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志信視点第8話 判断を変えたもの

的盧様のもとへ向かい、影内の状況を報告した。

脚だけを埋めて動けないようにしたこと、牢の穴から糞を落とした者の調査を進めること――

そこまでは問題なく許可が出た。


だが、影内を牢の外で動けるようにする案だけは、的盧様に即座に却下された。


「志信、自分の予想が外れた時の群れへの影響を考えろ。

 影内はお前より強い。万が一でも、お前が殺される可能性がある。」


的盧様は、俺の身を案じていた。

ただ反対するだけではなく、牢の管理を一時的に俺の監視下に置くことを許可してくれた。

部下を回して見張りを強化する――その条件付きで。


ならば、影内は再び牢に戻すしかない。


そう判断し、牢へ向かおうとしたとき――

部下が血相を変えて駆け込んできた。


「志信様!影内が襲われています!」


胸が跳ねた。

俺は自分の管轄の洞窟へ急いだ。


影内は、背中を何度も噛まれたようで、血を流していた。

脚は埋まったまま、枝を咥え、助けも呼ばず、ただ耐えていたらしい。


――なぜ、助けを呼ばない。


影内の背中の傷を見た瞬間、胸の奥が痛んだ。


「すぐ掘り出せ!」


命じると、周義がすでに掘り出しを始めてくれていたおかげで、影内はすぐに掘り出すことができた。


ラージに影内を命の泉へ運ぶよう頼んだが、ラージは怯えていた。


「怖いですよ……首を掻き切られたりしないですよね……?」


確かに、影内を背中に乗せるのは怖いだろう。

俺は横で見張ること、影内には動かないよう命じることを約束し、ラージをなだめた。


影内を泉に浸からせると、部下たちを持ち場へ戻し、周義と話し合った。


「影内を掘り出してくれて助かった。

 襲ったのは誰だ?」


「ゲイルとガストン。影内さんの元部下だよ。

 牢に糞を落としたのも彼ららしい。」


やはりあの二匹か。

景虎の反乱を的盧様に密告して取り入っていた連中だ。

的盧様に処置を頼む必要がある。


「的盧様から、牢を一時的に借りる許可を取った。

 餌も俺たちで準備する。見張りを置けば糞の問題も防げる。」


俺が言うと、周義は眉を寄せた。


「でも兄さん、こっちの洞窟はどうするの?

 半分の人数で縄張りを守ることになるよ。」


確かに負担は大きい。

しかも――


「兄さんが鳴海に行っている間ずっと、というのは難しいと思う。」


周義の言葉は正しい。

部下に長期間負担をかけるのは無理だ。


それに現実問題として、

俺が鳴海へ向かえば、影内は俺の帰りを待つ前に殺される可能性が高い。


なら――

影内を鳴海へ連れて行けばいい。


俺の命令には驚くほど忠実だ。

勝手な行動をしないよう命令しておけば、鳴海でも問題は起こさないはずだ。


そして何より――

俺は影内と向き合う必要がある。


「影内は俺の部下になりたいと言っていた。

 それに、俺の命令には怖いくらい忠実だ。

 だが、たまにとんでもない行動をする。

 正直、影内が何を考えているのか分からない怖さがある。」


周義は黙って聞いていた。


「だが、今までの俺は、反乱軍の指揮者をどう扱うべきかとか、説明のつく処理ばかり考えていた。

 この際――影内としっかり向き合うべきじゃないかと思う。」


「どういうこと?」


「影内を鳴海へ連れて行く。」


周義は目を見開いた。


「本気なの?

 確かに兄さんには忠実に見えたけど……」


「俺と二匹きりになれば、影内の本心が分かるかもしれない。」


周義は慎重に言った。


「問題は、万が一影内さんがその気になった場合、兄さんが殺されるかもしれないってことだよ。

 的盧様にも言われたでしょ。」


「影内の態度を見る限り、それはないと思う。

 仮に俺が殺されても、影内一匹では的盧様健在の群れに何もできない。」


周義はしばらく考え、やがて頷いた。


「兄さんがそれでいいなら、僕は反対しない。

 でも……的盧様の許可、取れるの?」


そこが問題だ。

だが、ここだけは押し通すつもりだった。


俺は周義に隊のことを任せ、泉に浸かる影内のもとへ向かった。


影内は枝を咥えたまま、命令通り泉に浸かっていた。

泉から上がるよう命じると、影内は枝を咥えたまま土下座した。


枝を離すよう命じると、影内は震える声で懇願した。


「志信様……お願いです。

 どんな罰でも受けますので、どうかお許しください。」


――この状態で鳴海へ連れて行くのか。

だが、影内の本心を知るには、これしかない。


「影内。今でも俺と鳴海に行きたいと思っているのか?」


「そのような我儘は、もう二度と言いません……

 どんな罰でも受けますので、何卒お許しください。」


影内は土下座したまま、俺に懇願してくる。

脱走したときに拒絶されたことが相当堪えているらしい。


「我儘だということは、もし許されるならまだ望んでいるということか?」


影内は震えながら答えた。


「本当に許されるなら行きたいです……

 ですが、罪狼の俺が望むことは許されません……」


やはり、影内は俺の拒絶で絶望していた。

自決しようとしたほどに。


ならば、影内を鳴海に連れて行くためには……

まずは、影内が突発的に何かをしでかす可能性は潰すために、命令で縛るしかない。

的盧様相手でも問題なのに、鳴海で突進でもされたら群れが滅ぼされかねないからだ。


「影内。今後、俺の命令に絶対に背かないと誓えるか?

 勝手な行動は決してしないと誓えるか?」


「誓います。

 僅かでも約束を破れば、どんな罰を受けても文句は言いません。」


影内は即答した。

その迷いのなさに、胸がわずかに揺れた。


「いいだろう。その言葉、忘れるな。

 誓った内容は今からすぐに実行してもらう。」


影内は息を呑んだ。


「俺は何をすればいいでしょうか?」


「まず、俺の許可なく群れの他の狼を傷つけることは許さん。

 たとえ向こうから噛みついてきてもだ。

 次に、牢に戻って俺の打ち合わせが終わるまで大人しく待て。

 付いて来い。」


影内を牢へ戻し、俺は的盧様のもとへ向かった。


影内を鳴海へ連れて行く――

その許可を得るために。


的盧様は当然反対した。

俺が殺される可能性を何度も指摘した。


だが俺は押し通した。


影内は俺の命令だけは聞くこと。

殺されかけても枝を咥え続け、助けも呼ばず命令を守ったこと。

このまま群れに置けば、俺が鳴海から帰る前に影内は殺される可能性が高いこと。


すべてを説明し、押し切った。


的盧様は渋々ながらも認めてくれた。


そして影内を連れて再び的盧様の前へ行くと、

的盧様は影内に言い放った。


「影内。お前は志信の盾だ。

 命に代えても志信を守れ。

 もし志信に何かあれば、貴様を必ず殺す。」


的盧様は最後まで俺が影内に殺される可能性を潰そうとしてくれていた。


「命に代えても志信様を守ります。」


影内は即座に答えた。


そして翌々日の朝――

俺は影内と二匹で鳴海へ向かって出発した。


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