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第204話 水面下で巡る


 魔獣王とはそもそも何なのか。


 その答えを,湊斗は,否,この世界の誰もが知らない。

 天上におわす神々ならばあるいは。だが,地上にあってそれを知るであろう者は死に,既に答えを聞き出すことは叶わない。


 しかし,そうであっても推測することはできる。


 湊斗が今まで目にしてきた魔獣王たち。


 帝都の空に見た第4の魔獣王群玄蜂。

 アリミノスという『大迷宮』を擁した都市で戦った第2の魔獣王ミノタウロス・マルム。

 ラスト諸国連合を脅かした第5の魔獣王イーグイ・イーグル,並びに黒骸大鯨。


 第9の魔獣王白狒々はその姿を見ていなければ,力の行使シーンを直接見かけた訳ではないため,考慮に入れづらいが,それでも要素の1つ。


 そして,今この帝都にいる第1の魔獣王ラットライダー。


 加えて,Sクラスと関わりのない,残された魔獣王たち。


「それで,魔獣王について考えてることってのはなんなんだよ」


 ノエル,シャルロッテは既に別行動。

 故に,この場にいるには湊斗の他にアジュン,ジョバンニ,リチャード,アイリーンの合わせて5人。

 女子1人というアイリーンにとっては少々居心地が悪いかもしれない空間になっている。


「妙だと思ったのは魔獣王の概要と個々の名前を聞いた時だ」


 鼠,牛,虎,蜂,鷲,蛇,馬,山羊,猿,鳥,犬,猪。


怪物主(モンスターロード)の配下だった魔獣たち。どれも十二支に数えられる動物だ」


 ただ,元々十二支は動物を宛がうためのものではない。

 それが成立したのは後の時代になってからのもの。


「それぞれの担当する方角が180°反転している時点で元の世界との関連は疑った」


 この世界で出会った魔物の面子にしてもそうだ。

 魔獣王の中でもミノタウロス・マルムやイーグイ・イーグルは分かりやすい。


 地球においてギリシャ神話に語られる怪物ミノタウロス。

 中国で怪異の類いとして伝わるイーグイ。


 それだけではない。『大迷宮』で遭遇したキマイラにしてもそうなのだ。


 地球との関連性は至る所に散りばめられている。


「ここまでくればより深い関係を疑わない方が愚策だ。だが,魔獣王については少しばかり特殊になっている」


「鼠が南になって,それに合わせて他の動物の方角もズレてる……んだったよな?」


「不自然なんだ。他の符合する特徴とは意図的にズラされているようにも思える」


「……人為的ってことか?」


「どちらかと言えば神為的,かも知れないが」


 この世界全土の情勢に関わってくるレベルのことだ。

 個人で引き起こすには難易度が高過ぎる。地球のような情報ツールの整備がなされている環境とは違うのだ。


 加えて神という超常の存在がいるのならその関与を疑うのは必要不可欠だろう。


「でもよ,それと今の状況に何の関係があるんだ?」


「俺はラスト諸国連合である魔獣王の言葉を聞いた」


 それは黒骸大鯨の言葉だ。


『否である。我が呪いは()()()()()()。我が封印の解放は地上全土の汚染となることだろう』


 我が呪い,という言い回し。汚染巨大質量という文言。

 そこから導いた仮説が1つ。


「魔獣王は怪物主(モンスターロード)の配下となった魔獣の長じゃない。結果的にそうなっただけだ。それまではむしろ世界の守護者としての側面がメインだと考えている」


「あー,えっと……どうしてそうなったか聞いてもいいかな?」


「そうしたいのは山々だが,そろそろポイントだ。アジュン,リチャード,頼めるか?」


「あぁ,もちろんだよ」


「おうよ,俺らに任せてくれって」


 当然,ここで会話が切れるように話を持っていったのは湊斗自身だ。


 全てが全て湊斗がクラスメイトに策を授けられる状態は健全ではない。


 それはアリスやシャルロッテ,あるいはノアだとしても同様だ。頭脳を誰かに頼る組織は致命的な脆弱性を抱えることになる。


 個人個人の思考力を鍛えておく必要がある。

 状況を疑い,思索し,あるいは時に信じ,必要な答えに辿り着く力を身につけなくてはならない。


(俺の仮説自体,正しいかどうかは分からないしな)


 湊斗の立てた仮説──魔獣王たちが人間の様々な側面を象徴するように選出されているというそれは,まだ絶対の根拠を伴っていない。


 その場合,黒骸大鯨の人類に対する攻撃性は自己嫌悪を評する他にないが,ともかく材料の足りない今,それ以上の考察に深い意味はない。


(アジュンとリチャードはサウロス家の屋敷に向かった。ジョバンニとアイリーンは帝城に向かわせるとして,俺は……)


 そうして,湊斗は必要な手を打つための布石を散りばめていく。

 その先に何を見据えているのかは,誰にも明かさないまま。


 ──────────


「魔獣王ラットライダーって,嘘だろ!?」


「嘘ではありませんよ。たった今,この地に呼び出したというだけのこと。我はこれでもサウロス家の神童とかつては呼ばれた身。このような術式の用意は当然ございますとも」


 前方,屋敷方面にハナス・サウロス。

 後方,裏庭方面にラットライダー。


 それだけでもクリシュナと誠一郎にとってはどうしようもない程の脅威。

 だが──


「その術式は私の補助会ってのことですが……まぁいいでしょう」


 ラットライダーの後方,クリシュナたちの死角から出てきたのは角と尻尾が特徴的な竜人。


「誰だ!?」


「まずは自己紹介が必要なようですね。私はユアンです。しがない一介の旅人のようなものですが,故あってサウロス家に協力している者です」


「竜人……そういえばアリスさんから聞いた気がする。詳しくは聞いてないけど……」


 尤も,アリス当人も竜人について底まで深く知っている訳ではないため,仮に誠一郎が詳しく問い詰めていたとしても,今以上の認識はできなかっただろうが。


「ハナスさん,現状についてどこまで理解していますか?」


「Sクラスの動きがきな臭いということでしょう。我も先程ラットライダー複製体を呼び出した時にあちらにSクラスのリーダーがいると情報を受け取りました。まったく昨日までは帝都(ここ)にいたと報告があったというのに,面妖なものです」


