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闇を背負う者、破壊を有す  作者: 松佐
外伝,冒険者ミウ
33/37

冒険者はとりあえず助かった

「堅牢なる氷棺、永久凍土」


あわやミウを覆い包まんとした暴力が止まる。否、氷結する。氷に属する上級魔法。膨大な魔力を糧としたそれはミウの全力を上回った暴威を容易く瞬時に押さえ込む。そんな中、秒速で移り変わる目の前の光景に呆然とし、何も行動に移せずに居た生徒達も漸く繰り広げられた高等魔法技能を認識すると同時に発生した事象の危険さに今更ながら気付き、身震いする。決死の思いで魔法を展開し敗れたミウ。彼女も身震いしていた。生を実感したからではなく、単に永久凍土の漂わせる冷気に当てられてだが。


眼前で氷結した暴威に安心するでもなく、また呆然とするでもなく、今際の際に聞こえ、そして自らを救った声と背後から回された腕の温もりに彼の存在を意識した。寒さから来る震えを余所に紅潮し困惑し同時に満喫する。勿論、今のシチュエーションを、だ。死ぬ直前だったくせに、重症だ。認識したのはついさっきなのに・・と自分に呆れてもいた。再度、現状を認識し直し紅潮から沸騰に形容が変更されたのは、まあ御約束なのかもしれないが。彼の登場であっさり、解決してしまったなぁと後に息つく彼女だった。無論、彼の方はそうでもなかったけれども。


救出には無事成功したが、もしもを想像すると凶悪な感情が溢れ出てきて、事の原因を根絶するために何をしていたか、正直解らなかった。今までは自分を、自分の感情を、制し冷静に生きて来た。しかし彼女に出会って、彼女の事に関してはそれが段々と時を共にする毎に制御が覚束なくなって来た。激情は時と場合によっては悪いものではないが、全体的に見て状況を引っ掻き回す厄介なもの。それ故に自己を律してきた。特に強大な力を宿した彼は殊更意識して、そうあるように生きてきたのだ。既に長年の習慣とも言える。だというのに、彼女という存在は習慣すらも掻き乱し突き崩す。


彼女は様々な面から見ても稀有な存在と言えるだけの実力や才を持ち合わせている。それは誰にでも解る純然たる事実だが、そんな客観を踏まえなくとも彼の主観において彼女は何よりも稀有な存在で大切な人だった。それが失われる事は許されない。溺れて行くような感覚にどうしようもなく囚われてどうしようもなく欲してしまう。律してきたはずの激情を喚起されてノイルの枷は外れ気味。証は相手の許可なしに抱きすくめている点だ。男が狼というのならノイルはさながら血統書付きの礼儀正しい賢狼であり失礼や一般的に好ましくないとされる言動を彼が取ることはまずなかったのだ。


また、ミウも浮ついた話のない高嶺の花として人気を博していた現在進行形の美人である。高位貴族の生まれからか純粋培養な一面もあり、とても初心。普段、抱き付こうとするものあれば問答無用で鉄拳制裁を下すほどの徹底振り。そんな彼女が許しているのだ。想い人とはいえ、納得し難いと親しい者達は語るだろう。少なくとも、この日からミウのノイルに対する感情は大きく変動を見せ始める事になる。


ちなみに今回の騒動の原因となった教員は反論の機会も与えられる処分された。





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