語り部・千の異世界(サウザンドワールド)中編
「ゲーム?」
「さね、異世界からの脱出。いいかんじのゲームだと自分でも思う」
「君は友達をなんだと思ってるんだい?」
「大丈夫、僕はゲームを作るのがうまいんだ。人を傷つけるようなゲームは作らない主義さね」
「そういう意味じゃない!!」
客人の体周りから青い障壁は放電していった。平原を少し焼きながら、胸元の赤い宝石に収まる。『ほーりーばずーか』も、客人の黒いスーツと手に戻る。
主人は、椅子にもたれながら会話を続けた。
「君はさね、株主総会で『エクレツェアの闇』について話すつもりだろ?」
「そうだよ、なんか問題あるかい?」
「おおありだ。エクレツェアの闇は、僕と詠嘆に一任してもらうさね」
「それができてないからここにいるんだろ!?」
「まあ、ともあれ株主総会でバラすのはまだやめてもらいたい」
そういえば、主人は、ゲームを制作する趣味がある。中学生の時、脱出ゲームに精を出したそうだ。元は、脱出するプレイヤー側だったそうだが、いつしかは作る側になっていたとか。
「脱出の方法は簡単。僕をこの椅子から立たせるか、この異世界のどこかの扉を開けるか、さね」
「な、なんだ。いいのかい? そんなに簡単な方法で? 僕強いよ?」
「なにも、逃げないとは言ってないだろさね」
主人は指を一本立てた。少し揺らして、客人の困った顔を伺う。
「1分だ。それまでに僕を立たせるかぶっとばすかしないと、僕はこの異世界から帰る。そして、それのみが、君の総会に間に合うための方法さね」
「つまり、もう一つの方法は時間がかかるということかい?」
「ああ、そう捉えてもらってかまわない。なに、難しいものではない。道中にテーマパークがあるから、ちょっと困る程度さね」
「てーまぱーく?」
主人は真剣であると見せかけてふざけていることが多い。
客人と主人の間に、ひゅるり、と風が吹いた。平原の文違草がさっと揺れる。太陽は二人を未だに照らしていた。
「さあ、ゲームスタートだ。さね。いつでも来い」
主人は、椅子にもたれた背中を、さらに後ろに押し込んだ。ほとんどの体重を背中で受けて、お尻を楽にしている。黒い紳士服は、くつろいでいる人間が着るように作られておらず、『またこいつこんなことしてる』とでも言いたげだ。
だが、そんな人間を相手に、身体中から兵器を生み出す客人は棒立ちをしていた。
主人が椅子で揺れながら客人を見やるが、全く攻撃の様子がない。
それどころか、目は攻めあぐねていた
「ちぃ、攻めあぐねてる」
主人は全く、椅子から動く様子はない。客人はその余裕な顔を見て、思いっきり舌打ちをした。怪訝そうな顔を崩さぬまま腰を落として、手を構える。
ならば、さっさと攻撃すればいいというのだが、そうではない。
「適当に攻撃したら、どんな反撃が用意されているのか、しれたものじゃない。さっきから攻撃してこないのは、きっとそのためだ」
客人は我輩の生みの親だそうだが、そこまで台詞で説明されると、少しばかり仕事を取られた気分になる。
「さて、ソーセキ。そろそろ、太一たちの語り部に戻りたいさね。この場所の語りはお前に任せたぞ」
了解しました。
主人は、猫づかいの荒い人間だ。その上、客人を放っておくなどという失礼な人間である。黒い紳士服とは、そのような人間の着るものなのかと、懐で眉をひそめて考えていたところである。
客人が、また辺りを見渡す。そこにあるのは平原の地平線だ。
「考えていても仕方ないな。悪く思わないでくれよ!!」
客人は腰をかがめたまま、両腕を前に。主人の体に向けた。黒いスーツ難いようで光る。
「錬成・情報電気光線」
ピカっ!
