↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇を背負う者、破壊を有す  作者: 松佐
外伝,冒険者ミウ
29/37

冒険者、遭遇する

光衝撃(レイ・インパクト)


秒速三十万kmで直進する本来、質量を持たない光が質量体となって標的を打撃する。魔法による現象ゆえに光速で突き進むわけではないが、避けるのは至難の技と言える程度には速く鋭い。若干、地形を変形させながら対象へと殺到したそれは絶対的威力を持って身体を圧壊させる。四肢が折れ曲がり、背骨が砕けた。変死体と化した魔法攻撃の対象は一般にオーガと呼ばれる大鬼の害獣であり、今しがた完了したがミウが請け負った討伐依頼の対象。危険度指標では第五級にカテゴリーされ、これを単独討伐できればいわゆる中堅の上位クラスに仲間入りだ。


第五級ながら第四級に引けを取らない強靭な肉体と剛力を持つが、如何せん知能で劣る。害獣と言えど第四級はそれなりの知能を有し肉体の素体能力に頼るばかりの力技だけでなく拙いながらも器用さを見せる。それは武術でいう型や技と呼称される類のもの。直感ではなく思考による罠の回避も遣って退ける。その点、オーガは理性に本能が勝るタイプだ。それが成長し第四級に格上げされたのが上位種であるハイオーガ。筋力、知能が格段に上がり第四級上位の危険度を有する。


それらも我が弟相手なら形無しか、と後衛向きでありながらオーガに接近戦で勝利できることを棚に上げ、ミウは溜息をつき思い出す。それは先日の事。近頃、害獣が徒党を成して人類の居住区に押し寄せる自体が多発している。これは害獣の繁殖期に起こる現象で過去に例もあるため、混乱は少ないが被害も出ており、先日ついにエクシリアも被害に遭った。正確には遭いかけた。冒険者は軒並み招集され、迎撃に出動。これは義務のようなもので異議の申し立てはなかった。ミウも参加し一般の中ではトップクラスの討伐数で褒賞も相当貰ったが圧巻だったのがフィル。


さすがに地力で勝ろうと数がものを言う状況で冒険者は後退を始めていた。否、せざるを得なかった。着実に押し込まれていたのだ。そこに登場したのが今回の迎撃を要請した国の王本人。言わずと知れた闇属性の使い手で破壊を司る世界最強の男。容姿は若干女よりだが、柔らかな凛々しさが雰囲気に加わり尚一層美丈夫だった。そんな彼が腕を一閃。軌跡をなぞる様に湧き出した闇の斬撃が害獣の群れを半分ほどまで食い破り、勢いを取り戻した冒険者が反撃。エクシリアの近衛騎士団が加勢し害獣は駆逐された。ミウとて、弟の実力は正当に把握し世界最強の名に相応しいと認めていたが大規模魔法を展開中に水を差された結果になり、少し不完全燃焼気味で今回の害獣討伐は気分転換だ。尤も、それで狩られる害獣も堪ったものではないだろう。


被害を出した事実がある以上、人間的な視点なら正当性はミウにある。対して害獣からすれば、村を襲い略奪を行うのが日常であり自然の摂理。人間は様々な種族といがみ合い、最終的には絆を結んできたが未来永劫害獣とは戦い向き合う運命にあるのかもしれない。双方に妥協点などないのだ。人間を襲うな、それは無理だ。本能に刻まれた根源故に害獣は人を襲うように出来ている。最初から、そういうものとして生まれてきているのだ。だから、争わずにはいられない。そういう、見解が多くの研究者から出ているし戦闘に身を置く者達は薄々感じ取っている事だった。


