VS女神像
「今日は厄日だな……」
そう呟くとシラヌイは刀を抜刀する。
そして……
盾を前に構えながら、ツカツカと近づいてくる女神像に対し〝縮地〟による特殊な移動法で懐に一瞬で入り込み右横腹目掛けて斬りつける。
だが、高い金属音と共に刀は盾に弾かれる。同時に女神像は剣を斬りつける。シラヌイは鞘をうまく使い剣の軌道を逸らしギリギリの所で回避する。
「石像の癖に随分隙が無い動きするじゃないか」
シラヌイはそう言いながら距離を取った。
――つもりだった。
確かに十メートルは距離が取れていたはずだ。一舜瞬きの為に目を閉じ再び開けた瞬間それは目の前で既に剣を振るう動作に移っていた。
「なっ……に!?」
咄嗟の出来事に反応が遅れ刀でガードするがそのまま吹き飛ばされ柱に身体を打ち付ける。全身の痛みに耐えながらシラヌイは思考を巡らせる。
(どういう事だ? 予備動作なしにいきなり目の前に出てきた……)
しかし、ゆっくりと考える時間など相手は与えてはくれない。女神像は容赦なく何度も剣を斬り付けてくる。ギリギリの所で受け流し、耐えながらもシラヌイは思考を止めなかった。
(移動速度の割には剣を振るう速さはそこまででもないな……)
動きの矛盾を考えると共に、部屋に入ってきた時の事を思い出す。幾つもの魔法陣によって灯された明かりを……
「魔法の類か……」
瞬間移動できる魔法なんて存在するのか? そんな疑問が頭に浮かぶが今はそんなことはどうでもよかった。今はこの状況を打破する方法を考えなければ確実に殺される。
……どれだけの時間斬り合っただろうか。女神像の攻撃を防御し距離を取り、距離を詰められてを繰り返す。幾多の斬り合いで女神像の動きに目が慣れてきた頃、ようやくシラヌイが動く。
振り下ろしてきた剣を弾き返しシラヌイは息を整え刀を鞘に納め構えに集中する。感情を持たないはずの女神像が一瞬驚愕して怯んだように見えたが気のせいだろう。
一瞬の硬直の後、再び瞬間移動から剣を斬り付けて来る。構えから動かないシラヌイは、そのまま身体が腹部から横に両断される。
――が、両断されたのは残像だった。
そのまま背後に回っていたシラヌイは刀を抜く。
「――ホムラ流、〝蓮角 〟」
構えから〝縮地〟を利用し相手の攻撃を直前で避け、攻撃後の隙に居合による一撃を与えるホムラ流の技の一つだ。
その一撃はこの悪い流れを断ち切るには十分すぎる一撃だった。
想定外の一撃に反応が遅れるも身体を捻らせ回避を試みるが女神像は斬撃を受けてしまい羽を落とされ、地に膝を突いた。
「なんだ、本体は随分脆いじゃないか。てっきり何にも効かないと思っていたよ」
見下ろしながら煽るように放つシラヌイの言葉を聞いた女神像の雰囲気が変わるのが分かった。立ち上がりながらシラヌイの方へ向き直す女神像。変わらないはずのその表情はギロリと睨みつけているように見える。
女神像は不意に距離を取り剣を天に掲げる。すると背後から魔法陣が無数に展開された。
「ちょっと待ってくれ……それはさすがに反則じゃないか?」
剣をシラヌイに突きつけると同時に魔法陣からは無数の光の矢が降り注ぐ。
咄嗟にシラヌイは柱の陰に隠れる。轟音と共に柱越しに衝撃が伝わってくるのが分かるが、幸いなことに柱を貫通はしてこないらしい。しかし、最悪な状況であることには変わりない。シラヌイは再びこの状況を打破する策を考える。が、相手はそんな余裕を持たせてはくれない。
女神像は瞬間移動で距離を保ちつつシラヌイを狙える射程圏内に移動しシラヌイ目掛けて光の矢を放つ。遠距離から放たれる魔法攻撃にシラヌイは成す術無く回避に専念する。
(このままじゃこっちの体力もジリ貧だな…)
シラヌイは反撃の機会を見つける為、相手の動きに神経を集中させる。
その時、この部屋の入口だった扉の外からシラヌイは1つの気配を感知する。
不覚にもシラヌイはそちらに一瞬気を取られた。その一瞬の隙を見逃さず、女神像は右手の剣で斬りかかる。反応が遅れたシラヌイは咄嗟に鞘で防御するが中央の台座に向かって吹き飛ばされる。衝撃により台座は崩れ落ち、シラヌイは瓦礫を背に倒れ込む。
左肩に斬撃を受け鮮血が左腕を滴り落ち、意識が朦朧とする。何とか急所は外したが十分に致命傷を負ってしまった。対象が動かなくなった為か、女神像はゆっくりとカツカツという死へのカウントダウンを刻みながら近づいてくる。
(…ここまでか)
死を覚悟したシラヌイだったが朦朧とする意識の中、右脇に転がっている禍々しい刀が目に入った。何かが憑りついたかのように無意識にシラヌイはそれに手を触れる。
――頭の中に何かが語り掛ける
〝ようやく声が届いたか〟
「誰だ?」
〝時間がない。私と契約してほしい〟
シラヌイの返答を無視して声の主は続ける。
〝私の持てるだけの力を与える。代わりに救ってほしい。女神さまを……〟
思考が追い付かない。女神ってなんだ? 契約ってなんだ? そもそも今は重症で目の前に死神がこっちに向かって歩いてきてるんだが……。言ってる事の理解ができなかったが、シラヌイが出す結論は一つだった。
「……分かった……そのかわり……約束を……果たせなくても恨むなよ……」
シラヌイは途切れ途切れに発する声で答える。
〝感謝する人族の子よ。道は君の身体が教えてくれるだろう。女神の……加護があらん……事を……〟
シラヌイは刀を手に取り目の前で剣を振りかぶる女神像に最後の力を振り絞って切り上げる。咄嗟に盾で防御したが、その一撃は盾ごと女神像の左腕を斬り落とす。
しかし、一瞬怯みはしたが女神像は片腕を失いながらも再び剣を振り上げる。もはやシラヌイに力は残ってなかった。
「――〝割殺〟」
朦朧とする意識の中、縦に真っ二つに割かれた女神像の姿と共に聞き慣れた声が聞こえた。その声を聞き、安堵したシラヌイの意識はゆっくりと途切れた。




