志信視点第7話:説明がつく処置
影内を牢から出すとき、胸の奥がわずかにざわついた。
的盧様の許可なく影内を外へ出すのは、本来なら規律違反だ。
だが、あのまま牢に置いておけば、また自傷行為をしかねない。
まずは俺の目の届く場所に置き、的盧様への説明がつくよう、逃げられない形を作っておく必要があった。
影内は――俺の命令だけは聞く。
忠実すぎるほどに。
それが逆に怖い。
だが、的盧様に襲い掛かった前科がある以上、感情の暴走を許すわけにはいかない。
「影内、俺の管轄の洞窟まで来てもらう。
後ろをついて行くから、ゆっくり歩け。
逃げようとは思うなよ。」
俺は影内の状態を探る。
今は俺しか監視していない。
影内のどんな些細な行為でも見逃すわけにはいかない。
すると――
「志信様、俺の背中に乗ってください。」
影内から意外な言葉が返ってきた。
「……何を考えている?」
予想外すぎて、反射的に問い返してしまった。
影内の真意が読めない。
「志信様が背中に乗っていた方が、俺は逃げることが難しくなります。」
なるほど。
確かに理屈は通っている。
だが、本当にそれだけか?
影内の意図が分からない。
「……確かに、俺が後ろを歩くよりは脱走しにくいな。
だが、念のためお前の首筋に牙を当てておく。
少しでも怪しい動きをしたら、そのまま掻き切る。」
警戒は崩せない。
「分かりました。どうぞ、お乗りください。」
影内は素直に伏せて背中を差し出した。
俺は影内の背に乗り、首筋に牙を当てる。
影内は怯えるでもなく、ただ静かに立ち上がった。
その従順さが逆に不安を呼ぶ。
影内はふらつきながらも、俺を洞窟の奥――俺の部屋の前まで運んだ。
ここまで来れば、影内が逃げようとしても部下たちが止めることができる。
「よし、ここでいい。
しばらくそのまま待て。」
影内は伏せたまま動かない。
だが、いつ暴れ出すか分からない以上、油断はできない。
そのとき、周義が近づいてきた。
「兄さん、影内さんを牢から出してきて大丈夫なの?」
「危なかったからな。後で的盧様に報告する。」
「それで、影内さんをどうするつもりなの?」
「処分が決まるまで、俺の部屋に置いておこうと思う。」
周義は即座に首を振った。
「それはまずいです。兄さんの部屋は兄さん以外入れない決まりですよ。」
確かにそうだ。
幹部の部屋は特別扱いで、誰も入れない決まりになっている。
俺は、ただでさえ影内を勝手に牢から連れ出しているのだ。
さらに、影内を入れたとなれば、的盧様でも庇いきれない可能性がある。
「それなら、洞窟内の共有空間はどうだ?」
共有空間なら俺の手下もたくさんいるわけだし、入ってはいけない決まりもない。
「影内さんがすぐそばにいるなんて、みんな怖いと思いますよ。」
周囲を見ると、部下たちが露骨に嫌そうな顔をしていた。
確かに、影内の戦闘力を知っている者からすれば当然だ。
俺の独断のために、部下を怖がらせるわけにはいかない。
となると――外しかない。
「洞窟の外なら問題ないか。
念のため、動けないようにしておく。」
部下たちもそれならと頷いた。
なので、俺は影内を洞窟の外で動けないよう処置することにした。
俺は影内を洞窟の前へ連れ出し、部下たちに穴を掘らせた。
影内は顔を上げ、わずかに震えた。
――殺されると思ったのだろうか。
俺は影内の目を見たが、影内はすぐに視線を逸らした。
本心は読めない。
穴を掘っている間、部下に短い枝を取ってこさせた。
影内に咥えさせて牙を封じるためだ。
穴が完成すると、影内に入るよう命じた。
影内は素直に穴へ入り、底で伏せた。
「兄さん、本当に埋めるつもりなの?」
周義が不安そうに聞く。
俺は枝を影内の前に落とした。
「影内、その枝を咥えていろ。
力を入れて食いちぎるなよ。」
影内は従順に咥えた。
次に、影内を立たせたまま動くなと命じ、
四本の脚を土で埋めて固定する。
これで脱走はできない。
的盧様への説明もつくだろう。
牙も使えない。
部下も安心するだろう。
「俺は的盧様に話をしてくる。
お前たちは持ち場に戻れ。
門番は交代で影内を見張れ。
影内は、このまま大人しくしていろ。」
俺は部下に見張りを任せ、的盧様のもとへ向かった。
影内を牢から出した理由の説明と、
誰かが天井の穴から糞を落とした件について調査するために。