数奇な星の巡り会わせというか、難儀な設定というか、容赦なく害獣を潰していきながらミウは呟く。争いは復讐しか生まないのに・・と。そんなミウにお前が言うな!!とばかりに殺到する複数の害獣。本来、人語を解す知能を持ち合わせない下級の害獣すらも一心不乱にミウを仕留めんと疾駆していた。突然の事にミウは面を食らう。しかし、すばやく対処し全方位へ光衝撃を発動。一撃の許にそれぞれを返り討ちにする。はぁ、自然と溜息が出た。彼女とて悪戯に殺生を好む気質ではないし無駄に命を奪う行いは避けたいと真剣に思っていた手前、気分は良くないが一方で仕方がない。所詮は弱肉強食、弱く注意を怠ったものが食われ強者の血肉と成り果てるのだ。


繁殖期というだけあって外敵に対し過敏に反応する害獣がミウの帰路を塞ぐが蹴散らされる。オーガ討伐だけのつもりが、なんでこんなことに。ミウが若干の哀愁を背中に漂わせ始めた頃、それは反響した。悲鳴、それを追う咆哮。瞬間、ミウの気配が瞬時に変わる。完全な攻撃性を表に出し聞こえた方角へと疾走する。凡そ後衛職である魔法使いの速度ではないが、あえて何も言うまい。接近するにつれ、響く戦闘音。剣戟、魔法の飛び交う音。そして、獣の咆哮。特徴的なそれからミウが判断した害獣の個体はオーガキング。ハイオーガの上位でありオーガ種を束ねる存在。


第三級カテゴリーであり、身体の強靭さはオーガの十数倍。腕力だけで一般の魔法使いが全力で展開した防御障壁を叩き割る出鱈目なパンチ力を誇り、並の人間は瞬殺される。現在地のエクシリア北西の森林地帯では確認されていない害獣個体。想像するにハイオーガから進化した可能性が高い。単純にオーガキングの子供だからオーガキングという温い育ちの奴ではない。純粋な戦士として成長してきた本物。ミウはオーガキング発見と同時に光衝撃を発動した。


オーガを容易く屠る光衝撃。オーガキングは意識外から飛来した突然の攻撃を回避できず、直撃を受けた。巨体が数m後退させられる。が、表層にダメージが留まり浸透せず、与えた損害は微々たるものだ。ミウはそれも折り込み済みで数発放ち、距離を稼ぎ襲われていた側を確認した。自分より少し下くらいの少年少女。装備からみて、エクシリア魔法学園のSクラスに属する生徒と当たりをつける。負傷しながらも死者はいない所を見ると本当に優秀なのだと少し感心した。戦士、騎士、弓使い、魔法使い二人のそれなりにバランスの良いパーティーだ。尤も、戦士、騎士、弓使いも魔法は使える。


しかし、火力や適正を考えて獲物を選んだ結果が今のスタイルなのだろう。現に戦士、騎士の装備には付加魔法が掛かっているし弓使いの矢は属性魔力で形成されている。魔法使い二人も中々できるようだ。今回は相手が悪かったようだ。第二学年の生徒で優秀ではあるが、三級を相手取るには実力不足と言う他ない。正直、自殺行為だ。ミウが偶然、森林地帯におらず、また彼らに気付かなければ全滅の運命は免れなかったはずだ。


「あのっ、・・」


「これ、治療薬とか入ってるから使いなさい。手出し無用よ」


「一人でなんて」


「調子に乗らないで、足手まといだから」


学生の疑問の声も何もかも封殺し無言の圧力で数歩退かせたミウは徐に拳を突き出す。直後、光衝撃で舞い上がった砂埃を吹き飛ばしながら拳を振り上げるオーガキングが現れる。学生達はミウが潰される最悪の光景を幻視した。しかし、結果は異なった。即死級の威力を内包した拳が振り下ろされる前にミウの拳がオーガキングの腹部を捉える。瞬間、溢れんばかりに膨らんだ怪物の腹部がたわみ、半径五cm程度の円形にへこんだ。ミウとオーガキングの体格差は数倍に及び体長は実に三倍の違いがあった。


