え、あー、太一様に、あー、エネルギーの、あっ、20%を、あ、贈与した、と、あー、いうことに、なりますな。
● あっ、初めまして、わっ、私は、えー、この屋敷の、あー、お掃除係を務めさせていただきま、あー、す。
● フィッシュバーガー、あ、またわ、使用人型、あ、ロボットの、えー、N288180、と、あ、もうします。
● 今から、あー、え、語り部を、あっ、させて、あっ、いただきます。
● ただいま私は、あ、主人の紺色の書斎にて、あー、隣の部屋から、えー、顔だけを、あ、透過、あ、させて、え、もらっております。
● えー、ちょうど、あ、剥製の、あ、ようでござい、あ、ます。
● 見てくれが鉄のくすんだ、あ、えー、グレーでございまして
「ちょっと待つさね。バーガー、君はもう少し端的に話せないのかさね?」
● あっ、時間が、えー、いくらあっても、あ、足りないのですな。
「もういい、僕がやる。あと、壁から顔だけひょっこさせるのはやめるさね」
● あっ、失礼いたしました。
バーガーはグレー一色の長い湯呑みのような顔を、隣の部屋から通り抜けさせていた。とってのような鼻は、鉄クズを三角に固めてはっつけたようだった。
いつも通り紺色で暗がりの書斎に、ようやくふさわしい色の使用人が駆けつけた、というわけだ。
僕が茶色いデスクに膝をついていると、バーガーは鼻をひくっとさせて足を出した。
● あ、どっこい、の、しょ。
「なんで分けたんさねよ」
● あ、それが、えー、私で、あっ、ございます。
バーガーの全身が壁を通り抜けてくる。うっすい鉄のパイプで出来た腕を出し、紺色の壁などなかったように、するりと足を出す。案の定鉄パイプで、一番後ろの鉄色をした四角い腰を通した。
さらに後ろには、グレーのジャバラなポールが付いている。右手には、象の鼻のように垂れた、グレーのノズルを持っていた。先っぽのには穴とブラシが付いている。
● そんなことより、あっ、マルコ様。あ、お風呂の、あっ、お時間です。
「掃除機持ってきてお風呂ですはないだろさね」
● ですが、あ、ご主人様。あ、あなた様の体は、あ、このブラシでほじるのが一番かと。
「ばっ、バカ! それで洗うつもりだったさね!?」
● あ、もちろんで、あ、ございます。
● あー、ご主人様の、え、体からして、あっ、明確な判断かと。
「くぅ」
先ほど、ソーセキが少し買っただろうから、ここで触れておく。僕は、ディオグラディティが部屋に入ってきてから、一度もこの席を立ってはいない。これは、詠嘆のエクレツェアが来た時もそうであった。
僕には、この大きくて黒い椅子から、立ち上がっていない理由があるのさね。
バーガーは、僕の背中につながっていた、ぶっとい黒のコードを引き縫いた。青い電流が一瞬放電した。
バチィ!
「あはっん!」
● あー、マルコ様。どうか、お服を、おー、お脱ぎください。
「わかったさね」
僕は黒い紳士服の三段目のボタンに手をかける。金色の、わしの紋章が彫られた高級品だ。脇腹には、波をモチーフにした絵が描かれており、ツタのように見えるが島国を表した、とある国の正装である。
● なつかしい、で、あ、ございますね。
「言うな、バーガー」
● 太一様も、あ、お召しで、えー、ございました。
「そうさね。だから着てるさね」
バーガーはロボットの四角い顔で、多彩な表情を表す。今は、眉を軽くひそめた困り顔だ。僕が太一にこだわりすぎているのを、憂いているのだろう。そのまま、鉄の頬を鉄の指で、カチカチ、とかいて見せた。
僕はその間に服を脱ぎさる。上半身の右型の、白人らしい色白が見えた。自分でも驚くほど美白である。
袖から腕を引き抜く時、ふと、左にからだが傾いた。バーガーはそこに滑り込んで、手で支えた。
● あ、お気をつけください。
「すまんさね、まだコントロールがイマイチで」
● あ、私も、あ、初めは、あー、そうで、えー、ございました。
attention please.
