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女神像

 シラヌイは現在奈落を彷彿とさせる穴を落下中である。おそらくそのまま下に落ちれば致命傷は免れないだろう。


 頭の中が不安と恐怖で入り乱れる中、脳をフル回転させて今の状況が打破できる案を捻り出す。が、体のほうは反射的に既に行動を起こしていた。


 シラヌイは刀を壁に突き刺し落下の速度を何とか抑えようとする。


「ぐっ! 止まれぇぇぇ!」


 多大な負荷が掛かる中、必死に腕に力を籠める。その甲斐あって落下スピードは徐々に落ちていき、ついには停止させることに成功した。


 ひとまず安堵し、シラヌイは下を確認する。下には僅かではあるが光が差し込んでいるのが分かる。


(もう少しで地面に着くか……)


 こんな所でぶら下がっていても助けは来ないだろう。そう判断したシラヌイは体制を立て直し、意を決して下っていく。



 シラヌイが降り立ったのは遺跡を彷彿とさせる石造りの通路だった。シラヌイは深呼吸し今の状況を整理する。


「身体は何とか無事。刀も……何とか使えるな。そして行ける道は……」


 シラヌイが落ちてきた穴の近くの通路は瓦礫によって埋まってしまっていた。残された道は反対側のみ。運が悪いのか天命なのか。ハァ……と溜息をつきながらシラヌイは肩を落とす。


「どうか上への帰り道に繋がっていますように」


 神の存在なんか信じている訳ではないが、それでもなんとなく両手を合わせて祈りを捧げてみる。期待などしないがこれ以上の不運だけは起こらないよう神頼みをし、シラヌイは奥へと進んでいく



 二十分は歩いただろうか。続くのは同じ景色だった。一本道をずっと歩いているが何も無い。何とも理解し難い空間にシラヌイは眉間にシワを寄せる。


 その理由の一つにここの通路には明かりが灯っている。洞窟には明かりは一切無かったのにだ。誰かが既に通ったのか? それともずっと前からこの状態なのか……


 もう一つは魔物に鉢合わせない。洞窟では少し足を進めれば魔物が襲ってきた。ただ単に生息していないのか? それとも何かを避けている?


 考えれば考えるだけ疑問は増えるがとりあえず今は生きて出る事が最重要事項だ。


 そんな事を考えているとようやく正面に何か見えてきた。


 そこには何とも不気味な両開きの扉があった。高さは五メートルはあるだろう扉には天使? と悪魔? のような彫刻が施されておりいかにも怪しいといった雰囲気を漂わせている。


「いかにもな扉だが……。行く以外に道はなさそうだしな。さて、鬼が出るか蛇が出るか……」


 そもそもこんな扉開けれるのか? と思いつつシラヌイは全力で片方の扉を押した。


 何とか人が一人通れるほどの隙間を開けることができ、シラヌイは中を覗く。そこには真っ暗な空間が広がっており、目では中の様子は視認できない。


 警戒を怠らずその中に足を一歩踏み入れた瞬間に真っ暗な空間から幾つもの魔法陣が展開し光が灯る。そうして中の全容がわかってきた。


 中は、壁や床は大理石を思わせるような石造りでできており、石柱が規則正しく並んでいる。そして部屋の中央には石造りの台座があり、さらに奥には何かの石像のようなものが見える。


 何かの気配や殺気が無いのを確認してシラヌイは警戒を怠らず中央の台座に近づいていく。近づくことでようやく台座にあるものと石像の容姿を確認できた。


 石像は羽の生えた女性のような容姿をしていた。手には剣と小型の盾を携えており戦士という印象を受ける。


 そして、シラヌイが一層興味を示したのがその前の台座に突き刺さっている刀だ。黒い刀身からは禍々しい雰囲気を漂わせている。


 その雰囲気に惹かれるように無意識にシラヌイはそれに手を伸ばす。


――その時だった


 ゾクッとした悪寒が全身を襲う。ハッとシラヌイは我に返る。


 視界にそれを捕えようしたが、腹部の激しい痛みと共に視界が乱れる。


「ぐっ! がはっ」


 シラヌイは二十メートルほど吹き飛ばされたが咄嗟に受け身を取り臨戦態勢に入る。


 さっきまで殺気すら感じなかった為、ただの置物だと油断していた。実際は今も目の前の光景が信じられずにいる。


「随分と精巧に作りじゃないか? これは……」


 シラヌイは目の前の女神像が放つ強烈な殺気に戦慄しながら溜息まじりに呟く。


「今日は厄日だな…」


 

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