ロシナンテ&太一
砂、風に運ばれて、鼻をくすぐる。砂まみれの顔には、汗が滲み、帽子の中の髪の毛はぐしゃぐしゃだった。
カウボーイの姿、川のジャンパーに、砂にまみれた紺色のジーンズ。ダメージ加工ではない天然の穴は、白くバーコード状になっていた。
ロシナンテ、彼は赤毛族の妹を友人に預けてチームエクレツェアのもとにいた。
僕が忙しい間に、詠嘆のエクレツェアは女の子一人連れてどっかに行っていた。
「おまえら、なんでこんな場所に……」
ロシナンテは鼻をほじって、砂漠の黄色いい砂をかっぽじる。鼻水が付いているものの、気にせずジーンズになすりつけた。
目の前にいる太一は、銀色と黒、さらにメタリックな青のきらびやかな戦闘服で、苦笑っていた。
「汚いなぁ、ハンカチかなんかないのか?」
「砂漠では日常茶飯事だ。むしろ、こうしないと鼻が詰まる」
「いや、ハンカチで拭って」
「それより、なんで寂れた町に来ちまったんだよ」
周辺は、砂にまみれた小さなビル。足元も砂にまみれているコンクリートの車道だった。白い線はまだ比較的新しものの、おそらく数十年は手入れされているないと思われた。
硬い車道に細かい砂の粒、足元は滑りやすい。
目の前にある廃ビルは、下から眺めてもわかるほど人っ気がなかった。
「スミレ、っていうのか? おまえの仲間は?」
「ああ、よしきの話によると、この周辺に捕まっているらしい」
「……すまん、こんなこと言うのはあれなんだが、そのスミレってやつは」
「……いや、生きてるだろ、普通」
「普通って、おまえ」
ロシナンテは帽子を脱いで、中の汗をぬぐった。あっという間にかぶり直す。
「スミレってやつを連れてったのは、エクレツェアとはいえカルテルだぜ?」
「カルテルくらい知ってる。半分マフィアだってな」
「半分どころじゃねえよ。大元も大元、銃販売を裏で仕切ってる」
「そうか……」
ロシナンテは首をかしげた。
太一の自信には、スミレについても、生きているということに自信が湧いてくる。
だた、確証のない話だとロシナンテは思っている。
「どうしてそんなに余裕なんだよ……それとも、そんなに知り合ってないか?」
「ま、生きてなかったらよしきはここに来ない。それに、もしあいつが本当に世界最強で、このエクレツェアに重要な人物なのだとしたら、本気で喧嘩売る真似はしないはずだ」
太一は砂を蹴った。浅く黒い靴のつま先が刺さる。彼の靴は、極東で役職についていた時と同じものだった。
「そんなたいそうな靴で戦うのか?」
「今はこれしかなくてな」
「ほんと……チームなんたららは人を馬鹿にしてるぜ」
空に見える太陽は、雲に遮られることなく光を降り注いでいた。この話している数分の間にも、あたりの温度は上がっている気がする。
周辺にいた、黄土色のトカゲは、暑さのあまり石の裏に隠れてしまった。
風が吹く。
「でも、えらく悠長だな、詠嘆のエクレツェアも。赤毛族と二人でどっか行っちまってから……もう10分は経つぞ?」
「そんなことより、そのNBカルテルってのはどこにあるんだよ。だ〜れの視線も感じないぞ」
「へ〜、視線がわかるくらいには経験があるようだな」
「教えてくれ」
「はいはい、俺でも知らない。あいつらは巨大な組織の割に、常に居場所が不確かだ。ただ、この辺のどこかにいるってのは、よ〜くわかるぜ」
ロシナンテは砂と車道の上に踏ん張った。腕を組んで太一を窺っている。顎を上げて見下して見せた。
「知りたい?」
「なんでしゃくれてんだ」
「ドヤ顔っていうんだよ。見てみろ、あれ」
太一の肩を、ロシナンテが革の手袋で叩いた。周辺にあるビルの一つを指差して、その瓦礫に視線を誘導する。
トカゲが隠れていて、砂にまみれていた。
瓦礫には、丸くかけた場所が多々あった。
