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闇を背負う者、破壊を有す  作者: 松佐
外伝,冒険者ミウ
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冒険者は今際の際に気付く

その場にいた大半の者がたたらを踏む。衝撃を伴い襲ってきたそれは轟音、爆発する際に発生した空気の振動だった。音速で通過した後に追随するは常軌を逸した爆発の奔流。爆発が生させた張本人は目の前の情報処理能力を超えているのか、自分の常識を超えているためか呆然として彫像の如く固まっていた。心底、羨ましい。現在進行形で死の予感に苛まれながら、未だ短期間とはいえ教鞭を振るい日々を過ごしてきた生徒を一人でも生かしたい一心で爆発を発生源に留めようと四方八方から光衝撃をミウは放つ。


普段の数倍の魔力を注ぎ込んで発動した光衝撃でさえ数瞬の停滞しか生み出せず、しかし発動を継続する。数瞬を積み重ね、ミウは小さく速く詠唱していた。光と火の結界魔法、その二重発動。ミウの保有する膨大な魔力を根こそぎ消費し、ただでさえ高等とされる結界魔法の上級をそれも二重詠唱及び二重発動する。最高レベルの魔力操作能力に卓越した魔力保有量、実戦にて幾度となく魔法を使い積み重ねてきた長年の経験があって、さらに天賦の才能を持つ者のみが成せるであろう人の域を超えた神業だ。それも展開地点は自身から数十メートル離れた位置、魔法や魔力は使用者からの距離が遠いと操作性を欠く。


それでも尚、ミウはやった。立方体状に展開された結界が未だに恐ろしいエネルギーを周囲へ拡散させんとして膨張する暴威を閉じ込める。ほんの数秒間のうちに起こった出来事、しかしミウは目に見えて疲労し額から頬を伝い一筋、汗が落ちる。緊張の糸が途切れ結界が綻びでもすれば、この場に居る人間どころか近隣にある集落までも巻き添えとして木々の一本も残らない焦土と化すだろう。異世界に存在する核兵器をも凌駕する威力をミウは一人で押さえ込む。急速に失われる魔力、急激に膨張し結界を破らんとする暴威。せめてもと光衝撃で生徒達を吹き飛ばし少しでも遠ざける。結界の展開を終えてから、数秒、数十秒、幾ら時間が過ぎたのかミウは解らない。自身の限界が近い中で爆発の暴威はまだ元気に膨張しているのだ。


「とんだ問題児ね、新米教師の私じゃ太刀打ちできないわ」


ミウの正面、立方体の一面の結界が罅が入る。それらは蜘蛛の巣状に広がり決壊し、さながら灼熱の光線の如くミウを目指して突き進む。直進するそれの経路上にはミウ以外誰も居ない。そのための光衝撃だった。目が眩むほどの光量、ふざけているとしか思えない熱量、迫るそれらを前にミウは笑う。笑って哂って嗤って自嘲う。


「私の行き着いた末路(けっか)がこれか」


自分という生命の、終着点。呆気ないな、最後に寂しげに彼女は微笑む。普段なら逃げ遂せたのだが、短時間に魔力を大量消費したツケがミウの身体から俊敏さをすっかり奪い去ってしまった。死の閃光が彼女を覆い隠す。


**********************************

事の発端はミウの就任から一ヶ月と少したった頃だった。毎年恒例の第一学年の生徒全員で行く学外実習。実習先は反転の湖の近辺。反転の湖は元は太古の戦場で、大戦の爪痕である巨大なクレーターがあるだけの場所であったが、ある時から珍しい効能を持った水が湧き出るようになり、何時の間にか湖と呼ばれる規模にまでなった、そういう経緯で誕生した湖。その湖の水の効能は害獣など人類を除いた生物にのみ有効で、効果はその生物の持つ属性の反転。簡単な例を挙げると火の精霊が湖の水を浴び、水の精霊になったというものがある。実際に確認もされている。


反転の湖近辺には第六級、第五級程度の害獣しか棲息しておらず、日頃の成果を実践するにも手頃な場所だ。何より出現する害獣は全て教員が単独で討伐できるものであるため、もしもの時の補助も心配いらない。そう、近辺なら何も心配する必要はなかった。しかし今回の実習の件で会議が開かれ、計画が決定されていく過程で反転の湖にも行かないか、という案が挙がる。出所は貴族出身の教員達。彼らはある程度なら剣も教えられ、魔法も中級と上級を幾つか発動出来る一般的に見て優秀な者達だったが、実戦経験が皆無に等しい。学園の教員資格には第五級以上の害獣討伐経験が必要なため、一度もないわけではないが、元冒険者や傭兵からの叩き上げである教員と比べれば、実力には彼我の差が在る。また害獣の生態についても図鑑に記載された事以外知らぬ貴族出身の者達と違い図鑑に載っていない事も知っている。