客人の指先が光かがいた。10本の指全てが輝いたようで、周辺を覆い隠した。平原は光で覆われ、上から見れば太陽の下に太陽があるかのようだ。
我輩のカメラはそれくらいではなんともない。閃光弾程度なら透かして見る音も可能だ。要するに、客人は今つぎの行動をとっていた。
「錬成・カブトムシ型カメラ(ビートルカメラ)」
閃光の間を縫うように飛び去るカブトムシ。全て機会の体で、先端部分に小さなカメラが付いていた。それが数体飛び立って、書斎だった時の四隅付近に漂う。
すると、カブトムシが器用に鳴いた。
『スタンバイおーけ』
『データを採集します』
『異世界番号検索中』
『敵をロックオンしました』
なるほど、我輩は驚いた。
どうやらこのカブトムシたち、カメラだけではない優れものだ。平原の上に漂うだけでも、カブトムシとは思えない。
先ほど放たれた閃光は、データのようだった。異世界の物質に発射して、その跳ね返りを、カブトムシが検索。そして結果を出すのだ。
見たとろこ、採集して、この異世界の約半分の調査を完了したようだった。
「さて、太一は今何をしているのか? なるほど、いいかんじだ。すみれちゃんを助けに入ってるね」
主人は見て見ぬ振りだ。敵が確実に攻め方を決めている最中だというのに、黒い紳士服で椅子にふんぞり返り続けていた。
『びび! 異世界の性質、解析完了!』
『人間がクラスには適した世界です!!』
『危機的要素はありません!』
『攻撃可能と思われます!!』
「なんだって? マルコはそんな世界に僕を転送したのか? それはちょっと舐めすぎじゃないかい?」
客人の予想は外れたようだ。主人が用意した異世界はなんの変哲もない平原の異世界。ただ風車が回る異世界だ。
「どうなっている? マルコ、てっきり僕は君がそこらじゅうに語り符を用意してると思っていたんだけどね」
語り符。やはり、客人の警戒はそこだった。
主人が強い理由の一つである。先ほど、主人が砲撃を受けて書斎ごとすべて無傷だったのは、主人が『綺麗な書斎で暴れないでくれ』と言ったからである。
しかし、それは主人が語り部だったからであり、語り符とは違う。
語り符それは、すでに語っておいた語りである。
例を挙げると。先ほど、攻撃が青い滝を通り過ぎりように通過させたのがこれだ。すでに、『攻撃が青い滝を通り抜けたように通り過ぎる』と語っておいたのだろう。それを語り符と呼ぶ。
主人は、前もって対策ができるのだ。
そんな主人は、我輩を除いて語り部を始めている。
「太一は、よしきに連れられて、スミレを探しに来ていた。
というのも、バーテンダーの00(ダブルオー)からスミレをさらわれていたことを知ったからだ。
ミーティアも、走って追いかけていたが、実は遠慮して追い抜かないようにしていたことは秘密である。
三人は、コペッチ村周辺のゴールデン砂漠を抜けて、隣町までやってきていた。道中の日差しを避けるように、太一はジェット機で飛ばし、ミーティアは強靭な脚力で飛んだ。よしきに至っては瞬間移動でスキップしていた。
砂漠の先にあった目的地が、ここ。バレットカルテルの古いビルである。古いとは言っても、かなりの高層ビルだ。砂にまみれた鉄筋コンクリートは、全く倒れることなどない様子である。窓ガラス人一つに見事なまで砂つぶがへばりつき、埃っぽいたらありゃしなかった」
いつもどおり順調である。
「きみぃ、本当に馬鹿にしてるね、人を」
それは主人の専売特許だ。
と、いう間にも。客人は攻撃の準備を進めた。左腕を内側にたたみ込み、右腕をまっすぐ伸ばす。黒と銀のスーツの指先から光沢が見て取れた。
「錬成・魔法使い(ソーサリー)・機関銃」
客人の背中が輝く。銀の縦縞模様もかすかに脈動していた。エネルギーを伝播して、体に静電気のような電流を施し、周囲へと小さな機銃を解き放つ。
機銃は小さめの宝石箱程度の大きさ。迷彩色の完全に軍事用兵器。それが5機、ふわふわ漂いながら、主人の眉間、膝、肩、肘、胸に狙いを定める。
黒の紳士服はそれでも怯むことないまま煙に覆われ、灰色の景色に消える。語り部を進めた。
「何言ってるさね。僕が、この件に関与ているなんて、おっかしなはなしだ」
あと、50秒。
「連続発射」
