道中の珍客
日の光が見え始める頃、シラヌイは街道に沿って北へと足を進めていた。街道とは言うものの、整備された道ではなく多くの人によって踏み荒らされ雑草が剥げて自然とできた道であった。ジャパニ島は基本的に森林に囲まれた島だ。その証拠に街道を逸れるとすぐに森に入ってしまう。故に人が通る道は制限され、このような道となったのだろう。
シラヌイの次の目的地はジャパニ島北端のアーグアと呼ばれる村である。この島唯一の港町であり、北の大陸〝メレキ大陸〟へ向かう為にはここを一度経由しなければならない。
シラヌイが村を出てから既に三日経っており、睡眠時間以外はずっと歩き詰めだった。食料も少なくなってきており、なによりベッドの上が恋しくなってきた為か歩行のテンポは徐々に速くなっていった。
歩みを続けると左手に大きな湖が見えてくる。アーグアから二十キロほど離れた所にあるリース湖と呼ばれる湖だ。
「ふぅ。これなら日暮れ前にはアーグアに行けるな」
大体の到着時間に目処が立ち余裕がある為、シラヌイは湖の近くで腰を下ろした。目の前には日の光が反射し、水面に輝く光の帯が小刻みに振動する光景が広がる。シラヌイはその光景を眺めながら干し肉を口に運ぶ。
最後の干し肉を口に運ぼうとした時だった。背後より何かがシラヌイ目掛けて飛んで来た。咄嗟に刀で弾き、足元を見ると戦斧が地面に突き刺さっている。
「おうおう、いい反応してるじゃねぇか兄ちゃん」
声の先を見るとそこには強面の三人組の男が立っていた。そしてなぜか勝手に各々ポーズを取りながら口上を述べ始める。
「俺は頭脳担当デクス!」
「俺は怪力担当シニス!」
「そして俺がリーダーのロクス!」
「泣く子も黙るロクス盗賊団とは俺たちの事よ!」
シラヌイは固まっていた。恐怖云々ではなく突然の出来事に頭の処理が追い付いていない感じだ。しかも三人組の顔が同一人物かというほど似ている為、せっかく名乗ってもどれがどれか分からずさらに混乱する。
「おいおい兄ちゃん。恐怖で声も出ないってか?」
男の問いかけでハッと現実に復帰し、顎に手を当て首を傾げながらいかにも「自分ではありませんよ」とアピールしながら後ろを振り向くが、空しくもそこに見えるのは美しい湖の景色だけだった。
「てめぇの事に決まってんだろ! 舐めてんのか!」
どうやらどうあってもやり過ごせそうにない状態にシラヌイは観念する。
「盗賊団とやらに知り合いは居ないが、俺に何か用か?」
「決まってんだろ。大人しく身ぐるみ差し出しな」
「この格好見れば金なんて持ってない事ぐらい分かるだろ? 他を当たったほうが賢明だと思うが?」
「何言ってんだ? 腰にいいもんぶら下げてるじゃねえか」
シラヌイは腰の〝無銘〟を指差す盗賊に対して、中々いい目を持ってるようだとすこし感心する。実際にはどのくらいの価値があるのかは分からないが珍しい材質の武器なら買う人は高値で取引するだろう。その目利き能力は賞賛するが、当然「はい分かりました」と渡すつもりは毛頭ない。
「当然拒否するが、その場合はどうするつもりだ?」
「へへっ。その時は少ーし痛い思いするだけさ」
当然の返答にシラヌイは溜息をつきながら周囲を確認する。正当防衛と主張できる状況とは言え、やはり人目には付きたくはない。元々あまり人通りが多いわけではないが念には念を入れる。
「おっと、妙な気は起こさないほうがいいぜ。俺達はこう見えてもBランクの冒険者だ。しかも三対一ときたもんだ。絶対兄ちゃんに勝ち目はねぇぜ」
「忠告どうも。いいから早く来いよ」
右手を前に出し手招きをするシラヌイに青筋を浮かべながら三人組はそれぞれ戦斧を構える。
「てめぇ……いい度胸だ。覚悟しやが――」
言い終わる前にグーに握られた拳がロクスの顎に目掛け振り上げられ、そのまま天を見上げながら膝から崩れ落ちた。間髪入れずロクスの右に居たデクスの腹部にシラヌイの拳が突き刺さる。グエェと声を漏らしながら前のめりに倒れ込む。
「ア、アニキ!」
二人が倒れ、動揺するシニスだったがすぐにシラヌイの拳が顔目掛け近づいてくる。しかし、あと数センチの所でピタッと止まり、シニスはヒッ声を漏らしながらと尻もちをつく。
「おっと。お前は片付けだ。確か怪力担当だったよな? しっかりと二人を運んで行けよ」
シニスは歯を噛みしめると倒れている二人を抱えながら「覚えてやがれ!」とテンプレな台詞と共に森の中に逃げて行った。
休憩しに寄っただけなのにさらにどっと疲れが貯まってしまい、改めて旅の厳しさ? を学んだシラヌイは森に帰って行った珍客を見送ると何事も無かったように再び目的地のアーグアを目指す。