そうした経験を踏まえ、他の時節ならともかく今の反転の湖に行ってはならないと口を揃えて反論した。当然、ミウも中に含まれる。理由はアイスフロッグという害獣の存在があるからだ。彼の害獣は元々、ボンバーフロッグという火山地帯に棲息する物達で第四級に指定されていた。火山帯に棲むが故に高温の皮膚を纏い火山弾さながらの火炎球を放つ事で知られていた。ただ弱点属性の水の魔法で攻めれば簡単に倒せてしまうので、特に注目されていたわけではない。そんな害獣が世間の注目を集めたのは当時、名のある冒険者パーティーが火山帯に棲息し人里を襲うという火炎竜の討伐に赴き、消息を絶った事に起因する。


直ぐに捜索隊が結成され、火山帯に踏み入った。しかし、そこに火山帯はなかった。正確には半分が消し飛び、その跡地で溶解した冒険者パーティーの装備と焼け焦げた火炎竜の死骸が見つかった。通常では考えられない現象だった。パーティーの装備は並外れた火属性に対する耐性を誇る逸品、対する火炎竜も身に纏う鱗により炎ダメージを99%カットするとまで言われていた。それが片や溶解、片や焼死だ。原因は直ぐに判明した。偶然、現れた産卵期のボンバーフロッグを倒し捜索隊の半数を死に追いやる結果を残して。結論を言えば、ボンバーフロッグの卵は悪意ある外的要因(親が倒されるなどして)外気に触れたとき爆発する。威力は一つで中級の火属性魔法に匹敵する事が解ったが、それでは火炎竜や冒険者パーティーの件が説明できない。研究者達は首を傾げたが実際に経験した捜索隊の生き残り達は簡潔にこう見解を下した。威力は相乗する、と。それ以降、何度か爆発での死亡例が挙がり生き残り達の見解が正しいとされたが正式な公表がないまま、埋もれていった事実だ。


冒険者の間では暗黙の了解として産卵期のボンバーフロッグに手を出さない、というものが出来ている。アイスフロッグとは反転の湖の効能で属性が反転したボンバーフロッグである。火山帯から移動してきた経緯は誰も知らないが、そういうことなのだ。そして属性が反転しても尚、ボンバーフロッグの名残で卵は爆発の性質を持つ。湖で産卵する事で性質は死ぬのだが、卵を腹の中に留めておく期間が長く今はその期間の真っ只中。下手をして爆発が起これば、過去の惨劇の再現となる。湖の近辺には村も多く自然豊かな森があるエルフ達の住処でもある。それらは全て灰も残さず消え去ってしまうだろう。その危険性は強く語られた。しかし、会議の取りまとめは王からの依頼で学園を留守にしている学園長代理の教頭(ミウに雑用を命令していた張本人)だった。彼は選民思考の強い貴族で平民を下賤と罵り生徒達からの好感がすこぶる悪く自己中心的で凡そ教師に向かない人物。そんな人物が公正な判断を下すわけもなく貴族出身の教員達を優先し反転の湖行きが決定した。その結果が冒頭である。今回の件で教員資格は剥奪され、汚職に塗れていた実家も取り潰しになり一族郎党全てが処刑されるが、それは別の話。

**********************************


今際の際に見て感じてきた場面が思い起こされる、俗に言う走馬灯ってこれね、と。何故か、加速しか思考の中でミウは場違いな感想を漏らす。弟と義妹の姿、教えた生徒達、そしてノイル。浮かんでは消え浮かんでは消え、最後はノイルしか浮かんでこなくなった。雑用を手伝ってもらった事、名前を呼ばれた事、一緒にお昼を食べて過ごした事、校内の案内をしてくれた事、雑用の作業中に崩れた資材から庇ってくれた事、数は冒険や家族との思い出よりも圧倒的に少ないのに過ごした時間は濃密で記憶に深く深く刻まれるほどに鮮烈で印象深い・・否、ただ重要で大切な時間。暖かな安らかな時間。


「そうか、私、何時の間にか好きになって・・」


途端に戻る早さ、紡がれる言葉も呑み込んで濁流のように押し寄せる灼熱。

ミウの全力を持ってしても折れなかった凶暴なる牙が彼女に喰らいつく。

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