歴然とした差、にも関わらず女性の細腕で放った拳が怪物の強靭ながら剣を跳ね返すほどの弾力性を持った腹部をへこませるという現象に学生達は怪我の治療も忘れ、呆然とする。信じられない事は連続した。予想外のダメージによろめき困惑を見せながらも拳をオーガキングは振る降ろす。しかし、怪物の意志に反して途中、腕が上方に跳ね上がる。眼下の人間のメスの拳に跳ね返されたと怪物が悟るには数秒を要し、その合間に腹部のへこみが増え、知らず知らずと血が口元より零れる。勝利と敗北を繰り返し今に至ってきた怪物。さしもの彼もこのような経験はなかった。それこそ、最初の頃は体がぼろぼろになるまで痛めつけられ、傷は炎症を起こし腫れ上がった。


しかし、今はどうだ。腫れはしない。痛みも少ない。なのに自分の体は痛烈なダメージを負っていた。それは全くの未知。生物は未知なるものが怖い。彼も、怪物も恐怖した。それを塗り潰したくて必殺の拳を蹴りを未知に向けて繰り出し叩きつけ振り下ろす。たが、一撃の例外もなく弾かれ、四肢に甚大なダメージを負う。そして、恐怖が限界に達し怪物は逃走した。ミウも逃げる者をあえて追撃しなかった。回復には相当時間を要するダメージを与えたのだ。ギルドに報告しておけば、勝手に討伐隊が結成される。後処理はそちらに、任せればいい。逃走者にミウは背を向ける。そして、一条の雷が逃走者を焼き尽くし、後に残ったのは黒焦げの死骸と突如現れた青年だった。


ミウが戦慄を感じたのは何時以来だろうか。初めて感じたのは恐らく弟関連なのだがそれは例外として実に数年ぶりだった。ミウに発動を気取らせない見事な雷撃魔法。そして、並行して発動したであろう転移・・空間魔法。直感でミウは悟る。背筋に言い知れぬ悪寒を感じつつ、これが悪魔とエルフという異色の組み合わせの許に生まれたエクシリア魔法学園三年所属、現生徒会長にして学生最強の異名を誇るノイル・アシュエル。両親から継いだ膨大な魔力、悪魔にない精緻な魔力操作能力とエルフにない強靭な肉体を持ち多彩な魔法を操る。滲み出る気配を押さえ込めてない部分は未熟だが、肌を刺すようなそれは圧倒的な強者が発する特有のもの。


「我が校の生徒がお世話になりました。学園を代表して感謝申し上げます」


開口一番、ノイルはまず感謝を口にした。模範的な態度ともいえる、清々しいほどに繕われている笑顔で。一瞬、負傷した学生達に向けた視線は愚かさを非難し、けれど無事であることに一安心している親のような目だ。真面目に生徒会長してるんだ、と場違いな感想であるがそれはミウの本音である。


「謝礼はお渡ししますが今は生徒の治療を優先したいので、後日ということでご了承ください」


「はぁ、解りました」


「では、また」


苦も無さそうに複数人での転移が可能な当たり、学生最強も伊達ではない。むしろ冒険者の最上位レベルの実力は持っていそうだ。


「あれ、これってまた会うの?」


今更だが再会の約束を取り付けられたような気がするミウであったが、遅かった。ちなみにミウがオーガキングとの戦闘で用いたのは結局のところ光衝撃で発動点を拳に設定し普通は広範囲に向けた面の攻撃である光衝撃を拳サイズに収束して放つという技法だ。狭い範囲に同威力で放たれる分、局地的な与ダメージは通常の比ではない。一点集中攻撃の方が突破力は強いのだから当然といえば当然だ。尤も自分より巨大な相手に対し臆さず前に踏み込む覚悟も必要な戦闘スタイルであり間違っても後衛のものではない。


その日はギルドで依頼の報告を終え、王都にある自宅に帰り食事、入浴後寝た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。