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試練

 洞窟の地下に広がる広い空間。壁や床は大理石を思わせるような石造りでできており、石柱が規則正しく並んでいるその部屋でシラヌイ・ホムラは殺気を放つ目の前の脅威に戦慄していた……。




 時間は数時間遡る。


 

 空が光を取り戻し始めた頃、青年は小さな小屋で身支度をしていた。重い瞼を持ち上げ、乱れた赤い髪を整える青年シラヌイ・ホムラにとって今日は特別な日だ。


 ここジャパニ島は剣士の島と呼ばれている。ここに住む住人は性別関係なく小さい時から剣術を叩き込まれ育ち、各々が鍛錬を重ね強さを求める。故に全住民が戦える剣士である為そう呼ばれている。


 いくつかある村の1つにジャーマと呼ばれる村がある。ジャーマを取り仕切っているのがホムラ家でありシラヌイの生まれた家でもある。村一つ取り仕切るだけあり、そこそこ裕福な環境であり、剣術に至っては島の中では最強と言われている流派だ。


 無駄に大きいが故に面倒な掟やらも存在する。その一つに”二十歳の誕生日に己の実力を示すべし”があり、試練をクリアする事で初めてホムラ家の剣士として認めらる。その日が今日だ。


 しかし、シラヌイにとってその試練も掟もホムラ家にも全く興味は無い。彼はより強くなる為に世界を見て回りたかった。己の剣術が世界にどこまで通用するのか。まだ見ぬ強者、まだ見ぬ景色それらを直に体験したかった。


 今日を境に試練結果がどうであれ、この村を離れて旅をする。そういう意味での特別な日だ。


 空が完全に光を取り戻し、外も人により少し騒がしくなってきた。身支度を一通り終え、一度集合場所であるホムラ家に向おうとした時、聞き慣れた声が聞こえた。


「よぉ、準備は出来てるか? 心配で迎えに来てやったぜ」


 声の方を見ると、シラヌイと同じ赤い髪に、背中に大太刀を携えたガタイのいい男が立っていた。声の主はシラヌイの兄ヒスイ・ホムラである。


「ああ、準備はできてる。それと迎えは不要だぞ? 子供じゃあるまいし」

「まぁそう言うなって。今日の付き添いは俺がやることになったからついでだよ」


 シラヌイは近くの刀を手に取り「なるほど」と静かに納得しヒスイと共に集合場所に向かった。


 十分ほど歩き、目の前には高い塀に囲まれた大きな屋敷が姿を現しシラヌイは正門前に立っている人影を発見する。いつも見慣れた不愛想な表情で立っている男性にシラヌイは話しかける。


「待たせたね父さん」

「ヒスイも一緒か。ならば要件だけ伝える。二度は言わん」


 相も変わらずな返答にシラヌイは「やれやれ」と肩を落とす。目の前に立っているのはホムラ家の現当主カガミ・ホムラ。シラヌイ自身嫌われているのは自覚しているがあからさまな態度をとられると少し寂しくも思う。


「村の北にある洞窟に向かい、地下三階にある印を取ってこい。手段は任せる。内容はそれだけだ。ヒスイに監督をしてもらう。分からないことはヒスイに聞け。以上だ」


 淡々と説明されさっさと家に戻る父親を見届け、シラヌイ達は洞窟へ向かう。


 洞窟へ向かう道中には魔物が棲んでおり、シラヌイ達を獲物として歓迎していた。襲ってくる魔物をシラヌイは刀で鮮やかに切り伏せていく。それを何度か繰り返すうちに二人は洞窟へと到着した。


「さて、入る前に少し説明するぜ。今からお前には地下三階にある赤い宝玉を取ってきてもらうぜ。ちなみに俺が昨日置いといたからしっかり見つけてくれよ? 道中に出てくる魔物はさっきみたいに倒して進んで行け。俺は基本見てるだけだから頑張れよ」

「まぁ死なない程度に頑張るさ」

「もし死にそうになったら助けに入るから安心しろって。それにいつもと違って楽しめるかもしれないしな」


 楽しめるという言葉にシラヌイは眉間にしわを寄せ反応する。洞窟の中から少し強い気配をシラヌイは感じていた。ホムラが言っているのはおそらくそれの事だろう。とは言え、今更引き返すつもりのないシラヌイは荷物から携帯ランプを手に持ち洞窟へと入っていった。


 洞窟の通路は中々に広い。人が十人並んでも通れるだろう。だが、ランプの明かりだけしかない視野のせいで思った以上に狭苦しく感じられる。一つ救いだったのが道が一本しかないことだ。


 そんな中でも魔物は容赦なく襲ってくる。しかし、この洞窟は地下三階に出現する魔物はゴブリンしか居ない為、今のシラヌイにとってはそこまで脅威ではなかった。剣を片手に襲ってくるゴブリンを切り伏せながら進んでいく。


 目的の地下三階に到達し奥を進んでいくと奥から明かりが見え始める。警戒しつつ明かりに近づいていくと台座のようになっている岩の上に赤く光る物体が見え、同時にゴブリンより一際おおきい存在に目を見やる。


「あれは……〝ホブゴブリン〟か」


 村の近くではほとんど見ることのない存在がこんな洞窟に居ることにシラヌイは驚きを隠せない。


「どうした? 怖気づいたか?」

「少し驚いただけさ…すぐに終わらせてくるから少し待っててくれ」


 そう言ってシラヌイはホブゴブリンに近づいて行った。


 気配に気づいたホブゴブリンは雄たけびを上げ、シラヌイ目掛け突進し右手に持っている巨大な鉈を縦に振り下ろしてきた。


 さかさずシラヌイは刀を構え鉈の軌道をずらし、そのまま左足目掛け切りつける。バランスを崩し、膝を突いて下がってきた頭部を容赦なく両断した。

 

 僅か数秒の出来事である。

 

 切断面から鮮血を噴水のように噴き散らしながらホブゴブリンの体は地面に倒れ込んだ。


「流れるような動き、お見事お見事」


 そう言いながらホムラは後ろからパチパチと拍手を送っていた。

 

 鍛錬を怠ってはいない。実力もついてきたのは自負している。それでも通常なら大人四、五人でも苦戦するであろう相手を簡単に屠ったと言う事実にシラヌイの頬が少し緩む。


「……ひとまずこれで試練は終了でいいのか?」

「あぁ。後は、その宝玉持って帰るだけだ。さっさと戻って終わりにしようぜ」


 その言葉に同意したシラヌイは台座の上にある宝玉に手を伸ばした。


――その瞬間。


「――ッ! シラヌイ待て! 戻れ!」


 ホムラは咄嗟に叫ぶが遅かった。


 シラヌイの周囲にいくつかの魔法陣が浮かび上がり小規模の爆発を発生させた。その衝撃で足場が崩れ落ちる。


 シラヌイは不意に背後を向き直す。すべての光景がスローモーションに映る中、ホムラが手を伸ばしながら近づいてくるのが見えた。縋るように手を伸ばすがその思いは届かない。


「シラヌイ! シラ……ヌ……イ!」


 シラヌイは奈落へと落ちていった。徐々に聞こえなくなる自分を呼ぶ声を聴きながら……

 

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