破壊の使徒の戦い2
今大会再注目選手となった彼の国王の第四試合、会場のステージ上では異様な光景が繰り広げられていた。大会の公式規定により個人戦では一対一の公正なる勝負が求められ、助太刀などの行為は禁止、もしも助太刀など違法行為があれば即失格となっている。それは長年、大会を観戦してきた客なら当然の常識として知っている。だが、どうだ。今、リアルタイムで行われている第四試合の様は。今大会参加者中、十数名いた各国の王族の子息つまり王子達のうち勝ち残っている者達が勢揃いして、たった一人の選手相手に全力を持って倒しに否、殺しにかかっているではないか。運営委員会より一応の説明はあった。本戦は第一、第二、第三ブロックに分けられ、ここは第一ブロックの会場であるわけなのだが、今現在戦闘中の十数名以外の選手が全て試合を棄権したという。要因は明らかに彼の王の圧倒的な武力の許に廃人同然にされた第一、第二試合の選手及び意識を失ってさえ嬲られ続けた第三試合の選手、それらの凄惨に尽きる結果に選手の将来性を考慮した結果、学園の方から棄権命令が出たのだ。
ならば、乱戦を演じている各国の王子達はどうなのか?無論、王子達の独断であり異様なまでの妄執に取り憑かれた結果だ。王子達は一人の女生徒を巡って彼の王に戦いを挑んでいる。彼の王は未来の后に群がるハエを叩いているわけだ。容赦のない無慈悲な王だと冷評する者もいるが、自分の女に手を出そうとする輩を実力を持って排除するのは当然だし、見応えがあるじゃないかと純粋に試合を楽しんでいる客が大半だ。当の本人からすれば、いつの間にかハエの数が増えて鬱陶しいことこの上ない状況なのだが、武を誇示するにはちょうど良い機会だと納得しつつある。まさに混戦の様を呈している現状況であるが、王は事も無げに払っていく。幾多もの魔法が一人に向かい放たれ、単純な魔力の障壁で防がれ、近接戦闘が得意な者が一斉に攻撃を加えても華麗に確実に躱され、反撃を受け弾き飛ばされていく。彼の王を主役とする演劇の一場面、そんな風にも見えた。
四方八方から突き出される必殺の正拳突きを紙一重で交わし、一人の腕を掴むと自身を中心に一回転し、後方で魔法を準備している選手にぶつけ、背後からの追撃を魔力障壁で防御、完成した攻撃魔法も魔力を纏った拳に粉砕される。一人の男に十数人が手玉に取られていた。力の差も歴然、実戦経験も桁違いだ。十代半という年で既に歴戦の勇士を超える覇気と風格を持ち、悠然とした佇まいから騒動もできない底冷えするような空間すら軋ませる殺気を放ちながら凛と立つ姿はまさに王者。誰もが気圧されていた。妄執を活力に抗い続ける己が如何に矮小なことか、自覚を持った選手から気を失っていった。それは正常な思考に戻った証とも言える。痺れが走り正常さが失われる程の美貌、恵まれた容姿と地位を持つ己を以てして高嶺の花と理解させられる不思議な雰囲気の少女に心を奪われた王子達は次々と自らの異常さを省み、意識を失っていく。そして、ステージ上で一人立つ王は静かに己の勝利を誇示し、腕を天に掲げた。割れんばかりの歓声が轟き大気が震えた。
壇上の王は一人、黙考する。リオンに群がるハエの排除はこれで一通り完了したが、目下差し迫った問題が一つ残ってる。それをどうするかだ。王としてもただのフィルとしても頭が痛い問題が残っていた。大会の開催直後から懸念はあったのだ。各国から様々な種族が集まる大会には人が呼吸をせねば死んでしまう、そんな自然の摂理と同様に特殊属性持ちの人間が多数いるの世の常だ。詰まる所、今現在も特殊属性持ちの生徒が多数滞在しているこの国は格好の的だ。奴ら、邪神教国の。この機を逃すほど平和ボケした脳内構造をしていない連中だ。感知できる範囲内に百人は存在を感じる。解明はされていないが、邪神の類を信奉する者は黒い鷲のように影響を受け独特の気配を持つようになる。気配というより空間の淀みという表現が適切かもしれない。正常な空間を変質させ周囲に不快感を振りまく存在、邪神を信奉する者の業であり淀みの濃さは信仰心に比例する。かつて旧エクリアで対峙した騎士は不思議と淀みを纏ってはいなかったが。それはともかく、一番の問題は混沌の属性を持つ人物を特定できていないことだった。邪神教国の、正確には教王の目的は特殊属性持ちの確保ではなく特殊属性である混沌属性を持っている者の捕縛だ。邪神復活には欠かせない要素、かつて邪神に堕ちる前、破壊神だった頃に彼の神が愛した女性。混沌を司りし美しい女性、混沌の魔力と美しさの両方が封印を解く鍵となる。だが、本当は分かっている。単なる我侭だが、分かりたくはなかった。破壊神が愛したように自分が愛した、そして愛している女性、それが答えなのだ。
彼女がいなくなる。それは恐怖、それは脅威、唯一王をフィルを根底から揺るがすことのできる事象。
そして、後悔。遠くで聞こえた爆音は間違いようもなく彼女が連れ去られた合図。理解したくないけど、理解させられた真実・事実。こんな思いをするくらいなら最初から無に帰してしまえばよかったんだ。すっと覚めていく思考の中、観客のどよめきだけが場を占める。人の女を連れ去る悪い奴らには無慈悲な裁きの鉄槌を下す。人の女を連れ去る悪い奴らに組みするならば(客観的に見て)無辜の民であろうとも葬り去ろう。再生と慈悲を司りし我なれど、破壊と暴虐も司りし我故に奴らを殺さずにはいられない。
「行くか」
「行くよ」
「行くぜ」
両隣に立った友人達とどうやら同じ境遇らしい、今現在。破壊と暴虐の許に制裁を下そうじゃないか。




