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港町アーグア

 遠くに堀と木製の塀に囲まれた町が見えてきた。ジャパニ島唯一の港町の為か、外国からの客人も多い為に小規模ながらも結構厳重に守られているようだ。街道に沿っていった突き当りには町の唯一入り口である大きな木製の門が立ちはだかっている。


 町の門まで近づくと鎧を身に纏った男が立っていた。ジャパニ島で好んで着られている鎧は外国から見たら珍しい為、それらを装備している者は〝武士〟と呼ばれている。なぜそう呼ばれているかは誰に聞いても「昔からそう呼ばれているから」としか返答が無い為、よく分かっていない。とは言え、シラヌイは鎧が好きではない為、そう呼ばれる事も無いだろう。


 そのまま門の前まで近づくと男に呼び止められる。


「止まってくれ。身分を証明する物と町に来た目的を教えてくれ」


 マニュアル通りであろう質問に少し疑問を持ちながらシラヌイは答える。


「目的は船でメレキ大陸に向かう為だ。あと、前回来たときは身分証の提示は求められなかったはずだが何かあったのか? この島には身分証の概念は無いのは知ってるだろ?」

「あ~この島の出身なら提示はいいよ。最近他国の交流が増えただろ? だから最近警備の強化とか言って身分証の提示をしてもらってるんだ」


 最近導入された為かまだそこまでしっかりしたシステムではないらしい。あまりのざるさ加減にシラヌイは苦笑する。


「とりあえず、名前と出身を教えてくれ」

「シラヌイ・ホムラだ。ジャーマ村からここまで来た」

「ジャーマ村ね……と。はいよ、仮身分証明書だ。メレキ大陸の町では身分証の提示が必須だからこの島出身の奴はこれが身分証の代わりになる。ただし、あくまで仮だからちゃんとした身分証をむこうで取るんだぞ」

「どうも。そうそう、魔石を換金したいんだがどこでできるか知ってるか?」

「ここだとその辺に露店が並んでるからどこでも買い取りしてくれるはずだ。分からなかったら宿屋でも買い取りしてるぞ」

「助かる」


 門番の男から情報を聞き、シラヌイは門をくぐり町の中へと入っていく。その辺に露店が出ているというだけあり、町中は活気に溢れている。食料、アクセサリーといった日常品や小道具を売っている店もあれば、怪しい魔道具等少し特殊な物を売ってたりと様々である。


 しかし、ずっと歩き詰めだったシラヌイは迷わず宿屋を探す。町に入ってすぐにあるマップで宿屋の位置を確認すると足早に目的地へと進んでいく。



 〝青の岬〟そう看板に書かれた大きな建物に到着するとシラヌイは中に入っていく。中に入るとすぐ目に入ったのがテーブルとイスに座り食事をしている人間の姿だ。一階のフロアは食堂になっており老夫婦や武器を装備した冒険者、若いカップル等様々な人間が酒を飲んだり食事を楽しんでいた。ドアが開いた瞬間当然のようにシラヌイに視線が集まるが、無視して正面のカウンターへと向かっていく。


「いらっしゃい。〝青の岬〟へようこそ。本日はどのようなご用件だい?」


 笑顔で対応する大変ガタイのいいおば……おねえさんに少し驚愕する。


「あら。美人な受付じゃなくてガッカリさせちまったかい?」

「からかうのはよしてくれ。あまり慣れてないんだ」

「あっはははは。そいつは悪かったね。お兄さんみたいな若いのは久しぶりでついね。それで、用件はなんだい?」

「宿泊を……と言いたいところだが、持ち合わせが無くてね。ここで魔石の買い取りをやってくれると聞いたが可能か?」

「可能だよ。ちなみに買い取りをしてる宿はここが特別だから他の町では気を付けるんだよ。じゃあ物を見せてくれるかい?」


 シラヌイは持っている魔石をテーブルに並べる。本来なら冒険者ギルドが素材等の買い取りを行っているがジャパニ島では冒険者ギルドは存在しない。その為、ここでは特別に素材等の買い取りを行っているとの事。逆に言うとこの宿は少なからず冒険者ギルドの息が掛かっているとも言える。


