れは大きくなった。

 だが……」


的盧様の目が細くなる。


「吹雪でさえ、何度も失敗した。

 しかも、反乱の“末端”でだ。」


的盧様は俺をまっすぐ見た。


「初めての相手が反乱を率いた影内では、難易度が高すぎる。

 自分より個人戦闘力が高い者を従えるのは容易ではない。」


「俺にはまだ無理だという事でしょうか?」

俺は的盧様に聞く。


「そうは言っていない。

 吹雪が他界し、景虎の反乱の結果、群れの中である程度大きな判断を任せられるものがお前しかいないのだ。

 故に、お前の身の安全は最重要だ。

 そこへ戦闘力で勝る影内を置くのは容認しがたい。

 分かるな。」


諭すように言う的盧様の言葉は正論だった。

理屈では理解できる。

だが、胸の奥のざわつきは消えなかった。


「当面は牢に入れて様子を見ることにしていただけませんか。

 次に暴れたら……俺も処刑に賛成します。」


的盧様はしばらく考え、頷いた。


「まあ、いいだろう。

 だが、次暴れるようなことがあれば、処刑は免れないぞ。

 いいな?

 あと、万が一のこともある。

 影内とは極力接触するな。最低限にしろ。」


「分かりました。」


言葉にした瞬間、胸が重くなった。

こう言った以上、

影内には絶対に大人しくしてもらわなければならない。


的盧様との話を終え、俺は一人、牢へ向かった。


影内は伏せていたが、俺の足音に気づくと顔を上げた。


「影内、的盧様に襲い掛かるとはどういうつもりだ。

 的盧様さえ倒せば、俺はいつでも殺せるという算段だろう。」


怒りが先に出た。

影内の行動は、俺の立場も危険に晒すものだった。


「違います。

 志信様、俺は――」


影内が何かを言いかけたが、今さら言い訳を聞く気にはなれなかった。

それよりも、絶対にこれ以上騒ぎを起こさせないようにしなければ。


俺は影内の鼻面に噛みついた。


「黙れ、影内。

 お前の処分が決まるまで、牢の中でじっくり反省しろ。

 どんな理由があろうと、牢から勝手に出たら許さないからな。」


そう言い捨て、牢を出る。

入口が閉ざされる音が、妙に重く響いた。


影内の突進の理由は分からない。

生き残りをかけた一か八かだったのか。

それとも、別の理由なのか。


だが――

影内が俺に懇願したあの姿は、今でも演技には見えなかった。


しばらくは様子を見るしかない。

影内が大人しくしてくれることを祈るしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。