(ご注目ください)
I open the master room.
(書斎への扉を開きます)
「よくもあんな異世界に放り込んでくれたねぇ! マルコァア!!」
誰かが駆け抜けてくる振動とともに、足音が書斎の前にたどり着いた。扉を蹴っ飛ばして、ディオの黒と銀のスーツ姿が現れる。
飛ばされた扉は勢いを無くさず、僕へと突っ込んできた。装飾のある茶色い扉の片方は、スライスするように回転して、僕の首元に突っ込んできた。
● あ、危ないで、あ、ございます。
バーガーのグレーの手が僕の目の前に入り込んで、茶色い扉を受け止める。冷たい鉄の匂いが鼻をかすめる。ロボットの握力は、握った部分を半壊させるに相当した。
衝撃でデスクが揺れ、脱いでいた黒い服が床に落ちる。白い上半身は、薄いシャツを半分はだけさせた状態であらわになる。
ディオは驚いて両手で僕の姿を遮る。
バーガーはその顔めがけて扉を投げ返した。命中すると同時に、指をパチンと鳴らして、扉を木っ端微塵に破裂させる。
「いててて……マルコ、君どうしたんだい、その体は?」
● あー、これは、あ、最新型の、あ、メカボディで、あ、ございます。
「俺は人間をやめたぞ、ディオ」
「ちょっと待て、それは見たらわかるんだよ。なんでそうなったかって聞いているんだ」
見て驚くはずである。僕の肌は白い、だが、関節には反対に黒い溝があり、接続部らしき部品も垣間見得ている。型を動かすだけで、きしし、と正常に機能している。
特にこの色の浅い乳首。指先はできるだけ精巧に使ったのだが、今僕の元にある技術では、僕の色を再現するのはちょっと手間がかかった。
「まてまて! それって、まさか、君はロボットだってことかい?」
「まあ、半分はそうさねね」
● 数値でいうならば、約73%でございます。
バーガーは、手元の掃除機を使って、部屋の扉の欠片を吸い取り始めた。ギュイーン、と風を吸う音がする。床にへばりつくバーガーが少し面白い。
「そんなことになっているなら、もっと早く言ってくれれば、僕が作ったのに!!」
● あ、足元を、おっ、あ、失礼いたします。
「君の商品はいちいち高いのさね。この前なんか、その掃除機が7万円も……」
「やかましいわ。親友料金にしてあげるのに」
ごつん、ごつん。
● あ、申し訳、あ、ありません。おー、隣の、あっ、部屋に、あっ、掃除機の本体を、あ、置いて、あっ、きてしまいました。
「ちょちょちょ! そんなに強く引っ張ったら壊れるだろ!!」
「もっと丈夫に作るさね」
「性能は一番なんだよ!」
● あっ、使いにくい。じゃ、間違い、あ、ました。
● こちらは、あっ、お気になさらずに。
「一番聞き逃せないんだよその言葉」
ディオが葉をギリギリと噛み合わせていた。感情をあらわにする彼は珍しい。異世界に飛ばして戦わせたあとだからであろう。
それに、ここまで2回もたどり着くのは、結構大変なはずである。
「はっはっは。そういえば、君の会社のマッサージ機を買ったけど、あれすっごくデザインダサいさねね」
「は!? そんなわけないだろ、当てつけか!?」
● あ、冷蔵庫も、えー、性能がいい割には、あっ、ダサかったですな。
「でも性能はいいだろ!?」
「それに、君のスーツもダサいさね、今更だけど」
「はぁあ!? でも性能はいいだろうがよぉお!!」
● あっ、性能だけで、あっ、ございますな。
ディオが今回で初めて顔を歪めて怒った。足元を踏みならし、僕の顔に食らいつきそうなほど、剣幕はするどい。
左手につけていた、戦艦のような手袋を前に出す。
「そういえば、『そういうやつ』つけてたさねね」
「重力制御装置、リミッター解除」
紫の玉が手袋の上に浮かび上がる。