客人が、ぱちん、と指を鳴らした。
機銃はふわふわ漂いながら、烈火のごとく火花をあげる。煙が立ち込め、火力に比例して大きくなる音は、耳をつんざいていた。火薬の匂いがかなをかすめた時、和賀杯はやはりみゃあとなくのだ。
しかし、主人には効かない。
「作戦の決定。スミレの現在地を確認して、三人は詠嘆のエクレツェアが立てた計画を理解した。
ミーティアは優しげに微笑む。
太一は彼女の笑顔ににが笑った。これからの激戦を笑ってみせるのは彼女くらいだ。
古びるの周囲には、戦闘ヘリ。一機。しかし、ディオグラディティの会社が作った、おはこの再生兵器である。
そうだろ? ディオ」
主人が客人をジロリと睨む。煙の中から、無傷の姿を現した。
辺りの平原はめくれた、風には火薬の匂い、空の太陽は相変わらず輝く。デスクは整理整頓されており、主人は土埃一つついておらず、我輩は相変わらずみゃあとなく。
主人にはやはり効かない。
「攻めあぐねているさね。ディオ」
「何を言うんだい。僕結構本気で戦ってたよ?」
「さっき当たらなかった攻撃と何が違ったさね」
「バルカンはふわふわしてたじゃないか」
「それくらいのこと、僕は世間から常にふわふわした扱いを受けているさね」
「急に面白いこと言わないでもらえるかな」
主人は慎ましいことこの上ない。
しかしながら、主人の攻めあぐねているも理解できる。なぜなら、客人は先ほど平原を足でめくったあとから、全くその場を動いていないのだ。
戦闘となれば、自在に滑空したり、走り回ったり。先ほどの防犯きゃめら映像を見えれば、一目瞭然となる。それを客人は躊躇している。異世界に来てからずっとだ。
「動かない縛り、じゃないさね?」
「ばれてた?」
「僕は、語り符をばらまいた世界に僕より弱い人間を招待するほど、弱くないさね」
「言い過ぎだよ」
「証明してみせるさね」
客人は、うん、と頷いた。
「いいよ、全力で行くからね」
「望むところさね」
客人は、この異世界で一歩踏み出した時、けい介して一歩しか踏み出さなかった。その一歩は、戦闘に最低限必要な自分の守備範囲だ。自由に動けるハニを模索していた。
今、甲虫の能力で、異世界の半分を解析した。主人がこの異世界を去るまで、あと30秒。
攻めあぐねている場合ではない。
「本気、だね。次の攻撃が」
客人はつぶやくと、右手を左肩において支えてみせた。足を前後させ、縦に踏ん張る。力が前後にかかるということだ。
左手をまっすぐ伸ばし、手のひらを主人に向けた。
「錬成・重力装置」
黒に銀の縦縞模様のスーツが、紫のオーラに包まれた。煙のようなそのオーラがオーラであると言い切れるのは、ゆらめいているようにしているが風になびいていないからである。
風上に流れる不自然な動きで、紫のオーラは客人の左手に新たな武器を錬成し始めた。
紫に光る珍しい電気が伝播する。
じゅ、重力の変化を肌で感じる。我輩の、しすてむとやらに影響を及ぼさなければ良いのだが。
あああ、案の定。我輩のきかいおんせいしすてむががが。
客人は、我輩が気づくと。手に、すでに、大きな、グレーのきかいを手にしていた。ぐろーぶ、手袋とも言うだろう。ただ、兵器的なそれは、防寒着などではない。
まるで、小さな戦艦が、手に圧縮されたようだ。
ATTENTION PLEASE(注目してください)
BE CAREFUL(注意してください)
PLEAES BEWAER(刮目してください)
また、アイリスの英語が空から聞こえる。
We observed changes in gravity. Alert attitude.(重力の変化を観測しました。警戒態勢を)
なるほど、それで我輩の……かかか語り部もすこここしずれれれているのだろうかかかか。
仕方があるまい。しかしまあ、これで書斎の屋敷が実は吹き飛んでいないことがばれてしまったなあ。アイリスは、屋敷の専属兵器管理者だ。彼女の声は、屋敷の中か、主人の鼓膜にしか聞こえてない。
「やっぱり、そう簡単に別荘を手放さないよね。マルコ」
「演出さね。ヤラセではない」
「君、本当に楽しいね」
「それは褒め言葉だ」
主人の口調が、いつもより少しゆっくりに感じた。
「魅惑の重力粒子」




