影内視点第2話 忠誠の証明
志信様は、俺を部下にするために的盧に掛け合ってくれると言った。
その言葉だけで胸が熱くなった。
あの瞬間、俺は本当に救われた気がした。
もし本当に志信様の部下になれるなら、一生尽くすつもりだった。
だが、的盧は甘くなかった。
群れのボスとして当然だが、話は俺の処分へと傾いていく。
志信様はナンバー2とはいえ、父親の跡を継いだばかり。
元は小隊長でしかない。
的盧の判断が優先されるのは当然だ。
しばらく二人のやり取りを聞いていたが、どう考えても俺は処刑される流れだった。
胸の奥が冷たくなっていく。
志信様の部下になるどころか、志信様の役に立つことすらできない。
なら、俺が動くしかない。
的盧さえ倒れれば、志信様がボスになるはずだ。
そうなれば、俺を部下にするのも自由になる。
志信様にも喜んでもらえるはずだ。
志信様が俺を必要としてくれるなら、俺は何だってする。
的盧は正面から戦っても勝てない。
だが、今は志信様と口論している。
隙がある。
その思いだけで、俺の体は勝手に動いた。
俺は的盧に飛びかかった。
だが、避けられた。
次の一撃を狙おうとした瞬間、横から強烈な衝撃が走る。
俺を投げ飛ばしたのは――志信様だった。
「……え?」
受け身を取り損ね、地面に叩きつけられた。
息が詰まり、視界が揺れる。
何が起きたのか理解できない。
志信様に訴えようと顔を上げた瞬間、的盧の前脚が腹にめり込み、息が止まった。
四肢を的盧の部下に咥えられ、俺はそのまま牢へ引きずられていく。
頭が混乱して、何も考えられなかった。
なぜだ。
なぜ志信様が俺を投げ飛ばした?
俺は志信様のために動いたのに。
志信様の役に立ちたかっただけなのに。
牢の中で蹲ると、震えが止まらなかった。
胸の奥が痛い。
息が浅くなる。
しばらくして、志信様の足音が近づいてきた。
その音だけで胸が跳ねた。
怒られるかもしれない。
でも、誤解を解けるかもしれない。
そんな期待が、ほんの少しだけあった。
だが、何かを期待していた俺は愚かだった。
「影内、的盧様に襲い掛かるとはどういうつもりだ。
的盧様さえ倒せば、俺はいつでも殺せるという算段だろう。」
志信様の声は怒りに満ちていた。
その怒りが、俺の胸に突き刺さる。
違う。
そんなつもりじゃない。
俺は志信様の部下になりたかっただけだ。
志信様を殺そうなんて考えていない。
的盧が反対しなければ、そもそも襲うつもりもなかった
「違います。
志信様、俺は――」
言いかけた瞬間、鼻面を志信様に噛まれた。
痛みよりも、心が凍りついた。
「黙れ、影内。
お前の処分が決まるまで、牢の中でじっくり反省しろ。
どんな理由があろうと、牢から勝手に出たら許さないからな。」
志信様はそう言い残し、牢を出ていった。
入口が閉ざされる音が、やけに重く響いた。
俺はその場に崩れ落ちた。
俺は志信様の役に立ちたかっただけだ。
志信様を殺そうなんて、全く考えていない。
的盧さえいなくなれば、反対する奴がいなくなって、
俺は志信様の部下になれると思っていた。
なのに――
俺が的盧の次に志信様を殺すつもりだと思われてしまった。
胸の奥が、ゆっくりと崩れていく。
これで、俺が志信様の部下になることは絶望的だ。
俺はただ、牢の中で震え続けた。