宝石のように光るのは、エネルギーが重鎮されているその様子だった。ほのかに光って、書斎の色は彩る。
「60倍ブラックホール(テラグラビトン)」
「このバカ……人に言われて嫌なことは人に言わないのが、『身のため』さね」
「言いたくなくていってんじゃないだろ、『君のためを思ったんだ』」
「思ったなら、見逃して欲しいさね〜」
「ふっ、半分ロボットなんだろ? ちょうどよかった、すぐ直せるよ。叩きのめしてやるさ」
「またダサくするつもりさね?」
「この〜、減らず口はこいつかあああ!」
● ちょっと、あっ、その前に、あー、失礼いたします。
バーガーが紫の玉に掃除機のノズルをあてがった。
ズゴゴゴゴゴ……
「ちょ、ありえないよ! 僕のブラックホールが掃除に!?」
紫の玉はみるみる小さくなり、じゅぼっとくすぶった火すら消えていった。書斎は落ち着いた紺色にもどる。
● あー、私の、あ、掃除機には。あー、あなた様の、あ、ブラックホールと、あ、同じ技術を使っております。
「は!? そんな掃除機あってたまるか!!」
「ぷぷぷ〜、お前の必殺技と同じ技術があの掃除機に使われてるのか」
「言わなくていいよ、いちいち!!」
ディオの目に涙が浮かび始めた。彼も優秀な起業家ではあるも、一方で良きいじられキャラでもあるのだ。少なくとも、僕たちの間ではそうである。
彼の金髪を見てみた。汗と砂ホコリにまみれていて、くたっとしている。異世界で暴れすぎたのだろう。
ちと、僕も反省した。
● ディオ様、あ、これを。
「ありがと」
バーガーは自分の四角い鉄の腰から、中を探るように、ピンクのハンカチを取り出した。
ディオはそれで額を吹くと、茶色くなったので、手元で折りたたむ。
「洗って返すよ」
● あ、心配には、あ、およびませぬ。
バーガーはそのハンカチで思いっきり鼻をかんだ。洗剤がべっとり付いて、腰の中にしまいこむ。
「で? なんで君は機械の姿になっているのさ? 場合によっちゃ、エクレツェアの闇とかそういう話にはならなくなってくるよ?」
ああ、その話なのだ。
いずれは、言わねばならぬと思っていた。
僕の白いこのボディは、充電が必要で、今はまだ外に繰り出せるほど充電は溜まってないということ。風呂を入るということは、掃除機ですすを払い飛ばすということ。
今、太一の使っている体が誰のものなのかということを。別に、僕の殻を太一が使っているといわけではない。もっとややこしい展開である。
「ディオ、君の会議には間に合わないだろうけど、ちょっと時間いいかい? 話したいことがあるんだ」
「奇遇だね。僕も、最強のヘッドシューター、ワイズについて話したかったんだよ」
● はて? あ、何か、情報を?
「君たち、結構すごいことしたんだってね? ワイズの恋人、ジェーン。ゴールデンデザート砂漠は元々緑豊かで、とっても過ごし易い気候だったんだよ?」
なるほど、ワイズたちが動いたのは、恋人についてか。
「100年前の事件は誰がやったか知らないけど、あのゴールデンデザートを作った原因は知っているんだよ」
確かに、あの辺は昔ジャングルだった。赤毛族がたった一人で森の動物たちを守った、あの時代。世界はまだ、幼かったのだ。
「災害、この能力についてね」
赤毛族のミーティアでもあんな毛強いんだぞ、まったく。たとえ、僕の充電がマックスになったとしても、そんな能力者と手合わせするのは避けたいさねね。
とはいえ、世界がようやく回り始めた。そんな気はするのだった。
ゴギャん!!
「あれ? 今の音なに?」
「バーガー、壁の向こうで何か壊れたさね」
● あー、え、そのー。
● どうやら、ブラックホールを、あ、吸い込みきれなかったようですな。
……えっ?
● あ、誠に、あー、え、申し訳、あ、なく思いまする。




