影内視点第10話 俺の命は
朝、目を覚ますと、背中に志信様の温もりが残っていた。
その気配だけで胸がじんわりと緩む。
――生きている。
――志信様のそばにいる。
それだけで安心できた。
志信様はまだ眠っていたので、起こさないよう静かに体を起こし、用を足す。
背中の傷はまだ痛むが、そんなことはどうでもいい。
俺はこの旅の中で志信様に命を捧げる。
命が続く限り、志信様のどんな命令でも遂行する。
その覚悟を胸に置いたまま、志信様がいつ起きてもいいように前で控えていた。
やがて、志信様が目を開いた。
「志信様、おはようございます。」
俺はすぐに挨拶し、次の命令を待った。
だが――
「影内、予定を変更して一旦群れに帰るぞ。」
胸が凍りついた。
帰る?
このままでは、志信様と二匹きりの旅が終わってしまう。
不安が込み上げ、思わず聞いてしまった。
「俺が……何か粗相をしましたか。」
志信様は淡々と答えた。
「影内、お前の傷が思ったより深かったからな。
無理をすると傷口がまた開くかもしれない。
群れに戻って命の泉で癒してから出直す。」
――俺の傷のせいで旅が終わる。
それが耐えられなかった。
「大丈夫です。
俺は志信様のためでしたら、いつでも命を捧げるつもりです。」
本心だった。
傷がどうなろうと構わない。
力尽きるまで志信様に尽くすつもりだった。
だが――
「影内。俺の命令が聞けないのか。」
その一言が、刃のように胸を刺した。
まずい。
志信様に意見するなんて、あの脱走のときと同じだ。
また志信様のお怒りを買ってしまう。
「申し訳ありません……
何卒お許しください……!」
俺は慌てて土下座し、必死に謝った。
しばらく沈黙が落ちた後――
「分かればいい。」
志信様は俺の頭を撫でてくれた。
その瞬間、胸の奥の恐怖がふっと消えた。
志信様のお怒りは鎮まったらしい。
――危なかった。
俺の命は志信様のもの。
何があっても志信様の命令通りに動く。
二度と逆らわない。
絶対に志信様を怒らせない。
その決意が胸に刻まれ、思わず尻尾が振れてしまった。
「それじゃあ群れに戻るが、着くまで餌は我慢しろ。
しばらくは影内が先行しろ。俺はお前の後をついて行く。」
志信様の命令だ。
俺はすぐに従い、志信様の前を走った。
だが――
俺は志信様に捨てられないか心配で、途中何度も振り返ってしまった。
志信様が本当に付いて来ているか確認したかった。
すると途中で、志信様から「後ろを走れ」と命令が来た。
俺は志信様の後ろに回り、群れまで走った。
群れに戻ると、俺は命の泉に浸かるよう命令された。
周義様や志信様の部下たちが周囲に配置され、俺を守るように立っていた。
――そんな必要はないのに。
そう思ったが、志信様の命令である以上、従うしかない。
長い時間が経ったが、襲撃はなかった。
志信様が戻ってくると、俺は志信様と餌を食べ、
その後は志信様の部屋の前で過ごすよう命令された。
俺はその命令通りに大人しくしていた。
そして翌朝――
再び志信様と鳴海へ向かうことになった。
胸の奥が熱くなる。
志信様と二匹きりの旅が、また始まる。
俺は静かに、志信様の後を追った。




