囮作戦(本人たちは気づいてない)
——よしきさん、聞こえますか?——
——応答してください——
砂漠の下、ここは暗い坑道になっていた。
両脇にあるランプは、黒い石壁を明るく照らす。天井は屈むくらいの高さで、崩れないように木造の枠組みが作られていた。
鼻に、鉄の匂い。
「ミズノ、静かに。今、NBカルテルの基地を探している。ミーティア、早く来い!!」
「よっしきさ〜ん、太一さん達置いてきちゃったけどいいんすかね?」
「大丈夫、あいつらは囮だ」
「え? いつの間にそんな話に」
「ほら、釣りには餌が必要だろ? なんとかなるって」
よしきの顔は黒炭の色で黒くなっていた。着ている黒い装飾の服も、汚れて装飾というよりは塊という見てくれである。
後ろからかがんで追随するミーティアは、全くよごれることなく真っ赤な髪の毛を足元に引きずっていた。その代わり、足裏は真っ黒で、光沢までできている。
「ミズノ、マルコと連絡は取れたか? まだ、あいつの語り部の声は届いてないぞ」
そりゃ、屋敷ぶっ飛んだからね。
——いいえ、妨害されているのか、もしくは裏切ったのか——
「多分後者だろうな」
信頼しろや。
ミーティアは鼻をこすって初めて顔を黒く汚す。
「その、マルコさんって誰っすか? 私あったことないっすよね?」
「あんま詮索しないほうがいい。プライベートも全部覗いてんだからな」
「げぇ、変態さんっすね」
もうその話はやめようね。
さて、坑道を進んできた。ランプは所々が点滅し始めて、設置してから時間が経っているのがわかった。
この坑道は、まだ長い。足音を潜めながら、前かがみで突き進む。
「砂漠の真下にこんな坑道……どうやったんすか?」
「あれ? ミーティアは地層学とかあんまり興味なさそうなのに、きになるのか?」
「むしろ逆っすね。私の一族はジャングル住まいっすから」
「説明するにしても、この砂漠が山の上に広がっていることしか言いようがないからな」
山の上に広がった砂漠。それが、ゴールデンデザートの正体である。過去には、山に掘られたこの坑道で多様な金属やシリコンが発掘されていた。
「NBカルテルがここにあるのは、坑道の金属を掘るためだろうな」
坑道は突き進むと、やがて広い部屋に出てきた。ツルハシとハンマーが壁に立てかけられた、汗の匂いはびこる部屋。ランプは所々で点目して、土で汚れたタオルが乱雑している。
よしきとミーティアは、ようやく普通に立てるほどの天井に、背を伸ばした。
最寄りの椅子にこしかけると、机にあった酒瓶を手に取る。
「あれ? さっきのバーで酒は飲まないって言ってたっすねよ?」
「匂いは好きだ」
蓋を開けて、ウイスキーの匂いを嗅いだ。鼻を酔わす匂いに、思わず鼻を逸らす。
黒い装飾はシャンと音を立てた。
よしきの目の前に、ミーティアの赤い髪の毛。机の上に乗るほどたくさんの髪の毛は、可愛らしい赤の瞳のさらに上に続いている。
「ふふふっ、自慢っすよ?」
「知ってるよ。いつ見ても、赤毛族の髪の毛は綺麗だ」
「私が初めてじゃないっすね?」
「当たり前だ。お前よりもっと強い奴やつも知ってる」
「へ〜、私より強いって相当っすね」
「和帝の国行った時にもっと張り切ったらよかったのに、リスグランツくらいならぶっとばせただろ?」
「あれ? ぶっ飛ばしたっすよね?」
「ぶん投げたのは見た」
互いに顔を見合わせる。
よしきの顔は異世界最強というには少し子供っぽい顔だったが、多少スマートな印象の男性だ。
一方、ミーティアは完全に美人顔で、赤毛は香りと色気を掛け算の要領でさらに妖艶にしていた。ユー・ユーが気にいるのもよくわかる。
だが、二人の間に恋愛感情はない。一方は、子供を見るような大人の目で、一方は、自分の兄を見るように興味深い目だ。足の距離は遠すぎず近付きすぎず、一方は黒く汚れた足で、一方は黒い装飾。
「赤毛族っていうのはっすね、みんなほとんど特殊能力を持ってないんすよ。なんでかわかるっすか?」
「誇りに反するからんだろ?」
「違うっす、使わなくても勝てるからっすよ」
「俺の聞いてた話と違うけど、まあいいか」
よしきは酒瓶をミーティアの前に置いた。
「行くか、そろそろ」
「何を待ってたっすか?」
「太一が敵に襲われるのを待ってた」
「大丈夫っすかね?」
「……たぶん、大丈夫じゃない」
行動の休憩所を抜けて、また天井の低い通路を進む。ランプの光は点滅していて、オレンジだ。耳をすますと、声が聞こえる。
『敵機発見しました!! これから、迎撃態勢に入ります!!』
「お、おい、太一!! お前のリーダーはまだ帰ってこないのか!?」
「おいそんなことよりなんだよこのヘリコプター!! さっきから攻撃しても全部再生しやがるぞ!!」
『錬成・66ミリバルカン』
「くぅ! こりゃ……ディオグラディティの再生兵器だ」
「再生兵器、聞かなくてもなんとなくわかったぞ今」
『錬成・63連射バズーカー』
「攻撃の手を緩めるな!! 再生する前に倒すんだ!!」
「やってるだろもう!!」
『錬成・99連射誘導ミサイル』
地上では、砂も荒れていた。