「当然,Sクラスの脅威が彼女だけでないことも把握されているでしょう?」


「当然でしょう。そのレベルの確認は侮られているまで思えますが」


「私はそちらの対応に向かいます。こちらの脅威はあなたとこの偽物で事足りる。違いますか?」


 クリシュナたちそっちのけで言葉を交わすハナスとユーコン。

 無視されているようでいい気はしないが,時間を取らせるという意味では悪くない,と沈黙を続ける。



 ハナス,ユアン,ラットライダー複製体。


 どの1つをとっても油断ならない相手だ。

 ラットライダーは当然ながら,ユアンは竜人であるし,ハナスもこの場に現れたということは自衛手段の1つや2つあることだろう。


 はっきり言って,今の2人に確実に倒せると言い切れる相手はいない。

 そんな状況なのだ。相手の頭数が減る見込みであれば,口を挟む必要はない。


「むしろこちらからお願いしたいところです。我も手を打ってはおりますが,それだけでは解決の確証が得られないところでしたので」


 ハナスの言葉に,ユアンは縦に首を振ると大きく跳躍してその場から姿を消す。


 その跳躍方向が帝城方面であることに思うところがないではないが,それより先にすべきはやはり我が身の心配。

 クリシュナも誠一郎も,この状況が安全などとは考えていない。


 ユアンがこの場を去ったとて,ハナスとラットライダーが脅威であることに何ら変わりはないのだ。


「さて,お2人とも。この場に来た要件を聞きましょうか」


「その裏口の先に隠したものを暴かせて貰おうってな」


「はて,何のことでしょう。我々貴族,国民の皆様に恥じるようなことはしておりませんが」


「よく言うぜ。俺たちに攻撃するのは,Sクラスが帝国で生まれた訳じゃないからってのかよ」


「貴方方の存在は利益ばかりではないのですよ。当然のことではありますが,どんなものにも良い面と,悪い面がある。皇帝陛下はSクラスの良い面にのみ着目しているご様子ですが……我々はそうではないのです」


「だからって! 武力に訴えかけて排除するってのはおかしいだろ!?」


「それだけじゃない。僕にしたようにSクラス内部の関係につけ込んで好き勝手するのも認められることじゃない!」


 ハナスは吼えるクリシュナと誠一郎の言葉に,ただ呆れの溜め息を1つ。


「貴方方は全く理解できていないようですね。この世界は,そのような綺麗事ばかりで成り立っている訳ではないのです」


 クリシュナにしろ誠一郎にしろ,結局のところ高校1年生に相当する年齢でしかないのだ。


 少しばかり特殊な環境で育ち,少しばかり特殊な学園への入学を果たし,このような異常事態に巻き込まれても,15か16の精神的にも未熟な子供に過ぎない。


「だとしてもだ!上に立つ者が進んで対立を引き起こすのは間違ってるはずだ」


「リーダーシップを取るはずの存在が自分勝手に動くのは,その下にいる皆への裏切り行為でしかない……!」


 クリシュナは自身の正義感から。

 誠一郎は裏切りへの忌避感から。


 己の本心を口にする。


 そんな,純粋な少年たちに比べれば,ハナス・サウロスという1人の大人の精神性など,ただのくたびれた中年に過ぎない。


「無知とは罪なものですね」


 理想論では語れない。

 綺麗事では何もなせない。


 それを口にするならば,それを成し遂げるだけの力を,そう夢見せるだけの力を持っていなければならない。


 それをハナス・サウロスは知っている。

 同時に,自身がそれ程の力を持っていないことも知っている。


 そして,それでも自分自身が自己の目的を達成するだけの力を備えていることも知っている。


「御託はここまでにしましょう。貴方方の時間稼ぎの成果が,こうして1つ現れたのですから」


 そう口にして,ハナスはクリシュナたちが潜んでいた場所とは別方向の茂みを指差す。

 その指し示す先へと目線を向けたクリシュナと誠一郎が目にしたのは──


「遅れてごめん。加勢するよ」


「おうよ,俺たちが揃えば,きっと負けないぜ!」


 茂みを掻き分けて現れたのはSクラスに属する2人の少年。


「リチャード! アジュン! 最高のタイミングだ!」


 アジュンたちが,任務を終えたラスト諸国連合潜入組を引き連れて帰ってきた。

 その事実は大きい。

 きっと,ここにいる潜入組メンバーはリチャードだけ。であれば他のメンバーは別の場所で動いているのだろう。


 であれば,アリスの懸念していた人数の問題は解決する。

 クリシュナはそう判断し,改めて戦闘態勢を取る。


「俺たちで抑えるんだ!」


 アジュン,クリシュナ,リチャード,誠一郎の4人と,ハナス,ラットライダーの戦いは,こうして幕を開けることとなる。



 ガチ多忙につきキャラクターメモを用意できない。悲しみ。

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