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志信視点第5話 保留という判断

影内のまぶたがわずかに動いた。

意識が戻ったのだと分かり、胸の奥がふっと緩む。


「気がついたか?」


声をかけると、影内がかすかに返事をした。

その瞬間、張り詰めていたものが一気にほどけ、視界が揺れた。

安心した途端、俺の意識は闇に沈んだ。



――次に目を開けたとき。


俺は地面に横たわり、的盧様に血を与えられていた。


「志信、気がついたか。」


的盧様の声が聞こえる。

どうやら俺はかなり危険な状態だったらしい。

影内を助けることに必死で、自分の限界を見誤ったのだ。


「的盧様……ご心配をおかけして申し訳ありません。

 影内はどうしました?」


俺は的盧様に心配をかけたことを謝った。

そして、影内の姿が見えないことが気になり、すぐに尋ねた。


「命拾いしやがって。

 志信、お前が助からなかったら、あの野郎を八つ裂きにしてやるつもりだった。」


的盧様の言葉は荒いが、俺を心配してのものだと分かる。


「影内はどこに?」


「あそこで捕えている。

 だがな、志信。

 あんな奴を助ける必要がどこにある?

 殺した方が群れのためだ。

 お前が危険を冒す必要はなかった。」


的盧様の言うことは正しい。

影内は命令違反をし、脱走し、ここまでの騒ぎを起こした。

普通なら処刑されても文句は言えない。


だが――

影内が自決しようとした瞬間の、あの目が頭から離れない。


敵意でも、策略でもない。

ただ、俺の庇護を失うことへの絶望だけがあった。


影内は俺と鳴海へ行きたかっただけなのだろう。

それが叶わないと思い、自分で終わらせようとしたのではないか。


そう思えてきたため、俺にはここで殺処分するという選択肢はどうしても取れなかった。


「的盧様。

 影内の処遇は、俺に任せてくださるはずでしたよね?」


俺は一度、影内を牢に戻し、冷静に考える時間を確保するつもりだった。


的盧様は渋々頷く。


「確かに任せると言った。

 だがな志信。

 影内はお前の命令を無視して脱獄した。

 お前でも手に負えない奴を群れに置くのは危険すぎる。」


的盧様は俺を本気で心配している。

影内の戦闘力を考えれば、俺を殺すことなど容易い。

その危険性を的盧様は指摘しているのだ。


「確かに……俺の命令すら聞かないですね。」


まずは事実を認める。

ここを曖昧にしては、的盧様を説得できない。


「だから殺した方がいい。」


的盧様の言葉は重い。

だが、俺は影内を殺すつもりはなかった。


影内は俺の庇護を受けたいだけだ。

ただ、焦りと恐怖で判断を誤っただけだと感じていた。


とはいえ、今ここでその考えを押し通す材料はない。

まずは影内を牢に戻し、命令に従わせる姿を的盧様に見せる必要がある。

それと同時に、俺の予想が外れていた場合に、群れに迷惑をかけない対応も必要だ。


「影内の処分は、一旦牢に戻してから考えます。

 群れに害となるなら、始末するのもやむなしですね。」


処分を保留にすることで、的盧様の怒りを鎮める。

そのうえで、影内の様子を見るつもりだった。


俺は影内の方へ歩き出そうとしたが、足がふらつき、倒れそうになった。

的盧様が支えてくれる。


なんとか影内の所に行くと、

影内は地面に這いつくばり、的盧様の部下に四肢を封じられていた。

影内は俺を見ると、すぐに懇願してきた。


「志信様、お願いです。

 どんな罰でも受けますので、何卒お許しください。」

影内は俺の姿を見ると、懇願してきた。


「影内。なぜ自決しようとした?」


「命令違反をする以上、志信様のお許しが得られなければ……自決するつもりでした。」


影内は分かっていて命令違反をしたのか。

俺と鳴海へ行きたい一心で。


「分かっていて命令違反をしたのだな。」

今後もそんなことをされては困るので、そこはしっかりと押さえる。

これで、軽々しく命令違反をしなくなるといいのだが。


「申し訳ありません。

 どんな罰でも受けますので……何卒お許しください。」

影内は必死に懇願してきた。


「どんな罰でも受けると言うのなら、自決して逃げることは許さんぞ。」

あとは、自決されても困るので、そこも押さえる。

影内だけでなく俺も死にかけたからな。


「もう決して自決はしません……何卒お許しください。」

ここまで言うなら、まずは牢に戻して様子を見てもいいだろう。


「影内。処分は後で行う。

 それまでは牢に入っていろ。」


的盧様の部下が影内を引きずろうとしたので、俺は止めた。

影内は死にかけの状態だ。流石に、そんなことをしたら危ない。

俺は、引きずらないよう頼んだが、部下たちは影内に殺されることを恐れていた。

影内の強さを知っているからだ。


「それじゃあ、影内を放してやってください。」


俺は考え、影内を放して自分で歩かせることにした。

的盧様が側にいる以上、暴れる心配はないだろう。


「影内、自分の足で牢に入ってもらうぞ。

 後ろをついて行くからゆっくり歩け。

 分かったな。」

そう言った瞬間、俺の足が絡まり、倒れた。


「志信、大丈夫か?」

的盧様が、心配して駆け寄る。


「的盧様、申し訳ありません。

 足取りがおぼつかないので、誰か背中に乗せて運んでもらえませんか?」

俺は的盧様に頼んだつもりだった。


「志信様、俺の背中に乗ってください。」

すると、影内が横から口をはさむ。


「影内、お前は死にかけだ。無理だ。」

俺は言うが、


「大丈夫です。

 命に代えても、志信様を最後まで運びます。」

迷いのない声だった。


本当に大丈夫なのか心配だったが、

影内の本心を知るためにも、ここは任せてみるべきだと思った。


「自分で言った以上、最後まで運んでもらうぞ。

 いいんだな?」


「もちろんです。」


影内は俺を背に乗せ、ふらつきながらも歩き出した。

途中で俺はラージを呼び、後ろにつかせた。


影内は俺を背負ったまま、牢の入口まで歩ききった。


「着きました。」


影内は伏せて俺を降ろす。


「牢に入れ。

 呼ぶまで、どんな理由があっても出るな。」


影内は素直に牢へ入っていった。


俺は歩けないため、ラージに運んでもらい、体力の回復に専念することにした。


影内の処遇は――

もう少し、時間をかけて考える必要がある。


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