「瓦礫っていうのは、普通砕け散るもんだ。だけど、あの瓦礫は丸くかけてる。つまり、銃弾の後ってわけさ」
「……それはおかしい、俺も銃を使うけど、あんなに綺麗な円はできない。よっぽど比重の高い銃弾なら別だろうけど」
比重とは、物質を作る原子の数と重さの関係である。比重が高い、というのは、同じ原子の数でも重いということである。さらに、比重の重い銃弾は、日銃の軽い装甲をあっさりと突き破ることもできるのだ。
「劣化した放射能物質で、銃弾の頭を作ると、あんな感じの後ができる」
「おまっ……それって、戦闘兵器じゃないか!」
「ああ、だからだろうな。ディオグラディティって奴の会社と提携していた」
「その銃弾が主流なら、わからなくもない。ただ、その銃弾も転がっていていいはずだ」
「回収してんのさ、貴重だからよぉ」
太一はすべての疑問に納得がいった。ゴールデンデザート大学を襲撃した連中も、サーバントを一撃で沈めるほどの威力を持った銃を使っていた。おそらく、その戦闘兵器の効果だろう。
ただ、太一はその話にそわそわし始めた。口元を覆い始める。
「やばいんじゃないか? それだと、この辺は汚染されてる可能性もある」
「おせーだろ? 口から入るってもんじゃない」
「いや……でもさすがに」
「安心しろ、そんなに危険ならあいつらも使ってないぜ。ま、命中すれば話は別だろうけどな」
太一は口元から手を外す。胸をホットなで下ろしていた。
ロシナンテは高笑いして、太一を指差す。
「はっはっは! おめぇ、そんなにビビリだったのか!」
「やかましい、これでも心配性は克服したんだよ」
「じゃあ、もう気にすんな。それより、お前に一つ教えておいてやる音があるんだけどよお」
すっ、とロシナンテは腰の銃に手をかけた。スムーズな動きに、太一は反応しきれず、あっという間に銃口を突きつけられてしまった。
額にめがけた黒い穴は、眉間に刺さっている。
「な、なんのつもりだ」
「ほら、気ぃぬいちまったら、こういう風に……」
風が吹いた。
銃の引き金に手をかけて、ロシナンテは笑う。ハンマーを親指で降ろして、視線の先を太一に向けた。
また、風が吹く。
「上等だ」
太一はらしくなく好戦的で、ニッたり笑っていた。ロシナンテの顔も砂と汗にまみれて、楽しそうだ。
まるで、話さなくても意思が通じたというように。
ロシナンテは引き金を引く。
バンッ!
太一は避けた。銃口から素早く頭をそらして、自分の手を腰に。右の銃を一つ引き抜くと、体勢を崩したまま、ロシナンテの顔の横を打ち抜いた。
銃弾は飛び、頬に赤い跡がつく。
互いの後ろでは、何かの音が聞こえた。
『キキキキキキィ』
『メインカメラ、攻撃を受けました』
二人の後ろに、ロボット。人が正座をしたような身長で、四角い胴体にパイプの首。それは上下して、頭の四角いカメラを左右にも動かしていた。カクカクしたアームは、大型の砲台を装備している。
太一の後ろには、足元のキャタピラーと胴体のエンジンを打たれたロボット。ロシナンテの後ろには、文字通りメインカメラを撃ち抜かれた同じロボットがいた。
互いに火花をあげて、獰猛に唸っていた。
ロシナンテは指でカウボーイハットを押し上げる。
「なんだ? 手にガトリング砲持ってんじゃねぇか」
「完全武装だな」
太一の視線の先のロボットは、カメラの機能を止めて、ガトリング砲を持ち替えた。方向定めず乱射を始める。
太一は身構えたが、ロシナンテは動揺しない。皮ジャンパーを鳴らすように茹でを伸ばすと、もう一つの拳銃で胴体とキャタビラーの隙間を狙った。
『キキキキキキィ』
キャタピラーの隙間からオイルが漏れて、火花が散る。火が上がって、全く間に燃え上がった。
二体同時に爆発する。
爆風は弱かったものの、二人の顔をなでる程度には舞い上がった。




