破壊の使徒の友人(男性陣)の戦い2
カイの場合。
フィルとウィルガの試合が終わり、間もなく自らの出番がやって来る。迫り来る決戦の時に対して焦りはなかった。不思議なほど感情に波がなく凪の状態で、けれど矛盾するかのような激情が、感情を塗り潰して静かに静かに水面下で増長していく。それを律する気はなかった。ニーナ、彼の唯一無二の大切な人。薄情にも思うが、今なら妹とニーナの命が天秤に掛けられれば、自分は迷いなくニーナを選んでしまうだろう。そんな自分を怖いと思う反面、それほどにニーナが愛おしい。
愛しいが故、邪魔者を許容することはできなかった。普段通り、軽くあしらう事ができなかった。何の努力もなしに権力を振るい弱き者を屈服させる悪徳貴族は十分にいけ好かないが、実力がありながら弱き者を助けず、功績もないくせに己が欲のために親の権力を振りかざし弱き物より搾取する、もっと言えば人の女を盗ろうする糞野郎共(王子共)は正直、死に腐ればいい。
世の中の淀みを排する権力を持ちながら視野狭窄に陥り、私利私欲を尽くすことしか頭にない単細胞な者にニーナを渡すなんて冗談にもならない。その点、フィルは良くできた施政者だ。確かに己が欲は全開にして日々を生きているが、欲を満たす傍らで、全体に利益をもたらしている。我侭でありながら、物事を客観的にいい方向へ運んでいける。さすが、としか言い様もない。
結論から言うなれば、頭湧いてる王族の馬鹿共はきっちりと矯正すべきということだ。人の迷惑にしかならないプライドなどへし折って再起不能寸前にする。つまり全殺し手前までは叩きのめす。そもそも、ニーナを好色な視線で舐め回すように眺めた時点で生産は決定していた。結局の所、フィルもウィルガもカイも嫉妬深く少量狂愛+純愛の彼女を大切にする彼氏というわけだが、まあフィルは未だに付き合ってはいない。その事で周囲から密かにヘタレ呼ばわりされているが、本人は謗らぬふりをしている。フィルがリオンを好いている事実は第三者の目からすれば丸分かりだったのだ。ここまで来て、まだ付き合っていないのをヘタレと呼ばず何という?閑話休題。
カイの対戦相手は雷属性の使い手で代々雷属性を受け伝えてきた由緒ある国の王族だ。尤も、第三王子で第一、第二王子の二人が優秀過ぎ、特に目立ってはいない日陰の存在で、そういう経緯から歪んでいる。カイに言わせると努力をしない愚か者となるが、一応魔法の素質は水準以上で[制約]を施すことで完全な雷属性特化となり、攻撃性能においては大陸中でも相当高い値を誇る。
[制約]とは呪いの一種で、魔法使いは自らの属性の他に基本属性である四大属性は威力の大小はあれど誰でも行使できる。[制約]は言葉の通り、自らの力の一端を制限するものだが、制限することで制限せず残してある要素を強化する呪法だ。彼の場合、四大属性を[制約]で縛り、雷属性を強化している。無論、雷属性の魔法は彼には効かないだろう。元々、単一の属性しか使えない者は魔力がないなど希少な例を除き存在しない。つまり、幾つかに自身の才能を分けて使用しているのだ。
[制約]はその才能の比重を一つに傾けられる。強さを求める者が好んでいる呪法の中でポピュラーで情報は簡単に仕入れることができた。相手自身、悪名だけは大陸中に響き渡っているような人物だ。いい意味でも悪い意味でも有名なら情報は簡単に手に入るものだ。今、決戦の幕が下ろされた。
開始早々、幾千もの閃光がカイへ殺到する。恐らく詠唱を完成させておいて、待機状態にしていたのだろうと冷静に分析したカイは殺到する閃光、雷の矢を防ぐ防御障壁を腕のひと振りで展開する。障壁とやの数だけ衝突音が発生し残響する。やがて土煙でステージが隠れてしまう。観客のほとんどはカイの負けを想像しただろう。それほど威力のある魔法攻撃だった。
しかし、土煙が晴れてみればカイの展開した障壁には傷一つなく、微塵も揺るいでいない。暫し呆然としたが相手はすぐ意識を切り替え高速詠唱を始める。唇の動きからギリギリ読み取れたそれはボルテックス・ジャッジメント別名裁きの雷と呼称される雷属性の攻撃魔法中でも最上級の威力を有する魔法だ。恐らく全魔力を注ぎ込むつもりなのだろう。どんどんと天に魔力が集中し暗雲が作り出される。
暗雲内で育った電気エネルギーはその暴威を開放せんと暗雲より溢れ出た。今度こそカイの敗北を観客は予想した。しかし、カイは造作もないと言わんばかりに暗雲全体を防御魔法で包み、雷を全て受けきった。魔力の枯渇で息も絶え絶えな相手を防御魔法を形状変化させた棒で殴り飛ばし、勝負は決した。




