交渉
「船? 俺はまだ魔物のエサになるつもりはないんだよ。悪いが他当たってくれ」
想像以上に船の確保は難航していた。魔物の活発化により客船は当然の事、貨物船も漁船でさえも船を出すのを自粛している状態だ。客船の受付に聞いたところ現状高い実力を持った護衛を雇い、客も乗船可能ギリギリまで確保し万全の状態、尚且つ最小の航海になるようにしか運営していないと言う。当然次回の航海日は未定だ。
それならばと貨物船、漁船を持つ人に頼んでみるが、皆首を縦には振らなかった。
船が出ないのならばしかたがない、残念ながらシラヌイの旅はこれにて終了……完。
と言う訳にはさすがにいかないが何日もここで足止めを食らうのは避けたい所である。溜息をつきながら他に頼めそうな人を探していると客船の受付から何やら口論が聞こえる。
「ですから先ほど説明した通りです」
「だーかーらー! それを何とかできないかって聞いてるの! 護衛くらい私がやってあげるから!」
「困りますお客様」
子供だろうか? そう思えるほどの背丈の客人は通りすがりにも聞こえるほどの声で怒鳴っており大変ご立腹のようだ。とは言えシラヌイも現在同じ状況で気持ちとしては分からなくもない状態だった。受付の人にとっては災難以外の何物でもないだろうが……。
「悪いな兄ちゃん。当分の間は船を出すつもりは無いんだ。他を当たってくれ」
現在シラヌイは十連敗中だった。それだけ魔物の脅威が大きいという事もあるだろうがシラヌイには交渉材料になる物を何一つ持ってないという事も影響しているだろう。首を横に振られてもそこから先に繋げない。それこそ大金を持ってたりすれば話が違っただろうが……。諦めムードで立ち去ろうとすると交渉していた男に呼び止められる。
「あー……。さっき港のほうで長髪の男とエルヴィン商会の人間が船を出せとか口論してたみたいだが、もしかしたら交渉できるかもしれないぞ?」
今のシラヌイにはこれ以上無い程の朗報だ。男には感謝を述べ、急いで港へと向かう。
港では船の近くで小太りの男と長髪の男が今まさに口論の真っ最中だった。
「どうして船が出せないのかね? 早急にこの荷物を運ばないといけないのは貴方にも説明したはずだが?」
「状況が変わったんですよ。このメンバーじゃ魔物の餌になりにいくようなものですぜ?」
「それを何とかするのがプロと言うものじゃないのかね? それにこっちには……」
小太りの男の怒号が飛び交う中、一般的には声を掛けづらい状況だが、お構いなしにシラヌイは「ちょっといいか?」とバッサリ割って入る。
「なんだね君は? 今は取り込み中だから後にしなさい」
「船を出すと聞いたんだが、できれば俺も乗せてもらいたいのだが……」
「ダメだダメだ! 赤の他人を乗せるほどこちらも余裕が無いのだよ!」
「護衛として雇うとかでもダメか? 持ち合わせはあまり無いが金も払うし迷惑を掛けるつもりも無い、ただ海を渡りたいだけなんだ」
「ダメと言ったらダメだ!」
掛け合う間も無く小太りの男がシッ! シッ! と虫を払うように一蹴する。
そこに長髪の男がジーっとシラヌイを見た後にニッっと口元に笑みを浮かべて口を開く。
「エルヴィンさん、彼を護衛として乗せるなら予定通り出発しましょう」
「何を言うかね! 護衛なら魔術師の娘を一人雇ったじゃないか!」
「それじゃ不足だと言ってるんですよ。仲間を危険に晒すわけにはいかないんでこちらも引けませんよ」
船を出せないのだけは回避したかったのだろう、小太りの男はぐぬぬと歯を噛みしめると「勝手にしたまえ!」と船の方角へ去って行った。長髪の男はやれやれと肩を竦めるとシラヌイに向け手を差し出す。
「モーガン・ヴォルグだ。メレキ大陸には二日もあれば着くはずだ。それまでよろしく頼むぜ」
「シラヌイ・ホムラだ。こちらこそよろしく頼む」
お互い握手を交わした後、二人は船へと向かう。案内された船は、そこそこ大きな貨物船でさっきの男の荷物と思われる物を屈強な男たちが運んでいる最中だった。モーガンに案内され船に乗り込もうとした時、聞き覚えのある声が後ろから二人を呼び止める。
「船を出すなら私も乗せてくれないかしら? お金は……そんなに多くは持ってないけど払える分は払うし護衛もできるわ。だから……」
さっき受付で口論していた子供が早口に話す。必死に交渉してはいるがさすがのモーガンも子供を乗せはしないだろうと思っていると、少し考え込んでいたモーガンの回答は意外だった。
「護衛ねぇ……。いいぜ、付いてきな!」
「いいのか?」
「一人も二人も大して変わらねぇからな。それにいざって時はお前さんが守ってくれるんだろ?」
そう言うとモーガンはシラヌイの肩をポンっと叩きながら船に乗り込む。はぁっと溜息をつきながらシラヌイも遅れて船に乗り込んでいく。
数十分後に荷物の積み込みが終わり、シラヌイはいくつかの不安を抱えながら船はアーグアを出発した。