「ほほう……そこそこ大きい魔石が混ざってるね。ホブゴブリンでも狩ってきたかい?」

「まぁ……たまたまってやつさ」


 さらっと魔石を鑑定しているが鑑定にも資格が必要なはずだ。それを簡単にこなすとは、相当優秀なおば……おねえさんである。


「鑑定終わったよ。全部で四万五千ベニーで買い取るよ。じゃあギルドカードを出してもらえるかい?」


 ベニーとはメレキ大陸共通の通貨である。交易が盛んになってくると同時にこのジャパニ島でも普及し始め、今では一般的な通貨として使用されている。ガラン鉱石という特殊な鉱石をコイン状に加工し、中央に一、五、十、五十、百、五百、千、五千、一万の数字が刻印された九種類が存在する。数字が大きくなるほど若干コインの大きさが大きくなっていく。


「生憎と仮身分証しかない状態でね。ギルドカードがないと買い取り出来なかったりするか?」

「そいつは失礼したね。ギルドカードが無くても買い取りは可能だよ。ただ実績にならないだけさね」

「それじゃあ足りるか分からないがそこから一人部屋一泊分の宿代を差し引いてくれ」

「はいよ。合計で四万ベニーね。それと部屋の鍵だよ。二階の一番右奥の部屋になるから間違えるんじゃないよ。夕食と朝食も付いてるからそうさね……一時間後くらいに夕食用意しておくから降りておいで!」


 シラヌイは四枚のベニー通貨と鍵を受け取ると階段を上っていく。部屋に入るとベッドに飛び込み大の字に横になる。歩き詰めで疲れたのかそのまま夕食の時間まで身体を休めることにした。



 シラヌイが一階の食堂に向かうと既に料理が用意されていた。


「お、ちょうどいいね。料理が用意できてるから冷めないうちに食べな」


 目の前には流石は港町と言うべき魚介類をふんだんに使った料理が並べられていた。四日間もの間携帯食で過ごしていたシラヌイは思わず生唾を飲み込む。


「それじゃ遠慮なくいただきます」


 食事を一口頬張った瞬間あまりのうまさに昇天しかけたが、何とか我に返り夢中に食事を口に運ぶ。ほんの十分程で一通り出された食事を食べ終える。


「ごちそうさま」

「あっはははは。お粗末様。よほど腹が減ってたんだね」

「数日まともな食事をしていなかったからな。後は、料理が単純にうまかったからかな」

「嬉しい事言ってくれるじゃないか。明日も頑張らなくちゃね」


 シラヌイは食後のハーブティーを堪能していると宿のおば……おねえさんは世間話を続ける。


「ところで、アンタこのまま船でメレキ大陸に行くのかい?」

「ああ。明日の朝から船を探すつもりだ」

「だとしたらちょっと時期が悪かったね」


 話を聞くと、最近海の魔物が狂暴化しており船の出ている数が極端に少なくなっているらしい。冒険者ギルドでも討伐依頼は出してはいるが討伐ランクの高いモンスターが目撃されており、中々難しいようだ。


「あっちの大陸じゃ妖魔病とかいうのも流行ってるみたいだしねぇ」

「……ところで身分証を取りたいんだが、一般的には何を取るのがおすすめか知らないか?」


 少し暗い話になりそうだったのと他に情報収集をする為にシラヌイは話の話題を変える。


「身分証かい? そうさね……一般的には冒険者ギルドに冒険者として登録してギルドカードを貰うのが一般的じゃないかね。後は、腕に自信の無い奴は大体冒険者じゃなくて商人としてギルドに登録することが多いかね」

「なるほど。冒険者か商人ね……」

「アンタだと冒険者がいいんじゃないかい? 中々見どころあると思うよ」

「まぁ考えとくよ。料理ごちそうさま。そろそろ休ませてもらうよ」


 そう言うとシラヌイは部屋に戻っていった。そのまま久しぶりのベッドの温かさに包まれながら眠りにつく。



 翌朝、朝食を食べ終えたシラヌイはチェックアウトを済まして宿屋を後にし、船を探し始めるのだった。


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